友の声を聴きながら

小説始めました

――背中越しに伝わる小さな頷きに全てを悟る。

「いつから?」

「最初から」

「なぜ教えてくれなかったの?」

「あなたを支えたかったから」

――小説とは何か?。

未だにさっぱり分からない。ただ、漠然としたイメージを重ね合わせるうちに、朧が実へと変わるのが不思議であった。こうしてスーパーサイヤ人は生まれたのだろうか?。そんな気にもなる。

 とは言え、ド素人が書くのである。通信簿、万年国語「2」の実力を舐めて貰っては困る。桃太郎や浦島太郎のような単純なお話しに、尾びれ背びれを付けるのが関の山。ナス栽培に例えるのなら、真っ直ぐ伸ばした一歩仕立てで、今日もサヨリは元気です。

 ひとつの物語が出来上がる度に我思う。薄いねぇ~、トレッシングペーパーくらい薄い。雉虎さん、あんた背中が透けてるよ。陶酔から正気に戻る。馬鹿は馬鹿なりに頑張っているのだけれど、若い頃、もうちょっと勉強しときゃ良かったなぁ……。自己嫌悪のライダーキックが胸を刺す。頭のネジが何本か抜けている僕だけれど、心のネジだけはしっかり巻こう。

――そして再び迷宮に迷い込む。

 僕よりも何枚も上手な相棒がいる。だから、相棒からの助言が欲しい場面でもある。けれど、僕は影響を受けやすいタイプなのだ。これも試練と肝に銘じる。

 ただの小説ならガンガン聞いちゃう。ただの小説なのだから。でも今回だけに限ってはやり抜かないと。自分で物語を紡がなければ意味が無いのだ。とは言え、可愛さゼロのはじめてのおつかい。「あの子、ちゃんとお店に着いた?」「ちゃんとお金払えてる?」「道ばたでころんだりしてない?」そんな、相棒の心配が尽きる事も無いだろう。

――今、転んでます(汗)。

 だから、それとなくさり気なく、チョイチョイ僕にメールをくれるのだ。ありがたい事である。それがヒントになる事もある。その証拠にガッツリ物語にも反映されている。そして、僕のナスは一本字立てから三本仕立てに。もしかしたら、四方展開仕立てにまで発展しそうな勢いある。

 SF?、ファンタジー?、ホラー?、ラブコメ?……。自分でも、どのジャンルに属するのかがさっぱり分からん。でも、それを考えるだけ時間の無駄である。だから、読み手が決めてくれれば良いだけの話だと勝手に思っている。

――ここから先は書きグルイ。

 ストーリーの整合性も取れている筈である。だから書くのみ。なのに物語の尻から書き始めている。頭からは書けないのだ。書き出しが気に入らない。だったら、書けるところから書いてしまえ作戦である。僕のやり方はこれで合っているのだろうか?。そうは思えど、悩んで書けなよりもマシである。テテテテと決め手の話から埋めていこう。

 全国のよい子のみんなが夏休みの宿題を提出する頃。仮仕上げの小説を相棒に届けるつもりで書いている。世に出すまで3ヶ月の余裕を持たせて置きたい気持ちがあるから。そこから先は相棒の手腕にお任せしたいと考えている。書いた先のビジョンが僕には全く描けない(汗)。

 そんな事を想いながら、最終話を煮詰めていると相棒からのメールが届く。そのメールには、友の声が添えられていた。他の人ならどうするのだろう?。喜んで再生するのだろうか?。僕にはそのファイルが開けない、声を聴くのが怖いのだ。あの日、僕は正気じゃ無くなった。だから、今も正気を保てる自信がないのだ。明日も仕事だ。眠れなくなっても困るから。

――今夜はやめておこう……。

 3分40秒と2分48秒、ふたつの音声ファイルをダウンロードし、いつでも聴ける状態にしてから僕は床に着く。翌朝、彼女の声を初めて聴いた。イヤフォンから僕の耳に流れ込んだのは薩摩のそよ風であった。

――この人は口調までもが優しいのな。

 賢くて、優しくて、気立てがよくて、芯のとおった、薩摩おごじょの声である。不思議と昔から知っていたような響きでもあった。ふたつの音源を穏やかな気持ちで聴き終える。元素と原子の話なのに、「苺ジャム好きだけどね……」彼女らしいな。その語らいに笑みが零れた。優しさとは強さの裏返しである。この場で友の全てを語ることなど不可能だけれど、その強さに僕の心臓が大きく揺れた。

 無知で才能無き者が手探りで物語を紡ぐのである。自信など何処にも無い。「根拠無き」の冠は若者だけの特権なのだ。でも、根拠無く進むしか無かった。未熟な文章を読み返すたびに何かが違う。ガッカリ感に打ちのめされ続ける毎日である。そんなの、凹まない方がどうかしている。だから、凹む度に彼女の声を聴こう。優しく背中を押されるような気がするから。書くべき事も山ほどある。

自分で勝手に決めた小説ごっこは、まだ始まったばかりであった(笑)。

コメント

  1. 雉虎さんの友はこの記事に何をコメントするだろう?。過去記事を拝読すると…、こんな声が聞こえてくるようです。「万年国語2?。アヒルちゃんの卵はピータンになるんだから。高級なんだから。珍味なんだから。小説家の卵さんが人生で初めてで1度だけしか出来ない事。処女作の執筆、それは出来映えとは別の価値ある事です。処女作は売れっ子作家さんだって1つだけ。小説を書いた者全てが平等に持つ1つだけの特別な素晴らしい小説です。」ね?、どうでしょう?(笑)

    • そうそう、彼女ならそう言うでしょう(笑)。何があろうと必ず励ましてくれる人でした。持ってるものは全部出し切らないとデス。その先に何かあるかもしれないし(汗)。

  2. 心臓がえぐられるほどの想い
    生きること
    愛すること
    書くこと
    すべて満ちる日々なんだなぁ。
    苦しいけど

    • 苦しい分だけ得られるものもあるのでしょう。それがカタチになったら、それだけで喜んでくれる人だから。頑張らないとデス(笑)。

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