ブログ王スピンオフ

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時は来たれり……

石あかりの俺は幸せだった。その後、俺はのんの部屋でお姉様たち(のんちゃん親衛隊)に囲まれて、あたふたする時を過ごした……。あっという間に朝である。数限りなくホワイトボードに書かれた文字が、その過酷さを物語っている。輪廻転生の収穫はあったのだろうか? それは思うまい。今、俺にとって大切なのは、無断外泊のあとしまつ……。 「三縁さん、楽しかったですね」  のんは笑顔で俺を部屋から送り出した。白く輝くマンションの外壁は、何事もなかったかのように、田畑の間にそびえ立つ。アスファルトの上から、のんの部屋を見上げると、のんが俺に向かって大きく手を振っている。新婚さんの朝ってのは、こんな感じなのだろうか? ...
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花音の部屋

人生とはプラマイゼロ。良いことがあれば、悪いこともある……でも、なんで今夜なの? キツネとタヌキに挟まれて、その上、増援が目前に。のんの部屋の前で、俺は謎の窮地に陥っていた……。  非常階段から六人……エレベーターから四人……か。ぞろぞろと、女たちが集まってくる。キツネとタヌキで十二人って……使徒ですか? にしても、グリムで見た顔が、雁首がんくび揃えて並んでいる。とはいえ、相手は女ばかり。黙って、二、三発、殴られたら、この場も穏便に収まるだろう。のんには悪いが、俺は撤収を決め込んでいた。 「うわぁぁぁぁぁぁぁ、飛川三縁ひかわさよりじゃん!」 「マジでぇ~、ウケるぅ」 「何しに来たの?」 「決ま...
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のんちゃん親衛隊

ふたりで石あかりを歩いた夜。  俺は彼女の部屋で一夜を明かした。そして俺は、出会ってしまった。〝のんちゃん親衛隊〟と呼ばれる謎の組織と。それを語るには、時計の針を昨夜まで戻さねばならない……。 ───俺とのんは、いい感じだった……。  石の置物が並ぶ細道。それぞれが少しだけ、ほのかな灯あかりで道を照らす。休日はイベントで賑やかな石あかりロードも、平日の夜になると人はまばら。ひっそりと静まり返っている。俺の耳に聞こえるのは、リンリンと鳴る虫の音ねと、のんが歩く下駄の音。カランコロンの音色が心地良い。のんが奏かなでる音ならば、一生でも聞いていられる。のんが歩を進めるたびに、白い浴衣に描かれたひまわ...
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石あかりロード

喫茶グリムのドア横の壁には、沢山のポスターが貼ってある。  スポーツ少年団の入会募集とか、猫探しのビラとか、地区の催し物のお知らせだとか……。お盆が近くなると、夏祭りのお知らせで壁一面が賑やかだ。花火大会の写真に、ツクヨの心が踊っていた。 「わたしのオッツー、お休みあるかな?」 ツクヨが乙女の瞳で、俺にプレッシャーをかけてくる。 「どうだろうねぇ……オッツーは警察学校だから、お盆休みはあると思うよ。ツクヨからメールで聞いてみたら?」  ツクヨにメールを促すと、キリッとした顔でツクヨは答えた。 「妻たるもの、主人の出世の妨さまたげになってはいけません!」  そこは、敬礼しながら言うんだな……。ツ...
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新人賞

喫茶グリムで執筆に勤しんでいると、俺のスマホにメールが届いた。第五回「虹色出版 ニューフェイス発掘大賞」からの選考結果のメールだ。待ちに待ったメールなのに、どうしてもメールを開けない俺がいた。七月二十八日のことである。 「あら、飛川君。具合でも悪いの……顔色が真っ青よ」  心配気に、グリムの奥さんが俺の顔を覗き込む。 「そりゃいかんな、熱中症かもしれない……」  奥さんの後ろで俺を見る、マスターも不安気だ。いや……そういうんじゃなくて……。黙って俺が俯いていると、冷たい何かが額に触れた。 「よかった。熱はないようです。なんかねぇ~……三縁さん。心配事でもあるんですか?」  のんは俺の額に手を当...
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アケミの説教

