ブログ王スピンオフ

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白い本棚

───今日、本日。 十二月一日(日)は、早川花音はやかわかのんの十九回目の誕生日である。朝早くから、放課後クラブのメンバーたちが、俺の家に集結し、さながら文化祭前夜のような騒ぎになっていた───もちろん、お誕生会の準備である。「おはよう、ツクヨっち。早起きして偉いぞっ!」「わたしのオッツーが来ましたわよぉ~!」 モーニング・オッツーを見るや否や、ツクヨのうれしさ爆発だ。その隣でゴシゴシと、忍がしきりに目を擦る。黙っちゃいるが、忍はとても眠そうだ。そんな忍に、俺は感謝の気持ちを言葉にした。「忍ちゃん。のんのために、朝早くからありがとな」「……お前もな」 俺に対する忍の塩対応は、二十四時間変わらな...
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きいちゃん

「今日から、お前。オレらのパシリ決定なっ!」 五年生の二学期初日。林はやし君の宣言に、ボクの地獄が始まりました。ボクはイジメの対象になったのです。十月まで我慢して、その我慢が限界を突破して、ボクは不登校になりました。もう、ボクなんて……どうでもいい。その日から、ボクの時間は止まりました。スマホから見えるネットだけが、ボクの世界になりました。ネットの海で、とあるブログと出会いました。カブトムシさんのブログです。 そのブログは、他のブログと違って、ほっこりしてクスっと笑う。日記のようなブログでした。膨大な記事の中に、小学生時代に書いた記事までありました。あんなブログが書けたらな……ボクはそう思いま...
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ゴムとガム

「マサヨシーぃ! 今夜はシチューよ」「やったー!」 この会話を最後に、かあちゃんは死んだ。轢き逃げ……いや。オレに言わせりゃ、殺人だ。かあちゃんの葬儀が終わってすぐに、オレは犯人探しを始めた。それは、十九歳になった今でも続けている。「マー君。もし、犯人を見つけられたとして、ひとりで犯人を捕まえられるの? どう頑張っても、小学生が大人の腕力には勝てないわ。ねぇ? 捜査は警察に任せて、友だちが通ってる道場を覗いてみない? 犯人探しは、強くなってからでも遅くないわよ」 小学生のオレに、姉ちゃんが言う。オレの身を案じての提案だった。学校帰りに道場へ通っている間、オレの身は安全だ。姉ちゃんに引きずられる...
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一大事

久々に喫茶グリムへ入店すると、オレを見るなりママが言った。「あら、イケメンちゃん。お久しぶりねぇ~。すっかり、元に戻っちゃって! ツクヨちゃんがイケメンちゃんに会えなくて。ずっと、寂しそうだったわよん。このぉ~、女泣かせぇ(笑)」 もう、十一月である。お盆に丸坊主にしたオレの髪は、すっかり元の長さに戻っていた。「あれ、サヨっちは?」 オレが店内を見渡していると……「お盆以来ですね。お久しぶりです、オッツーさん。三縁さよりさんは今日、新人賞の授賞式です。ツクヨちゃんは、お家でお留守番しているみたい」 のんちゃんが、カウンターの中で誇らしげに微笑んでいる。授賞式……? しまった、今日か。忘れてた…...
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告白宣言、やしまーる

「忍ちゃん。やしまーる、やしまーる!」 かわらけを投げ終えて、ツクヨが〝やしまーる〟に向かって指さす。「ぎょい!」 忍がツクヨに敬礼ポーズを取っている。にしても……「はい」とか「了解」とか「ラジャー」じゃなくて「御意ぎょい」なのね? 最近の小学校では、戦国武将が流行っているのか? 忍の返事に気をよくしたツクヨの顔が、オッツーに向けられた。「オッツーもぉぉぉ!」 まぁ、そうなる……。オッツーの背中をツクヨが押すと「はい、はい。行こうな、ツクヨっち(笑)」 オッツーからの色よい返事に、ツクヨの顔から二ーッと笑みがこぼれ出た。それは、オトンが嫉妬するほどのよき笑顔。これでもかと、小さな広角が上がって...
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女の子同士のひみつ

