2023-12

小説始めました

のんちゃんのブログ王〝010 ポメラ〟

010 ポメラ あのコメントは本物だった。 旅乃琴里たびの ことりが書いたのだ。その事実が発覚したのは、コメントが書き込まれた翌日である。ご丁寧に、出版社からの謝罪メールが届いたのだ。俺のブログは、余程の炎上っぷりだったのだろう。その対応の早さに驚くばかりだ。───先日の書き込みは、旅乃琴里本人によるものです。大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申しあげます。つきましては、旅乃琴里からの書き込みの削除をお願いいたします。 謝罪という名の削除依頼だった。 けれど、あのコメントが本人だったとは……。俺は、優秀なスタッフに旅乃琴里が守られていることを理解した。都市伝説だと思われていた旅乃琴里の鉄...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝009 ラノベ作家 旅乃琴里〟

009 ラノベ作家 旅乃琴里 俺たち放課後クラブのメンバー全員、無事に中学を卒業した。そして今、高三の二学期を過ごしている。その間、誰ひとり恋愛成就を為し得なかった。それがとても残念である。 のんがいる俺だけを除いてな(笑) 俺は、炎上チャンスを狙うブロガーになっていた。そんな俺のブログに大事件が起こった。有名人からのコメントが入ったのだ。コメ主は、今をときめく旅乃琴里たびの ことりだ。さしずめ、村の盆踊りにトップアイドル登場である。予期せぬスターの降臨に、俺のブログは萌えに燃えた。 俺だって暇じゃない。年がら年中、ブログをチェックしているわけでもない。コメントを読むのは就寝前だと決めている。...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝008 のんとゆい〟

008 のんとゆい ウチは、短い登校拒否を卒業した。でも、やっぱ初日、学校へ行くのが辛かった。一度刻まれたトラウマが、ウチの心を暗くする。また、シカトされるに決まってる。そう考えただけでも嫌になる。 それでも、朝。制服に着替えた姿を、ママの店の大きな鏡に映して身支度を整えた。これがウチの戦闘服だ。ピシッとした姿で、あの子に挨拶するんだ───『おはよう』って。 中学に入ってから、教室に入る瞬間はいつも怖い。勇気を振り絞って扉を開く。すると、ウチの姿を見たクラスメイトの動きが止まった。ウチの心臓もたぶん止まった。ウチの膝がガタガタ震えた。「ゆいちゃーん。おっはようねぇ!!!」 静まり返った教室で、...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝007 ゆいとのん〟

007 ゆいとのん ウチは最低の女だった。 〝のん〟をいじめた。小学の頃、仲間といじめた。ジメジメいじめた。とことんいじめた。憎らしかったんだ。あの子。 大人しくて、頭がよくて、可愛くて。その上、体が弱いものだから。男子も先生も、どいつもこいつも、あの子にばかり───優しいの。可愛いから依怙贔屓えこひいき? だからって、なんなのよ。超ムカつく。 抜けるような白い肌と、男子を惹きつける顔立ちと、何よりも眼鏡から覗く、あの瞳が気に食わない。何よ、あのまつげ───長すぎよ! あの子の何もかもが気に入らない。だから、眼鏡を隠してやった。あの子、ド近眼だから。分厚いレンズの眼鏡がないと、教科書だって読め...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝006 中一の夏〟

006 中一の夏 中一の夏休み。 俺は去年のリベンジに燃えていた。右も左も分からない、そんな小学生が初手から炎上を巻き起こしたのだ。火事になれば野次馬も集まる。そこからの全削除。その屈辱を乗り越えて、今日も俺は記事を書く。校長室と、俺の波乱と、オカンの雷を呼び込んだじいちゃんのカブトムシ、あれから二度目の夏が来た。 アホな少年の生き様を、偶に覗く読者もいるのだろう。アクセス推移も、一定のラインから減少することもなくなった。ささやかな数字だけが、俺のモチベーションの源である。きっと、読者の多くは同世代。それは、なんとなく理解している。ならば、この夏の記事ネタも、去年と同じに決まっている。夏休みの...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝005 小さなパパ〟

005 小さなパパ 百円欲しさにツクヨのお世話。 そんな春休みも、あっという間に終わってしまった。そして、俺は小学生から中学生になった。入学式という名の、大人のアップグレードを無事に完了させたのだ。 桜木も俺と同じ公立中学に通っている。オッツー、アケミ、そして、ゆき。俺たち“放課後クラブ”のメンバーは同じ中学へ進んだ。小学校から中学校へ。俺の交友関係は、そのまま引き継がれるカタチになった。てか、うどん県ではこのルートが通常である。私立が強い他県とは、学校事情が随分と違うようなのだけれど。 ついでに説明しておこう。放課後クラブとは、幼稚園時代に勝手に結成したチーム名のようなものである。その目的は...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝004 姉貴と姪っ子〟

