2025-04

小説始めました

後ろの席の飛川さん〝011 七月に、人類が滅亡するってホントかな?〟

今ボクは、飛川家のダイニングテーブルの前に座っている。ボクの隣にゆきさんが、ボクの前には飛広コンビが座っている。アウェイでプレイするサッカー選手。その心理が、よく分かる。 飛川先生はキッチンで、アジフライを作っている。飛川家では、女子をお姫さま扱いをする習わしなのか? 先生だけが働いているのが、とても気まずい。 それよりも、ボクは他所さまのお宅に伺うことにも慣れていなくて、なんだかとても居心地が悪い。借りてきた猫のように背中を丸めて、ボクは一点を見つめている。猫の箸置きが……愛らしい。「ど?」 真っすぐな目で、ボクに問う広瀬さん。きっと、今日の感想を訊いているのだ。ボクには、彼女の心が見えてい...
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後ろの席の飛川さん〝010 胃袋に魚を入れるまでが釣りだから〟

広瀬さんがこよなく愛する小説家は、広瀬さんの身近な人だった。その衝撃にたゆたう暇を、飛川さんは与えない。 というよりも、さっきから殺気立っている。釣りはもっとこう、のんびりするもの……でもなさそうだ。「きいちゃん、時は来たれり!」 そう言うと、海を指さす飛川さん。飛川さんは、軍人さんか?海面に視線を落とすと、なんだこれは? 魚の群れが、まるで巨大な生物のように海中をうねっている。飛川さんは、これを見越して「潮目がいい」と言ったのか。 慣れた手つきで、飛広コンビが巧みに短い竿を操って、ジャンジャン魚を釣り上げる。これぞ、瀬戸の釣りガールって感じであった。 釣りの仕掛けは単純で、小さな針が五本付い...
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後ろの席の飛川さん〝009 海には保護者同伴で行きましょう〟

ベンツを操るおっぱいゾンビが、広い国道から狭い山道へと進路を変えた。ボクらを乗せた赤いベンツだ。 山道に入った途端、車内がシーンと静まり返った。頑なに、ゾンビを否定するボクだとて、この沈黙には並々ならぬ恐怖を感じる。 あの飛川ひかわさんが、ひと言も喋らない……。 ボクは密かに腰を浮かせ、ドアのレバーに指をかけ、逃亡準備に取りかかる。こんなところで、喰われるものか! アップダウンを繰り返した山道の先で、ウインカーを上げ速度を落としたおっぱいゾンビが、小さな駐車場でエンジンを止めた。 船着き場、漁船、堤防……どうやら、目的地は漁港のようだ───人がいる! こんなうれしいことはない。車窓から見える人...
畑の話

初収穫!よつぼし苺、食べました(2025)

───2025年4月24日(木) 前回の畑の近況報告へのアクセスが思いの外よかったので、味を占めてシリーズ化しようと思います。週に一度のペースなら、野菜の成長度合いがよく分かります。サツマイモの収穫時期(十月中旬)くらいまで、記事ネタに困ることもなさそうです(笑)よつぼし(苺) 今年で三度目のよつぼし苺。本日、待望の初収穫でございます(笑) 大きな粒のサイズなら、スーパーで見る苺に引けを取りません。みんな大好き、ショートケーキの上の苺よりも大きいです。全部このサイズになればいいのにな……大きな実を作るには、花の段階で間引くのでしょうか? 洗って冷やして食べてみると……当たり前ですけれど、やっぱ...
畑の話

よつぼし苺の実が赤く色づいた(2025)

───2025年4月22日(火) 畑のゴミの廃棄の準備で、今日は畑に寄りました。使い終わった、不織布・ビニールシート・マルチや折れた支柱が主なゴミです。小さな畑ですから、ゴミの量は大したものではありません。ですが、数が少ないうちに処理をするのが楽なので、そうしています。 水曜日は雨の予報が出ているので、水をやることもなければ、笹の処理も概ね終了。これといった用事もありませんから、鬼の居ぬ間に畑の洗濯です(笑) そんな、ぶらり散歩気分で畑を見れば───苺(よつぼし)が赤い! 食うべきが、食わざるべきか……そこが問題ではありますが、赤い実の裏側。日の当たらない部分がまだ青く、かといって、熟せば虫の...
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後ろの席の飛川さん〝008 担任教師の落とし方〟

目の前で繰り広げられる、恋愛ドラマをボクは見た。 デートの誘いを直視するなど、最初で最後の見納めだ。その興奮が冷めやらぬうちに、午後の授業が終わってしまう……。 ボクの後ろの席では、五枚の入会届をニヤニヤ見つめる飛川ひかわさん。いかにも悪代官って顔をしている、悪い笑顔だ。 デートをキメた津島君は、その場で入会届にサインした。平岡君は、活動不参加を条件にサインした。 平岡君にサインをさせたのは、他でもなく津島君だ。結局のところ、ボクの出番はどこにもなかった。 午後の休憩時間で、ブログ王が三冊売れた。お客は男子のみである。広瀬さんとお近づきになれる。そのチャンスは、ブログ王だけある。きっと明日から...
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後ろの席の飛川さん〝007 広瀬さんの闇バイト〟

