───大変なことになってしまった……。
再々、冬の畑に行くことはないのだが、年内にやらねばならぬこともある。シンジ君の「僕がエヴァに乗ります!」しなければ……きっと来春。地下から忍び寄る脅威によって、畑がとんでもないことになってしまうのは、火を見るよりも明らかだ。地底を蝕む厄介者───笹の駆逐作業である。こやつらが拗れる前に手を打たねば、畑が笹軍団に実効支配されてしまうのだ。年末でなんやかんやあるけれど、これはもう、自分を諫めながらの〝時は来たれり!〟なのである。
異変に気づいたのは、この九月にまで遡らなければならない……畑を始めてから去年まで。幾分かの笹の存在を確認していた。けれど、ここまでの兆候など見られなかったのに、ふと見れば、笹がおしくらまんじゅうしちゃってる───やっべ。
笹の葉に覆われて、まったく地面が見えていない。畑の防衛もあるけれど、この状態ではご近所さんからの目も痛い。とはいえ、この残暑。九月の状況で笹藪突へのリスクが高い。だって、そうでしょ? マムシ(毒蛇)がいるかもしれないし、スズメバチの巣があれば、一刹那で僕は天に召されるだろう……痛いのはダメ、絶対! だから、冬まで待つのが最善手。そうこうしているうちに、十二月も中盤を迎え、こっちとしても待ってられない。首を洗って待ってろ、笹やん! つーことで。笹やんの駆除に着手したのは、水曜日の夕方であった。何もかもがケツカッチン。
とはいえ、この量である。こっちも生身じゃ太刀打ちできない。知人に植木バサミ借りようとすれど、渋る返事ばかりが戻ってくる。かくなる上はと仕方なく、ホムセンで植木バサミを見渡せば、千円、三千円、五千円……。まぁ、いうーて華奢な茎の笹である。千円クラスで十分っしょ? そんなぶらり散歩気分で購入するも、失敗だったのは後で分かった。僕にハサミをためらう理由もそこで判明するのだが……。
今回のオペレーションはこうである。見立てでは半日あれば作業は完了するだろう。がしかし、時間の余裕と僕の体力を考慮すれば、一時間の作業を四日に分ける方が無難である。疲れ果てて寝込むなど愚の骨頂。年寄りの身体事情を舐めてはいけない。初日は、笹を刈るだけだ。
「おっさん、そんな道具でやれるのかい? こちとら、大軍勢だぜ。年寄りの冷や水もほどほどにしとけ。年寄りは、お家に帰ってクソして寝てろ」
「何を言うかね、笹やんよ。ぬけしゃーしゃーと言うんじゃないよ。適当にほざくなや。こっちは、秘密兵器があんだよ。今日はここをキャンプ地にしてやるわい!」
慌てず騒がず余裕を持って泰然たる態度でことに挑む。
あれだ……千円の植木バサミの切れ味が鋭くて、シャキシャキって音を立てながら、面白いように茎が切れた。それはある意味快感だ。その切れ味に、外柵に張り巡らせた害獣ネットを切らぬよう、慎重に迅速に、テキパキと笹やんを切り進める……なにこれ、めっちゃおもしろい。
笹の群生を切った後。笹やんの上を歩いてみれば、稲刈り後の田んぼのよう。地面に残る笹やんの茎の束が、それこそ足裏マッサージのように、僕の靴底を刺激する。そのしっかりとした茎の感触に、途轍もない不安を感じつつ、柵にぶら下がったカボチャを一個ゲットした───これぞまさしく棚からぼた餅。ラッキーじゃん(笑)
お疲れちゃーん! 本日の立役者、植木バサミを眺むれば……歯がボロボロになっていた。その時、僕は心底思う……他人様に借りなくてよかったと。こんなの絶対、弁償ものだよ(汗)
危惧していたスズメバチやマムシとも遭遇せずに、思った以上に順調に笹やん刈りを済ませれば、ようやっと本来の姿が見えたなとほくそ笑む。もう少し、あと少し。脳内で去年の姿が見えてくる。歯の欠けたハサミが残念だけれど、そんな状態でも問題なく切れ味を維持している。だから初日は、これにて閉店ガラガラなのでした。にしても、握力が……腰も、痛い(汗)
───二日目。
