飼い猫信長と野良猫家康(チャッピー)
八月の満月の夜。山の中腹の祠ほこらの前に、老いた猫の姿があった。雪が如き体毛と、闇を思わす漆黒の虎柄が神々しい姿で佇たたずんでいる。山里の猫たちに閻魔えんまと呼ばれる老猫は、静かに月を眺めながら仲間たちの集結を待っていた。時折、己の運命さだめを呪いながら、閻魔は深いため息を漏らして……いた。 一間半(273センチ)ほどの巨体を持つ、閻魔はこの地の者ではない。生まれて間もなく、この地へ迷い込んだのだ。閻魔が生まれた世界では、人間の手厚い愛情を受けながら、ゾウ、キリン、サル、フクロウ……。様々な動物たちに囲まれて、閻魔は楽しく暮らしていた───チャッピー。幼き閻魔は、そう呼ばれていた。 ある晴...