後ろの席の飛川ひかわさんが、食事を済ませて席を立つ。「きいちゃん……私。必ず生きて帰るから」 大げさな、死にはしない。職員室でお叱りを受けるだけだ。「飛川さん、御武運を」「うん、月読つくよがんばる!」 大きなリュックを背たろうて、飛川さんは職員室へと旅立った。飛川さんがいない教室は、驚くばかりの静けさだ。 これぞまさしく読書タイム。喜び勇んで〝仮面の告白〟に手を伸ばす。中学生のボクにとって、三島作品は刺激が強い……だが、そこがいい。いただきます。 本に視線を移すや否や、前の席の広瀬さんが、ボクの方へ振り向いた。無言で見つめる眼差しに、ボクは気まずさを感じてしまう。いつ見ても美しい顔だ……。「本...
畑の話

苺がそろそろ(2025)

───2025年4月18日(金) 畑の近況報告をば。今回は、数が多いのでブログ風で(笑)よつぼし(苺) もうちょい頑張れば、よつぼし苺が食えますなぁ(笑) 気のせいでないのなら、今年は実がたっぷりって予感がします。小さい実を間引きしたとて、数の確保はできそうです。土がよかったのかもしれませんね。 一本だけ生き残った、初代の苗も元気です。実は小さいので観賞用です。ランナーを育てて来年リベンジ(笑)茄子 葉っぱが切れてバラバラになった苗は、そのまま枯れてしまったので、新たな苗を購入して植えました(八十円)。どちらも、もうちょい元気がほしいところ……。九条ネギの勢力に負けてるのかな?トマト トマトも...
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後ろの席の飛川さん〝006 おっぱいゾンビ〟

四月も半ばを過ぎた頃。飛川ひかわさんが事件を起こした。「ねぇ、きいちゃん」 後ろの席の飛川さんは、いつも笑顔で問いかける。「ゾンビの知り合いっている?」 満面の笑みを浮かべる飛川さん。勉強のしすぎで壊れたか?「そうですね、今のところ……いませんね」 ボクは冷静に対処する。「私、ひとりだけいるの。ゾンビの知り合い」「そ……そうなんですね」 重症だ、後で保健室の先生に相談しよう。カウンセリングが必要だ。「あれれぇ。きいちゃん、反応が薄いのね」 この場合「ぎょえぇぇぇ!」っと叫べばよかったのか?「ゆきちゃんって名前なの」 新キャラのお出ましだ。一時間目のチャイムまで五分ある……少し遊んであげるとしよ...
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後ろの席の飛川さん〝005 こいつはダメだ〟

明光めいこう中学に入学してから早いもので、一週間が過ぎ去った。ボクは相変わらずのボッチだけれど、イジメなき世界は素晴らしい。「ねぇ、きいちゃん」 後ろの席の飛川ひかわさんは、いつも笑顔で問いかける。「きいちゃんは、小説を書かないの?」 教えてあげよう、飛川さん。小説家は、ハイリスクでローリターン。割に合わない職業なのだ。断言しよう。『オモロない』のひと言で、ボクの心は闇落ちすると……二発も喰らえば息絶える。「ボクには、そんな才能ないですからね。やっぱり、作家先生のサポートがしたいかな……」 飛川さんは残念そうな顔をするのだけれど、ボクにはボクの道がある。「小説を読むの───そんなに好きなら、何...
畑の話

強風続きで、ナスの葉っぱがバラバラです

───2025年4月10日(木) 夏野菜の準備もひと段落。さりとて、種の発芽が気になって、畑に行くと事件です! アイキャッチ画像でお気づきだろうか? 辻斬つじぎりに襲われたかのように、ナスの葉っぱが切れてます!───このバラバラ事件の犯人は、やはりハキリの野郎だろうか? 第一容疑者に浮上したのがハキリムシ。こいつは苗の葉っぱを切り落とす。とても手癖の悪い虫で、去年はマスクメロンの新芽を軒並みやられた。その苦い記憶が蘇るのだけれど。この現状……果たして、ハキリ野郎の仕業だろうか? ここまで育ったナスの茎。それを切る猛者もさともなれば、ゴジラ上陸くらいの脅威である……そんなことって、ある? そもそ...
畑の話

スイカの種まき(2025)

───2025年4月8日(火) ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば……もうちょっと、風流に鳴いてくれないか? 山の麓ふもとでせわしなく、カラスとホトトの大合唱。おまけに暴風だって、春何番だよ?……営業妨害も甚だしい(汗) それに加えて玉ねぎの葉が倒れてる……つまり、待ったなし! これそまさしく、収穫のサインなのである。 やりたくないけど、やりますかぁ! おやおや……アスパラガスは初物だ(笑) 玉ねぎを収穫すると、畝うねがひとつ空き家になった。実に寂しい……サツマイモを植えるべく、古い黒マルチを剥がして、牡蠣殻かきがら石灰を振り撒いた。そして丹念に土を耕し、新たに黒マルチを施した。蔓ボケするから...
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後ろの席の飛川さん〝004 先駆者、飛川月読〟

