
後ろの席の飛川さん〝025 誰にでも、特別な木があるものだ〟
飛川ひかわさんのレクチャーが終わると、老人たちから拍手が湧いた。───オッツーがね。オッツーがさ。それは、オッツーなのだから……。 ボクには惚気のろけにしか聞こえない。 それなのに、誰もが良質な恋愛映画を見終えたような顔である。目頭を押さえるおばあさんに、ウンウンと頷うなずく飛川さん。その笑みに、ペテン師だなとボクは思った。広瀬さんの薄い表情を鑑みれば、彼女も同意見のようである。「ところで月読つくよちゃん、専用の脚立は?」 そんなアイテムがあったのか? 麩菓子ふがしをくれたおばあさんが、思い出したように話題を変えた。「もうないの……」 しょぼんとして、がっかり顔の飛川さん。その脚立、壊れたの?...