土曜日の夜、俺はゆきの部屋にいた。勿論、ふたりきりである。写真週刊誌が喜びそうな状況だけれど、フタを開ければ修羅場だった……。 「ア……アケミ?」  大きなテレビに映し出されたアケミの顔。ゆきはこのために、俺を呼び出したというワケか……。とはいえ……だ。アケミの重い表情が、これから始まるお説教を予感させた。ねぇ、アケミさん。オイラ、何か……しでかしましたっけ? 俺の挙動だって怪しくもなる。 「サヨちゃん、おひさ。単刀直入に訊くわね」  訊かないで……。 「アンタさぁ。のんちゃんと、どうなってるワケ? ゆきちゃんから話は聞いてるけど、バカなの? 何やってんの?」  そのことか……。 「アケミの言...
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ゆきの部屋

俺が知るゆきの部屋。そこには、女の子の願望が詰まっていた。  まるで、お城の一室である。広い空間に置かれた家具の数々。所狭しと置かれたぬいぐるみと小物たち。そして、巨大なキャットタワーには、可愛らしいジュリアーノ(ゆきの飼い猫)。もちろん寝室は別にある……見たことないけど。女の子なら、誰もが羨ましく思う部屋。それが、ゆきの部屋だった。だがそれは、俺が中学までの記憶である。  ゆきの部屋は、きっと中学時代から進化を遂げているのだろう。なぁ、ゆき。そうだろ? お前のすくすく育った乳のように……。高校入学と同時に、ゆきの胸はアケミが妬むほどの進化を遂げた。  高二の学園祭、コスプレ姿のゆきがいた。 ...
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のんとゆいのビデオ通話

地元の美容学校へ通うウチは、定期的にのんちゃんと連絡を取っていた。のんちゃんはガラケー派だけれど、両親が心配するという理由から、大学入学を機にスマホデビューを果たしていた。  のんちゃんは、大切な人だけにスマホ番号を教えるのだと言う。あの容姿なのだ。それくらいで丁度いい。女子大生の身分でスマホとガラケーの二台持ち。人はそれを贅沢だと思うだろう。ところがどっこい、のんちゃんは天下の旅乃琴里である。それくらいの出費なら問題ない。今まで、そうしなかったのが不思議なくらいだ。てか、最も胸を撫で下ろしたのは、出版社の人だろう。なんてったって、ビデオ電話ができるのだから。打ち合わせの効率も上がる。 ───...
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白いヘッドホン

土曜日。  今日は喫茶グリムで新メニューのお披露目会だ。メニュー開発に貢献した、ツクヨと忍の小五コンビも招待された。ふたりは朝からツクヨの部屋ではしゃいでいる。きっと忍は、俺に見せない笑顔なのだろうなぁ……。 「なぁ、オッツー。頼まれてくんね?」  俺は事前にサプライズを準備していた。免許を取得したオッツーに送迎をお願いしたのだ。きっとツクヨは飛び跳ねて喜ぶだろう。あいつはオッツーと一緒なら、いつでも幸せを感じる子どもだから。  叔父贔屓おじびいきを差し引いても、ツクヨは可愛らしい女の子だ。中学になれば、いずれ告られる日が来るだろう。彼氏ができれば〝わたしのオッツー〟からも卒業だ。そうなれば、...
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のんちゃん、初めてのさぬきうどん

サヨちゃんを追いかけて、四国の大学へ進学したのんちゃんには夢があった。それは、サヨちゃんと本場のうどんを食べること。それが叶う前日の夜。わたしは、明日の予定をサヨちゃんに訊いた。そう……わたしがまだ、小学五年生だった頃の話である。 「サヨちゃん。明日もグリム? グリムでのんちゃんと会うの?」  わたしは訊いた。 「明日は、のんと一緒にゲンちゃん行くけど。のんちゃん、ずっと我慢してたんだって。さぬきうどんを食べるのを。だから、食べさせてあげようかと思って。ツクヨも行くか?」 「あわわ……」  わたしは一瞬、固まった。わたしだって五年生。子どもみたいな野暮などしない。わたしに構わず行ってこい! 「...
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シュークリームが新メニュー