オッツーが美男子になった翌朝、のんが俺の家に来た。「おはようございます。わたし……早川花音はやかわかのんと申します。三縁さよりさん、いらっしゃいますか?」 玄関に爽やかな風が吹き抜けて、オカンの奇声がこだました。「さ、さ、さ───三縁ぃぃぃぃぃ! 美人が来たよぉ~!」 それはたぶん……絶叫だった。二階の部屋から階段を降りると、オカンがすがるような目で俺を見る。オーバーオールに白いパーカー。白い野球帽を手に持って、ボーイッシュな出で立ちから、滲にじみ出る美しさ。のんである。そうかい、そうかい。それは、そうなのだろうけれども。可愛い我が子に、そのリアクションは酷くはないか? 階段から降りる俺を見た...
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へんしん!

俺は恥ずかしかった。とても、とても……恥ずかしかった。もう、お家に帰りたい。何かを思っただけなのに、ウィーン、ウィーンと頭の上で踊る猫耳。それを動かすモーターから、頭皮に伝わる小刻みな振動に、不快な気分しか感じない。 なぁ、ゆきよ。いつからお前は、そんな悪い子になったんだい? 恨めしい目で俺が睨むと、ウインクで返すゆきである……どこで、そんな仕草を覚えたか? 俺、知ってんだ。ゴールデンウィーク明け、フラウ・ボウのコスプレで、アムロとここに来てたこと。「セルフ、行きまーす!」って、うどんを注文したって、ゲンちゃんから聞いたんだ。まぁ、それはそれとして……なぁ、ゆきよ。後生だから、俺の頭の猫耳を、...
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太宰と、三島と、猫耳と。

うどんに並ぶ列の中、ツクヨはゆいから目を離さない。オッツーを取られてなるものか! そんな眼差しで睨んでいる。無論、ゆいにはその気がないのだが、ゆいから漂うお姉さんの魅力が、ツクヨの危機感を煽っていた。「あれをやるわよ!」 ツクヨの心境を察したアケミが、俺とオッツーに提案する。アケミは、ツクヨの意識を別のところへ向けようとしたのだ。俺たちはアケミの案に乗っかった。「じゃ、アケミ。俺たちの注文はいつもので頼むわ。ゲンちゃんにも、あれをやると伝えておいてな。オッツー、行こう───合体だ!」「了解!」 俺たちは、列を阿吽の呼吸で離脱すると、ゆきが懐かしげに手を振った。俺たちの会話が理解できない、のんと...
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ツクヨの変身ベルト授与式

お盆のうどん屋は大盛況だ。県外からのお客に加えて、地元の親子連れが集まるからだ。その行列は、テーマパークのアトラクションさながらである。ゲンちゃんうどんの前に作られた、長蛇の列に俺とオッツーの姿もあった。「サヨっち。こりゃ、十分待ちかいな?」「いーや、二十分くらいじゃね? 県外の客はメニュー選びで悩むからなぁ……」「長丁場だな……」「長丁場ですなぁ……」 事前にメニューを決めて並ぶのが、待つのを嫌う県民の嗜たしなみであるのだが、セルフに慣れぬ県外客ではそうはいかない。最後尾で順番を待っていると、オッツーの背中に何かがドン!っと、ぶつかった。「わたしのオッツー、めーっけた!」 それは、ツクヨが体...
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時は来たれり……

石あかりの俺は幸せだった。その後、俺はのんの部屋でお姉様たち(のんちゃん親衛隊)に囲まれて、あたふたする時を過ごした……。あっという間に朝である。数限りなくホワイトボードに書かれた文字が、その過酷さを物語っている。輪廻転生の収穫はあったのだろうか? それは思うまい。今、俺にとって大切なのは、無断外泊のあとしまつ……。「三縁さん、楽しかったですね」 のんは笑顔で俺を部屋から送り出した。白く輝くマンションの外壁は、何事もなかったかのように、田畑の間にそびえ立つ。アスファルトの上から、のんの部屋を見上げると、のんが俺に向かって大きく手を振っている。新婚さんの朝ってのは、こんな感じなのだろうか? 俺は...
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花音の部屋

