口伝えで聞いた話では、夜の街にはキャバクラというお店があるという。これまた聞いた話では、そこを例えるなら竜宮城のような場所なのだとか……。
バブル期にキャバクラなるお店があったなら、僕は間違いなく行っていたに違いない。だって、そうでしょ? あの時代。仕事の本番は、夜の街にあったのだから。昼間に汗を流したその後は、働く仲間を引き連れて、夜の帳へ向かうのだ。「さぁ、行こう!」上司に言われりゃ、下っ端社員に拒否権など存在しない。いつも帰りは午前様。早く帰って眠りたい……そんな日々の連続で、今日もサヨリは元気です(笑) それが僕のバブル期だった。本当に美味しい思いをしたのは、バブル世代から一世代上の話。これが分かるアナタ、そりゃもう、お友だちです(笑)
酒が弱い人を下戸と呼ぶ。下戸にとっての飲み屋通いは、控えめに言っても地獄である。居酒屋から始まって、スナック、ラウンジ……酔ったふりをして上司の後ろを歩くのも、中々どうしてストレスが溜まる。それでも、お店のキレイなお姉さんに優しくしてもらえるでしょ? それはね、酒が飲めるやつだけなのである。向こうも商売、飲ませてナンボ。にっこり笑って「おひとつ、いかが?」それすら、飲めない僕には拷問だった。ホント、酒が飲める人間が羨ましくて仕方なかった。酒豪の言葉に憧れた。
時は流れて、みんな平等に歳をとった。あんなに元気だった人たちが、天に召されたり、病院通いだったり。そう思えば、下戸でよかったと思う今日この頃。キャバクラの話をしている現場の若い子らの隣に座ると、当然のように話しを振られた。
「最近、キャバクラに行きましたか?」
「そこねぇ、一度も行ったことない。酒がね、飲めないから」
そう答えると、若い子らが特別天然記念物でも見るような顔をしている。下戸で悪かったな……でも、これも小説のネタになるかもな? 取材のつもりで話を聞いた。
「キャバクラで何すんの?」
「キャバクラでは、女の子が回ってきます」
バク転でもするんかいな?
「中国雑技団みたく?」
「あ、、、席が幾つかあって、順繰りに女の子が席を移動します」
音楽が終わると女の子たちは、席を離れて隣の席に移動するらしい。結構、キャバクラの中の空間は広いらしく、沢山の女の子が働いているそうだ……。こんな田舎じゃ、同級生と遭遇しないのか? そんな心配が頭を過るが、県外からお店に通っているらしい。つまり、岡山とか徳島の子が務めている可能性が高いという。
「そうなん。乳とか揉んでもええの?」
至極、当然の質問だ。飲むだけなら、スナックで十分でしょ?
「それは、おっパブです」
あ! それ、聞いたことある! 高松にもあるのね……。
「竜宮城みたいなところですよ、キャバクラは。女の子が名刺をくれて……」
名刺とな?
「竜宮城よりも企業みたいやね?」
そうか、そうか。僕の知る龍宮城とは、随分と様変わりをしたような……。お前、カメさん助けたのか? 鯛やヒラメに騙されてないか?
「気に入った子の名前を指名すると、指名料金が加算されます。ナンバーワン・キャバ嬢って知ってますか?」
「ナンバーワン・ホストは知ってる」
「売上の多い子がナンバーワンになる仕組みです。テレビドラマでもやってますよ」
AKB商法みたいだな。
「そっか、そっか……ごめんね。おじさん、ドラマ見ないから。で、何をするの?」
そうだよ、何をするんだよ?
「会話です」
嘘をつけ!
「それだけ? おさわりは?」
「ありません。そんなのは、それ用に───リーズナブルなお店があるんですよ(笑) どうです? 今度、キャバクラ行くときにでも誘いましょうか?」
それは、結構! こっちはね、畑に突っ立ってるだけで、昭和の乙女たちが面白い話を聞かせてくれるから(笑)
これまでの会話の中で「この子のトークが面白くて」とか、「あの子の体験談が物凄くて」とかが一切なかった。つまり、すごく可愛い女の子とお話ができる龍宮城が、キャバクラの本質なのだろう。歳を取ってからの夜遊びは、昔からどハマりすると言われているから止めておこう。そもそも、夜遊びに費やす体力に自信がない……悲しいけど(汗)
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