後ろの席の飛川ひかわさんは変わり者だ。その表現に問題があるのなら、先駆者せんくしゃと言い換えてもいいだろう。パイオニアだ。「きいちゃん、おはよう」 学校の下駄箱の前。甲高い声で、朝のあいさつをする飛川さん。「飛川さん、おはようございます……げっ!」 制服のスカートの下に体育のジャージをはいている。これって……セーフなの? 教室に向かって並んで歩くと、飛川さんが歩を進める度に、パカパカと上履きが音を出す。 飛川さんの制服姿は、上着の袖は指先まで覆い、スカートは膝小僧をすっぽりと隠す。上から下までブカブカだ。これもまた、小柄な飛川さんの成長を見越してのことであろうけれど……。 ボクは飛川さんの服装...
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後ろの席の飛川さん〝003 便所飯の脅威は去った〟

平岡修斗ひらおかしゅうと君からの助け舟で、便所飯の脅威は免れた。平岡君に吸い込まれるように、ボクは彼の席へと移動する。「まぁ、黄瀬きせ君。ここに座んなよ。にしても、すげぇ~のな。飛川月読ひかわつくよだっけ? 夢が花嫁って、ピュアの申し子って感じだな。それとも、ウケ狙いかな? でも、あの子……どっかで見た気がするんだけどなぁ。思い出せないのがモヤモヤする」 平岡君が首をひねる。飛川さんの容姿に、ボクも同じことを感じていた。彼女は、芸能人や有名人の誰かに似ているのだろうか? そう言われたら……誰かに似ている。「そんなことより、飯だ、飯」 制服の上からもうっすら分かる筋肉が、彼の自信の源なのだろう。...
畑の話

トマト、ナス、キュウリ、ピーマンの苗の定植(2025)

2025年4月6日(日) 桜吹雪を眺むれば、そろそろ頃合いの気配を感じた。やっとけ……か? いずれにせよ、今週は夏野菜の定植をしなければならず、どうせなら早く済ませたい。そんなぶらり散歩気分で、スーパー(マルナカ)とホムセン(ダイキ)で、トマト、ナス、キュウリ、ピーマンの苗を一本ずつ購入した。スーパーは70円台でホムセンは80円台の苗ばかり。この10円の差が後に響くか否か? 今年も興味本位の実験である(笑) 値段が値段だけに品種がよくわからない。ピーマンは京みどり。トマトは共にホーム桃太郎。スーパーのナスは千両二号で、ホムセンのナスには中長ナスと書いてあった。200円代台、300円台の苗もある...
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後ろの席の飛川さん〝002 学級委員長は瀬戸の花嫁〟

これから学級委員長の発表だというのに、飛川ひかわさんはネームプレート磨きに精を出し、広瀬さんは時が停止したように、ぴくりとも動かない。 我が明光中学は、ひとクラス三十名の三組編成で、受験テストの順位で振り分けられる。上位の三十名は、ボクが所属する一組だ。そして、新入生が慣れていない今回に限り、入学試験の成績トップが学級委員長に任命される。副委員長は二番手である。スクールカースト……いやだ、イヤだ、嫌だ……。そんなものになりたくない。 ボクは図書委員になると決めていた。夏は冷房、冬は暖房。設備環境が整う図書室で、ボクは三島文学を満喫するのだ。図書委員の肩書きさえ手にすれば、誰にも邪魔されることは...
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後ろの席の飛川さん〝001 悪しき習わし自己紹介〟

001 悪しき習わし自己紹介 あがり症のボクにとって、自己紹介とは学校の悪しき習わしだ。刹那にボクの顔面が、血の赤に染まるのが分かる……ドクドクと心臓が波打って、焼けるように顔が熱い。ボクの後ろの席から伝わる、背中の振動と相まって、生き地獄とはこのことだ。早くお家に帰りたい。ボクの気持ちなどつゆ知らず、己の才能と知識を見せびらかすように、クラスメイトの自分語りが始まった。こんなの、自己紹介という名の自慢大会じゃないか! 承認欲求の塊に、ボクの叫びは届かない……憂鬱だ。 ボクが通う明光中学は、県下有数の進学校である。中学生といえどもプライドは高く、夢のスケールもかなり大きい。医者、学者、官僚、弁...
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後ろの席の飛川さん〝000 ネームプレートの都市伝説〟

000 ネームプレートの都市伝説 卒業式の日。ネームプレートを交換したカップルは、将来必ず結ばれる─── 登校初日。小耳に挟んだ情報では、ネームプレートの争奪戦が、今年も盛大に繰り広げられたらしい。ふふふ……ぬるいな。実にぬるい。机上に彫られた謎の窪み。ボクはそれを見つめてほくそ笑む。 だって、そうだろ? 友だちいない歴、十三年目のボクである。この学校の誰よりも、現実の辛さを知っている。小学時代は給食だった。だから便所飯の経験こそないけれど、イジメの辛さは体験済みだ。それに、不登校……引きこもりの日々だって。 引きこもり生活で出会った文豪たち。三島も太宰も、苦悩ばかりの小説じゃないか。太宰の名...