人生とはプラマイゼロ。良いことがあれば、悪いこともある……でも、なんで今夜なの? キツネとタヌキに挟まれて、その上、増援が目前に。のんの部屋の前で、俺は謎の窮地に陥っていた……。 非常階段から六人……エレベーターから四人……か。ぞろぞろと、女たちが集まってくる。キツネとタヌキで十二人って……使徒ですか? にしても、グリムで見た顔が、雁首がんくび揃えて並んでいる。とはいえ、相手は女ばかり。黙って、二、三発、殴られたら、この場も穏便に収まるだろう。のんには悪いが、俺は撤収を決め込んでいた。「うわぁぁぁぁぁぁぁ、飛川三縁ひかわさよりじゃん!」「マジでぇ~、ウケるぅ」「何しに来たの?」「決まってるでし...
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のんちゃん親衛隊

ふたりで石あかりを歩いた夜。 俺は彼女の部屋で一夜を明かした。そして俺は、出会ってしまった。〝のんちゃん親衛隊〟と呼ばれる謎の組織と。それを語るには、時計の針を昨夜まで戻さねばならない……。───俺とのんは、いい感じだった……。 石の置物が並ぶ細道。それぞれが少しだけ、ほのかな灯あかりで道を照らす。休日はイベントで賑やかな石あかりロードも、平日の夜になると人はまばら。ひっそりと静まり返っている。俺の耳に聞こえるのは、リンリンと鳴る虫の音ねと、のんが歩く下駄の音。カランコロンの音色が心地良い。のんが奏かなでる音ならば、一生でも聞いていられる。のんが歩を進める度に、白い浴衣に描かれたひまわりが、そ...
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石あかりロード

喫茶グリムのドア横の壁には、沢山のポスターが貼ってある。 スポーツ少年団の入会募集とか、猫探しのビラとか、地区の催し物のお知らせだとか……。お盆が近くなると、夏祭りのお知らせで壁一面が賑やかだ。花火大会の写真に、ツクヨの心が踊っていた。「わたしのオッツー、お休みあるかな?」ツクヨが乙女の瞳で、俺にプレッシャーをかけてくる。「どうだろうねぇ……オッツーは警察学校だから、お盆休みはあると思うよ。ツクヨからメールで訊いてみたら?」 ツクヨにメールを促すと、キリッとした顔でツクヨは答えた。「妻たるもの、主人の出世の妨さまたげになってはいけません!」 そこは、敬礼しながら言うんだな……。ツクヨのぎこちな...
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新人賞

喫茶グリムで執筆に勤しんでいると、俺のスマホにメールが届いた。第五回「虹色出版 ニューフェイス発掘大賞」からの選考結果のメールだ。待ちに待ったメールなのに、どうしてもメールを開けない俺がいた。七月二十八日のことである。「あら、飛川君。具合でも悪いの……顔色が真っ青よ」 心配げに、グリムの奥さんが俺の顔を覗き込む。「そりゃいかんな、熱中症かもしれない……」 奥さんの後ろで俺を見る、マスターも不安げだ。いや……そういうんじゃなくて……。黙って俺が俯いていると、冷たい何かが額に触れた。「よかった。熱はないようです。なんかねぇ~……三縁さん。心配事でもあるんですか?」 のんは俺の額に手を当てながら、小...
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アケミの説教

土曜日の夜、俺はゆきの部屋にいた。もちろん、ふたりきりである。写真週刊誌が喜びそうな状況だけれど、フタを開ければ修羅場だった……。「ア……アケミ?」 大きなテレビに映し出されたアケミの顔。ゆきはこのために、俺を呼び出したというワケか……。とはいえ……だ。アケミの重い表情が、これから始まるお説教を予感させた。ねぇ、アケミさん。オイラ、何か……しでかしましたっけ? 俺の挙動だって怪しくもなる。「サヨちゃん、おひさ。単刀直入に訊くわね」 訊かないで……。「アンタさぁ。のんちゃんと、どうなってるワケ? ゆきちゃんから話は聞いてるけど、バカなの? 何やってんの?」 そのことか……。「アケミの言ってる意味...
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ゆきの部屋

