───持った湯呑をバッタと落とし、小膝叩いてニッコリ笑い。
関西圏の人ならば、このフレーズを知らぬ者はない。これはパーソナリティ、浜村淳が使うフレーズである。僕の記憶が定かなら、初めて耳にしたのは小三の夏休みだった。
「午前中は外出禁止! 涼しい時間に宿題をしましょう」
これは、一学期最終日の教室で、先生に言い渡された鉄の掟だ。つまり午前中、家から一歩も出られない。ラジオ体操から家に帰れば、午前中は暇である。暇なら本でも読めばいいのに、暇を持て余した小学生は、ラジオのスイッチに指を伸ばす。ポチっとな。ラジオでは、夏休み映画の紹介をしていたと……思う。
ラジオから流れる音韻が心地いい。話す内容も面白そう。夏休みの間、朝の八時になるとラジオを聴く僕がいた。その秀悦なオープニングで、僕は毎日放送の周波数を記憶した。
いちばんに、入れるスイッチ 何でしょう? 来る日も来る日も毎日放送、1179。ありがとう、浜村淳です。
そのオープニングフレーズの記憶が鮮明なのも、我が家に初のラジカセで聞いたから?
ラジオよりもテレビを好む僕だとて〝ラジ〟に〝カセ〟が付けば話も変わる。だって、そうでしょ? ラジオにカセットだよ、カセットレコーダーだもの。この機械を使えば、音が録音できるのだ。それだけで、魔法を手に入れた気にもなる。「あー、あー」っと、自分の声を生テープに録音し、巻き戻して再生すると……これは誰の声なんだ? 買ったばかりなのに、壊れてやんの! なんだかガッカリした後で、テープが再生したのは歌声だった。母は来ました、今日も来た……オカンが歌う〝岸壁の母〟に、何故だかイラっとした記憶が残っている。
浜村淳の映画紹介は講談調で独特だ。口に出す、全ての映画が傑作だった。そう思わせる、唯一無二の話術が光る。映画館で映画を観るより、ラジオが面白いなど日常である。平日の朝に放送される〝ありがとう浜村淳です〟は聞けないけれど、土曜日の夜の〝サタディ・バチョン〟は、中学時代に欠かさず聞いた。その中にも映画のコーナーが必ずあって、邦画洋画のみならず、機動戦士ガンダム、イデオン、ルパン三世カリオストロの城、となりのトトロなどのアニメ作品も多数あった。それを、浜村節で悠長に語るのだ。
映画があって、想い出のバスガイド。アニメとリクエストの後に午前0時のバチョンクイズ。そして、24時30分からの〝夜空のトランペット〟……これが分かるアナタ、そりゃもう、お友達です(笑)
バチョンファンの間で伝説なのが〝バック・トゥ・ザ・フューチャー〟の回である。僕もリアルでラジオを聞いて、映画を観てのけ反った。だって、そうでしょ?───「未来へ飛び立つデロリアン。この続きは、劇場でお楽しみください!」その続きがエンドロールて(汗) これが笑って許されて、逆にそれが望まれた。のどかというか、寛大というか……これが昭和のよさなのだろう。
───持った湯呑をバッタと落とし、小膝叩いてニッコリ笑い。
ウィキペディアには、浪曲からの引用との記載があった。
広沢虎造の浪曲『石松三十石船』からの引用。登場する人物が妙案(もしくは悪巧み)を思いついた様を示す。「湯のみ」の部分は、話題の内容によって時折変化する。
ブログでも、小説でも。浜村節をリスペクトしたくなるのは、枯れたジジイの言葉遊びで、今日もサヨリは元気です(笑) 遠い昔の想い出話でした。
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