のんがグリムでバイトを始めると、客層が一気に変わった。のん目当ての客が増えたのだ。来客増加は売上げに繋がるけれど、マスターは困り顔だ。にしても、今日はお客が少ないな……そっか、のんは早上がりの日だったっけ。そんな日は、のんは一度、アパートへ戻る。ラフな姿に着替えてから、お客として来店するのだ。そして、俺の隣で勉強を始める。本でパンパンに膨れた、のんのリュックを見る度に、俺は桜木のランドセルを思い出していた……。 「ねぇ、飛川君。若い男の子が来てくるのはうれしいけど……飛川君なら分かるでしょ? 何かいい案……持ってない?」  グリムの奥さんが俺に問うのだが、都会からレベチな天使が舞い降りたのだ。...
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喫茶グリム

パワースポットと呼ばれる場所がある。  ブログ王を完成に導いた場所は、八栗寺(四国八十八箇所第八十五番札所)の境内だった。境内けいだいにある青いベンチに座ると、不思議とアイディアが浮かぶのだ。そして俺には、もうひとつのパワースポットがある───喫茶グリム。老夫婦が営む店内は、カフェと呼ぶにはほど遠く、俺のじいちゃん好みの昔ながらの雰囲気だ。  この店で俺は、ブログ王にさらなるブラッシュアップを施した。謎の編集者、青葉さんに奨められた新人賞に〝のんちゃんのブログ王〟を応募するため。そして俺たち放課後クラブが、高校最後の打ち上げをした店でもある。  ただ、ひとつだけ……俺には不思議に思うことがあっ...
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ツクヨの父の日

今日は、六月第三日曜日───全国的に父の日である。  父の日だからって、我が家の夕食はいつもどおりだ。かろうじて、母の日の名残りはあるのだが、父の日はごくありふれた日曜日。けれどツクヨが我が家の一員となった今、状況が少し変わった。ツクヨには父と呼べる存在がいない。それを気遣い、お茶の間をピリピリさせていたのは、俺とオトンだけであった……。  口チャックにテレビまで消して、父の日情報を遮断する。父の日は───ツクヨに禁句だ。  いつものように夕食を始めると、思い出したように、ツクヨがテテテと部屋に戻っていった。条件反射で俺は訊く。 「アヤ姉、ツクヨは?」  トボけた感じでアヤ姉が答える。 「そっ...
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ツクヨのこと、どう思っているのかな?

午前零時のダイニング。  ドアを開くとオトンがいた。ニヤニヤしながら、ひとり淋しく缶ビールを飲んでいる。酒のつまみはイカの足。テーブルの上に350mlの空き缶が二本あった。つまり、手にしているのが三本目。飲み過ぎだ……。  左手に持つスマホには、ツクヨの写真が表示されている。今年のハロウィン、仮面ライダー2号のコスプレ。ツクヨがオッツーの好みに合わせたのだろう。オッツーのベルトを腰に巻いて、ご満悦のよき笑顔である。オトンのスマホは、ツクヨちゃんの詰め合わせ。それを眺めて、夜遅くにニヤついていたというわけか……健気だ。 「まだ起きていたのか? 受験勉強、がんばれよ」  す、すまん……そうじゃない...
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ツクヨの桃を召し上がれ

「お前もひとつ、選んでみるかい?」  じいちゃんの気まぐれがブランド商品を生み出した。  草刈り、摘果、袋掛け。五月に入ると親戚の桃畑が忙しい。昨今の人手不足と農家の高齢化問題とが相まって、中二になった俺にもお鉢が回る。日曜日なのに桃畑。脚立の上で桃の実を間引く。遊びに来ていたオッツーまでもが脚立の上で汗を流す。何か……すまんな、オッツーよ。  オッツーが行くのなら、コイツが来ないワケがない。もれなくツクヨも付いてくる。赤い長靴に麦わら帽子。一瞬で畑のアイドルの座を射止めたツクヨは、動物園や水族館にでも来たかのように、キャッキャと桃畑を満喫している。相も変わらず自由なヤツじゃ。  そこで、じい...
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聴講生 橙田飛鳥