俺が知るゆきの部屋。そこには、女の子の願望が詰まっていた。 まるで、お城の一室である。広い空間に置かれた家具の数々。所狭しと置かれたぬいぐるみと小物たち。そして、巨大なキャットタワーには、可愛らしいジュリアーノ(ゆきの飼い猫)。もちろん寝室は別にある……見たことないけど。女の子なら、誰もが羨ましく思う部屋。それが、ゆきの部屋だった。だがそれは、俺が中学までの記憶である。 ゆきの部屋は、きっと中学時代から進化を遂げているのだろう。なぁ、ゆき。そうだろ? お前のすくすく育った乳のように……。高校入学と同時に、ゆきの胸はアケミが妬むほどの進化を遂げた。 高二の学園祭、コスプレ姿のゆきがいた。「……な...
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のんとゆいのビデオ通話

地元の美容学校へ通うウチは、定期的にのんちゃんと連絡を取っていた。のんちゃんはガラケー派だけれど、両親が心配するという理由から、大学入学を機にスマホデビューを果たしていた。 のんちゃんは、大切な人だけにスマホ番号を教えるのだと言う。あの容姿なのだ。それくらいで丁度いい。女子大生の身分でスマホとガラケーの二台持ち。人はそれを贅沢だと思うだろう。ところがどっこい、のんちゃんは天下の旅乃琴里である。それくらいの出費なら問題ない。今まで、そうしなかったのが不思議なくらいだ。てか、最も胸を撫で下ろしたのは、出版社の人だろう。なんてったって、ビデオ電話ができるのだから。打ち合わせの効率も上がる。───とこ...
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白いヘッドホン

土曜日。 今日は喫茶グリムで新メニューのお披露目会だ。メニュー開発に貢献した、ツクヨと忍の小五コンビも招待された。ふたりは朝からツクヨの部屋ではしゃいでいる。きっと忍は、俺に見せない笑顔なのだろうなぁ……。「なぁ、オッツー。頼まれてくんね?」 俺は事前にサプライズを準備していた。免許を取得したオッツーに送迎をお願いしたのだ。きっとツクヨは飛び跳ねて喜ぶだろう。あいつはオッツーと一緒なら、いつでも幸せを感じる子どもだから。 叔父贔屓おじびいきを差し引いても、ツクヨは可愛らしい女の子だ。中学になれば、いずれ告られる日が来るだろう。彼氏ができれば〝わたしのオッツー〟からも卒業だ。そうなれば、俺が立ち...
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のんちゃん、初めてのさぬきうどん

サヨちゃんを追いかけて、四国の大学へ進学したのんちゃんには夢があった。それは、サヨちゃんと本場のうどんを食べること。それが叶う前日の夜。わたしは、明日の予定をサヨちゃんに訊いた。そう……わたしがまだ、小学五年生だった頃の話である。「サヨちゃん。明日もグリム? グリムでのんちゃんと会うの?」 わたしは訊いた。「明日は、のんと一緒にゲンちゃん行くけど。のんちゃん、ずっと我慢してたんだって。さぬきうどんを食べるのを。だから、食べさせてあげようかと思って。ツクヨも行くか?」「あわわ……」 わたしは一瞬、固まった。わたしだって五年生。子どもみたいな野暮などしない。わたしに構わず行ってこい!「いーよ、サヨ...
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シュークリームが新メニュー

のんがグリムでバイトを始めると、客層が一気に変わった。のん目当ての客が増えたのだ。来客増加は売上げに繋がるけれど、マスターは困り顔だ。にしても、今日はお客が少ないな……そっか、のんは早上がりの日だったっけ。そんな日は、のんは一度、アパートへ戻る。ラフな服に着替えてから、お客として来店するのだ。そして、俺の隣で勉強を始める。本でパンパンに膨れた、のんのリュックを見る度に、俺は桜木のランドセルを思い出していた……。「ねぇ、飛川君。若い男の子が来てくれるのはうれしいけど……飛川君なら分かるでしょ? なんかいい案……持ってない?」 グリムの奥さんが俺に問うのだが、都会からレベチな天使が舞い降りたのだ。...