「早く行かないと終わってしまいます。急いで下さい、お父さん。」
「今さ、お父さんは忙しいから。アレをクーラー仕様にしているから。チョット待ってよ、サヨリちゃん。」
「クーラー仕様って何のですか。」
「自転車のだよ。」
「ボクのためにやってくれているのは嬉しいのですが、ホント、本当に時間がありません。巻きが入っているのですから1秒でも早くお願いします。」
「大丈夫だよ、石あかり消灯は午後10時のはずだから。そして僕らは、消灯15分前に到着するから。黙って前カゴを見ていなさい、自転車の。ヨシ出来た!、ヒエヒエだよ〜〜〜、サヨリちゃん。さぁ、乗って、乗って。乗って、座ってごらん。ヒエヒエだよ、石あかりロードへ向けて、ヒエヒエ出発するよ。」
石あかりロード終了15分前、コトデン八栗駅前
「ボクはヒヤヒヤしながら自転車の前カゴに座っていましたけれど、お父さんの予告通りにコトデン八栗駅に到着しましたね、今のところは流石です。でも、時は刻々と進んでいるのです。灯りが消えてしまうから、先を急ぎましょう。」
「その前に、八栗駅前でニャン♪ショットじゃろ。」
「そんなのこの前撮りましたから、ここの写真はもういいです。それよりマジで時間がありませんからボクは行きますよ。この際、ボクだけでも行きますよ。」
「おいおい、サヨリちゃんはせっかちさんだねぇ。キャンプファイヤーだって、あれだよ。キャンプファイヤーの火が燃え尽きる直前が一番の見どころだよ。マルナカの惣菜コーナーだって、閉店2時間から始まる半額札祭からが本当の山場なんだよ。特に今夜は牟礼の花火大会の夜なのだから、きっと対抗イベントなんてのを最後に用意してるって。山の日だし。」
「話長いわ!。そして、『マルナカの惣菜コーナー』と『山の日』は関係ないわ。そもそも何ですか、半額札祭って。もう〜〜〜、ホントに終わっちゃうから、走れ、上田!。全てまるっと、ボクを抱っこしてひた走れ。それがデカ魂だ!。いただきましたーーー。極限までSPEEDを上げろ!。」
「はいはい。サヨリちゃんは心配性だね〜、もしかして、A型かな?。そして、何気に『TRICK』と『SPEC』のセリフが入混ざっちゃってるよ。そして今は『SPEED』はあかんて。それは使ったらマズイって。」
「どうしてですか?。『SPEED』にどんな問題があるというのでしょうか?。」
「それは、人間の事情だから猫であるキミには関係ない話だよ。だからここは、心して掘り下げないように。そんな事より、ほら、見てみ。これが石あかりロード2017だよ。」
「ニャーーーーーー!。」
「・・・、石あかって無いね。閉店ガラガラ・・・だね。」
「だから急げって言ったじゃ無いですか!。バカですか?、アホですか?。お父さん、これを、この状況を、この有り様をどうまとめる気ですか?。ボクには着地点が全く見つけられませんし、ボクには出口が全く見えません。責任取って下さいよ。」
「大丈夫だよ、サヨリちゃん。石あかりの全ての灯りが消えたワケでは無いのだから。まだ、ちらほら小さな灯りが見えているでしょ?。そして、完全消灯までには、まだ10分もあるのだから。現段階で、全ての灯りは消えていない筈だから。」
「本当ですか、お父さん。その言葉を信じて良いのですか。ポツポツ光は見えますが、ボクの姿はこの光だけでカメラに映りますか?。大きな灯りは、壊滅状態にしか見えませんよ。」
「大丈夫、だいじょうぶ、ダ・イ・ジ・ョ・ウ・ブ・だよ、サヨリちゃん。多分。」
「た・ぶ・ん?!、微妙に曖昧な表現ですね。最後の下りなんか、壊れかけのロボットみたいでしたよ。正直、ボクの心配度はマックスです。今の石あかりロードはそんな空気なのですよ!。」
「良いじゃない。誰もいなくって。気兼ねなく写真撮影が出来るじゃない。」
「って、話している間にもドンドンあかりが消えて行きます。終わりだ、もう、終わりだ。」
「ほら、これなんて可愛いじゃない。ここは明るくて写真が撮れるよ。」
「石あかり、消えていますけれどね。なんか普通の夜散歩写真なのですけれど。」
「見て見て、坂本石芸社さんの前で、石の猫ちゃんが寝ているよ。サヨリちゃんも一緒に寝てみたら?。きっと、いい絵になるとお父さんは思います。」
「お父さんは、ボクを安く見過ぎです。そんな事、出来るわけ無いでしょ。何でもかんでもお父さんの思惑通りに事が進むと思うのは大間違いですにゃーーー!!。」
「でも寝てるやん。サヨリちゃん、メッチャ、くつろいでるやん。なんか、おんなじテイで伏せているやん。」
「『テイ』って何ですか?、テイって。ボクはただ、石のところが冷たいだけです。ボクは寝ているのでは無くて涼んでいるだけなのです。さぁ、思う存分、ボクを撮りたまえ。」
「清々しく、かつ、華麗に開き直ったね、サヨリちゃん。」
「人がチラホラ歩いていますね。石あかってないですけれど。」
「今夜は涼しいからね。夜の散歩に最適だわ。」
「そうですね、台風以来、涼しい夜が続いていますね。夜のお外は気持ちがいいです、伸び〜〜〜。」
「気持ちよく伸びてるところ悪いのだけれど、次、行くよ。ネクストステージへゴー!だ。」
「うわァ〜〜〜、マイペース。」
3分後…。
「あかってないね。」
「石あかってませんね。」
「終わってるね。」
「終わりましたね。」
「帰ろっか、サヨリちゃん。」
「そうですね。だから急いでって言ったのに…ビチクソ丸。」
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