───会社にファックスが来た。
凄いんだなぁ~これが。
コピーも取れる最新機種である。カラーコピーは出来ないけれど、用も無いのにコピー印刷。「うぉ~」っとざわめくオフィスの中で誰もファックスを使おうとはしない。それは、スケバン刑事・夕焼けにゃんにゃん・ハイスクール奇面組がテレビで流行った高校時代、バイト先での出来事であった。
「ファックス、送信してみない?」
「どこへ?」
───昭和である。
ファックスなんて高級品。どの会社にでもあるわけじゃない。大手以外は多分無い。これは新しいモノ好きの社長の気まぐれ。ここは四国の片田舎。バブル景気はもう少し先。だから送る先が見当たらない。
裏を返せばファックスが送られて来る事もない。無駄に繰り返されるコピー印刷。そこでもらった印刷用紙。それはビアガーデンの案内状である。
「僕、高校生なんですけど?」
「大丈夫、大丈夫、お金は要らないから良かったら来てねwww」
───昭和である。
高校生が三越のビアガーデンて・・・学生指導に見つかりでもしたら退学もので、今日もサヨリは元気です。
「ありがとうございます。うれしいなぁ(棒読み)」
お礼だけを言い残し、案内状はゴミ箱へ。帰りがけにビアガーデン当日のバイトのシフトも変えて貰った。休む理由は簡単だった。登校日だからと嘘つく。完全犯罪、突っ込まれ要素ゼロである。
「コレ分かる?」
ファックス襲来から数日後、ファックスの前で社長が頭をひねっていた。新品なのに壊れたの?。まぁ、当時で言えばファックスは超高級精密機械である。ちょっとした事でも壊れそう。恐れ多くてファックスになど近寄りも出来なかった。高校生が気安く触って良いものじゃない。
───昭和である。
少し前、「この図面、焼いといて」そう言われた先輩に悲劇が起こる。図面を焼いてとはコピーしての意味である。けれど先輩はマッチで火を着け図面を灰に。文字どおりである。先輩がその後、どうなったのかを僕は知らない。その時、僕は学習した。学生たるもの、安請け合いなどしてはいけない。
「ファックスですか?、テレビCMでしか見たこと無いです」
「だよねぇ、現役だから知ってるかと思ったけどねぇ」
現役って何だよ?。
僕の仕事はキーパンチャーである。80年代半ば、キーボードが打てる人材は希少価値があった。そこにパソコン少年たちの隙間産業があったのだ。今より全然な入力速度なのに、今よりも全然な好待遇である。やめられまへんなぁ~。高校生ながらにそう思う。
「ダメですか?」
業を煮やした若手ホープの助け船。しばらくすると、ミイラ取りがミイラになった。さっきから何をしてるのか?。高鳴る鼓動、押さえ切れぬ好奇心、若いという事はそういう事である。興味半分でモニタ越しにチラ見する。
ファックスの天板を開き、見積書?をガラス板にセットする。天板を閉じて電話番号を入力。相手の受話器が上がる音。「ピー・ガジャ、ガジャ、ガジャ・・・」ビープ音が流れ送信完了のメッセージ音。
───正解である。
「用紙あるね?」
「ありますね?」
「残ってるね?」
「残ってますね」
天板から原稿を取り出しては首を捻るふたりの姿。僕の口の中のコーヒーが危ない。どうやら原稿もろとも転送されると信じているらしい。それは、スタートレックの物質転送装置。そうであるならノーベル賞ものの大発明。月へだって秒で行ける。
お相手様がお気の毒・・・。
「それで合ってます」
言うべきか言わざるべきか。けれど口は災いの元である。子供は黙ってお仕事してよ。僕は無言でグリーンモニタへと顔を沈めた。腹を押さえながらは言うまでも無い。若いという字は苦しい字に似てるわぁ♪。間一髪で口の中のコーヒーは救えたけれど、楽し過ぎて息が・・・苦しい。
───良くも悪くも昭和であった。
コメント
ふふふ(笑)。昭和‥、良いですねぇ。雉虎さんの目線で見る昭和から現在とは、様々な機器の進化を見てきた歴史でもありますね。自分とは違う目線は、とても興味深いです。ところで、少年にビアガーデン‥。昭和だわ~。昔はお正月とか親戚のおじさんが「一緒に飲もう!」なんて言っていましたからね。いや、ほんと昭和です‥ねぇ。
高校生でもへっちゃらでビアガーデン誘ってましたね。飲み屋とは違うから、ビアガーデンにはジュースあるから、ビール飲んでも良いのよ。そんな謎理論で誘われていました(汗)。それだけ時代に勢いがあったのでしょうね。焼肉だったら行ってたのに(笑)。