今日は、朝から腰が痛い……とはいえだ。この場所は、古から同じ戦いがあったのだろう。現状を鑑みれば、ここは一気に片付けるのが得策だ。けれども今日は、時間の余裕がまるでない。畑に来るのを出遅れて、山の向こうに日が沈む……。それをあざけ笑うかのように、カーカーとカラスの群れが鳴いる。イノシシも怖いが、水路に落ちるのはもっと怖い。現実的には、その可能性が遥かに高い。この高さから落下すれば、僕の足が折れるに決まってる。だから僕は、身の丈にあったことしかしないのだ。余計なことなど一切しない。やれるとこまでやったら、早々に引き上げよう。
「カッチカチやな……」
地面のスコップが立ちやしない。もう、こんなの……ガソリンぶちまけて、火をつけてやりたい気分である。それを抑えて畳二畳ほど、カチカチの土を掘って地下茎を引っこ抜く。このミッションでの本丸は、地下茎の駆除である。こいつを残すと、同じ悲劇が繰り返されるからだ。腕を引きちぎったピッコロさんの腕のように、残った根っこから、こいつらしれっと復活しやがるのだ。笹やんのような地下茎族は、ゾンビのように厄介なのです……。
だから、そんなの嫌じゃと引っこ抜く。害獣ネットを張り巡らせた、畑の外柵周りの根っこの駆除は不可能だけれど、これをやっときゃ、笹やんの勢いを抑えることは可能である。友人の畑では、鉄板を埋め込んだと聞いている。そこまでやれば、鉄壁で完璧で完全だけれど……それは僕には不可能だから、地道に根っこを引っこ抜く。笹やんとの戦いは人それぞれ……そいうことです(汗)
───三日目。
「証拠にもなく来やがったな!」
「喧しいんじゃ、観念せい! その盤石な根っこらも、今日で零落させたるからの! こっちは、たゆとうてる場合じゃねぇー!」
土をスコップで掘り起こすと、これでもかと地下茎が。これら現金だったらいいのにな。そう思いながらも、蜘蛛の巣のように張り巡らされた地下茎をギャンギャンと取り除く。嗚呼、地面が……固い……。あれだ……これだけ根っこのネットワークがあるのなら、インターネットにも繋がっていて。きっと夜な夜なこいつらも、いやらしいサイトにアクセスしてんじゃね? そうでなければ、こうはならない。太くてかてーんだわ、地下茎がよ!
愚痴を吐きながら掘り進めると、高麗人参もどきが土の中。そう、これは昭和のテレビでお馴染みだ。月曜八時の時代劇で、おとっつあんに買ってあげたい高麗人参。悪商人が、娘の代わりにくれるやつ。
「娘だけは、娘だけはぁ~。おねげーだぁ~、おでえさかんさまぁ!」
耳にタコができるほど聞いたセリフが脳裏を過るも、これ、煎じて飲んだら死ぬやつでしょ? 成就より成仏が先のやつ。くわばらくわばら……そう唱えながら草むらに投げ込んだ。たとえ松茸っぽいのを見つけても、僕ならきっと捨てるだろう。だがしかし、外柵の隙間で、とんでもないものを見つけてしまう……。この作業、もしかして宝探しか?
千円めっけ。Amazonで買ったら千円を下らない、PSB(光合成細菌)である。手持ちが底を尽きていて、買うか止めるか? そう考えていた矢先。この夏に落とした培養中のPSBを、完全体で発見したのだ。落下した場所の状態がよかったのだろう。トマトジュースは理想の色合い。来年のビジョンまでもが見えてきた。イエーイ! これを越冬させて培養しようぜ(笑)
ご覧ください、仕事の後を。刈った葉っぱと茎たちは、雑草マルチにしてやりました。定期的にスコップすれば、これでしばらく安全地帯。つーことで、ようやく年内の仕事の目途も立ち、畑の心の負担も解消された。これで気兼ねなく、小説に時間を割くことができるのだ。待たせたな、相棒! てか、危機的状況の連続で、音信不通だったのごめんなさい(汗) 明日が年内ラストバディの予定なので、週末からエンジン回してがんばります。
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