004 姉貴と姪っ子───アヤ姉が家に帰ってきた……でも、なんで? 何があったか知らんけど、姉貴殿が姪っ子を連れて出戻った。姉の名前は文香あやかである。俺は物心ついた頃から“アヤ姉”と呼んでいる。弟が言うのもアレだけれど、アヤ姉は美人である。 日本人離れした彫りの深い顔立ち。それに加えて、健康的な小麦色の肌とほっそりスリムなモデル体型。そんなアヤ姉を男どもが放っておくはずもない。幼い頃、俺は美人の恩恵を受けていた。「ねぇ、ボク? キミは、文香さんの弟かい?」「そだお(笑)」「そっか、似てないね(笑)」 美人の弟は得である。おもちゃ、お菓子、アイスクリーム……。入れ替わり立ち替わり。家に知らない...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝003 屈辱の校長室〟

003 屈辱の校長室 お盆が明けた夏休み。 俺たち親子は、なぜだか学校に呼び出された。静かな校庭、静かな教室。子どものいない学校は、寂しさよりも恐怖を感じた。校庭の隅の巨木から、聞こえる蝉せみの声だけがやかましい。 抜けるような青空と海に浮かんだ入道雲。誰の目からも、今日は絶好の海水浴日和のはずなのに、俺たち親子の気分は曇天だった。ほら見てみ?……俺の隣のオカンから、今にも雷が落ちそうだ。その先で、ゲリラ豪雨だけは堪忍な(汗) 俺たちが待たされているのは職員室だった。花壇に植えられた大きなひまわりが窓から見えた。黄色い花にミツバチが。そうだ! 今日は気分を変えて、ブログにミツバチの写真を投稿し...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝002 小六の夏〟

002 小六の夏 ブログの相談をした翌日の午後、桜木が俺の家にやってきた。礼儀正しい優等生は、大人たちからの信頼が厚い。当然のように、我が家でも顔パスである。クラスメイトには頼られて、大人たちには一目置かれる存在だ。桜木にはその魅力があった。敵に回すと厄介だけれど、味方にすれば最強だ。俺が手放すはずもない。桜木君、俺は一生ついてゆきます!「あらあら、あらあらあらあら。桜木君、いらっしゃい(笑)」 今日のオカンは“あら”の数が四つも多い。今日の“あら”は、今年最高記録の“あら”だった。 桜木へのオカンの対応。それは、他の友だちと明らかに違っている。声のトーンからして違うのだ。今日の声は、いつもに...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝001 じいちゃんのカブトムシ〟

001 じいちゃんのカブトムシ 俺の名前は飛川三縁ひかわ さより。 四国の片隅で暮らす高校生ブロガーだ。“三縁”と命名したのはじいちゃんである。“三つのご縁に恵まれますように”の願いを込めて。しかし、俺は“サヨリ”の響きが気に入らなかった───細魚サヨリは魚の名だ。海育ちの俺たちが、子どもの頃から釣り馴染んだ魚の名前だ。一ミリだって俺の名前はキラキラじゃないのに「サヨリ? 魚の? マジっすか?www」 そう言って、俺の名前はイジられる。それが、とても不快だった。でも、それが高校に入ると割とお気に入るのも、思春期の七不思議と呼ぶべきだろう。初めて会う誰しもが、一度で俺の名前を覚えてくれる。このメ...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝000 プロローグ〟

000 プロローグ───いつか、あなたの小説が読んでみたいの……無理を言って、ごめんなさい。忘れてね……。 彼女は俺のブログの読者であった。顔も知らない、声も知らない。文字を介した交流から六度目の秋。その言葉に心臓が揺れた。ブロガーに小説が書けるのだろうか? それは、今でも心の中で燻くすぶっている。 秋が過ぎ去り、雪の季節。俺は彼女の街に来た。彼女の望みを叶えるために。クリスマス、待ち合わせの場所。そこで、俺は彼女に声をかけた。口から心臓が飛び出すような、そんな緊張を隠しながら。「はじめまして」「は……はじめまして」 彼女の透きとおる肌が眩しく見えた。彼女の声は優しかった。「クリスマスのお届け...