───人の顔はひとつではない。  学生と聴講生。橙田飛鳥とうだあすかはふたつの顔を持っていた。それは、大した問題ではない。言い換えれば、女子大生と追っかけなのだから。高三の夏、オープンキャンパスで飛鳥が恋した彼は、理論物理学の研究者であった───ワタシは行く、彼の元へ! 飛鳥は名門T大を受験してサクラチル。それでも飛鳥はくじけない。桜は散れども恋は咲かせる。  K大への進学を決めつつ、同時に飛鳥はT大の聴講生の資格も手に入れた。ピカピカの聴講生証に飛鳥は誓う。先生の講義のすべて───ワタシはそれを受け切ってみせるのだと……。初講義にときめく飛鳥……にしても、異様に多い女子の数。それもそのはず、...
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ツクヨとオッツー、海の約束

───オレのお嫁さんになればいい……。  オッツー家からの帰り道、それをツクヨは思い出す。三縁さよりとオッツーとの三人で、釣りに出かけた夏の日を……。 「ねぇ、オッツー。わたし……どうおもう?」  ツクヨはおませな小三だった。 「可愛いぞぉ~」 「エヘっ!(笑)」  オッツーからの予期せぬ言葉に、ツクヨは頬を赤らめた。 「リュックのペコちゃんが」 「そう……ですか……」  気まずい空気が防波堤ぼうはていを駆け抜ける。気まずいのはツクヨだけ……。釣りに夢中のオッツーは、ツクヨの変化を気にも留めない。  一緒に来ていた三縁はというと、ツクヨをオッツーに任せっきりで、秘密のポイントで竿を振っている。...
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オッツー家のシチューの秘密

桜木とオッツー、アケミとゆき。そして、俺。   俺たち放課後クラブは、メンバーの誕生日が年中行事に組み込まれていた。転校生の桜木は小学からだけれど、他のメンバーは幼稚園からの幼馴染み。物心ついた時から誕生日祝いは当たり前だ。当然のように、ツクヨもその輪の中に入っていた。時は流れ、俺たちは社会人になり、ツクヨは中学二年になった。それでも、誰かの誕生日には、何処かで集まり誕生会をしていた……。  今現在、ツクヨに最も近い存在はアケミである。社会人になっても、アケミはBL小説を書いている。その表紙絵を飾るのがツクヨのイラストなのだから。同人誌イベントが近くなると、ふたりの情報交換が密になる。そして、...
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この手紙は、作家デビューへの架け橋ですよ

のんと楽しいクリスマスを過ごした翌年。地元大学への入学切符を手に入れた俺の元へ、青葉導人と名乗る人物から手紙が届いた。俺は思った───詐欺かもしれない。とてもじゃないけど、こんなの俺の手に負えない。だから、次の一手は決まってる! 桜木だ。俺は手紙を手に持って、ゲンちゃんうどんに桜木を誘った。この手紙が、俺の人生のターニングポイントになるとも知らずに……。 「ごめんな……桜木、上京の準備で忙しいところ。こんな手紙が来たんだけど……俺、バカだから手に負えなくて……」  桜木が俺宛の手紙に目をとおすと、ぱっと表情が明るくなった。 「こんな手がありましたか……」  明るい顔で意味深な言葉を口ずさむ。 ...
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オッツー家のシチューの謎

その日。オッツーは学校帰りに三縁の家でゲームをしていた。オッツーが三縁の家で晩飯を食べる。それは、彼らにとって日常のひとコマでもあった。ただ、オッツー家がシチューの日だけは例外であった。 「悪ぃ~な。俺、これからブログ書くから」  三縁は自分が使っていたゲームのコントローラーをオッツーに渡した。 「そっか。じゃ、ツクヨっちオレと格闘やる?」  オッツーは、それをツクヨの手に渡す。 「やるやる。きょうは、オッツーにまけない!」  三縁はブログを書き始め、オッツーはいつもの格闘ゲームでツクヨと対戦を始めた。その時すでに、幼きツクヨの格闘センスは、ゲームの天才の片りんを見せていた。  到底、三縁クラ...