いつだったっけ? 月曜だっけ?……ワーちゃんから万年筆をもらいました。
「はい、これ。書きやすかったから」
いつもそう、いつだってそう。ワーちゃんは唐突で、日常会話に主語がなく、僕の前には透明ビニール袋に包まれた、謎の万年筆があるわけで……これ、くれるの? そう、思っていると、いつもの言い訳のような……謎の構文を発します。
「書きやすいんよ、これ。でも、中国のだから……突然インクが出なくなるけど、書きやすいと思います……」
お前は、どこぞのレジ袋かい? 彼女の言葉を要約すれば、中国製で急に壊れる万年筆だけど、書きやすいから使ってみなよ? どこのメーカーなのかは、私は知らん! ということでした。
キャップを開くと、ゴールデンスリット(金色のペン先)で……でもこれ、かなりお高いんでしょ? と、おバカな僕でも本能的に察します。まったくもって、彼女の意図が飲み込めません。
「後で請求書とか身代金の要求とか、しねーよな?」
「これ、安いんよ。まとめて買ってる」
あなたは、万年筆をまとめ買いするんですか? そんなのラノベのお嬢様じゃないか? ワーちゃんからの謎の万年筆で、試し書きをしてみると、インクがまったく出ませんでした……謎の万年筆は、新品でした。
「インクは?」
「まだない」
「……吾輩は?」
「猫である……」
机の上の漱石に目を向けて、ワーちゃんは半笑いで言いました。
「じゃ、どうすんだよ。インクは? 中国製だけの情報で、インクは買えない。ホムセンで売ってんの?」
「これ、ビンのやつだから───文房具屋に売ってるよ」
「あ、そうですか……簡単に言うけれど、文房具屋って潰れてしまって、この辺にはもう無いぞ?」
「文具生活にあるじゃない。私はそこで買ってるし」
そう言うと、ワーちゃんは帰ってゆきました。
そして、昨日。バイクを20分ほど走らせて、文具生活に行きました。というのも、週末からは雨模様の天気予報で、晴れているうちにという判断です。文具生活なら、文房具のプロですから、無知な僕にも優しく丁寧に色々と、手取り足取り教えてもらえそうです。
「この万年筆は……?」
「中国のです」
「ではなくて……」
「中国の製品です」
いつ壊れるやもしれぬ、中国生まれの万年筆。その情報だけが頼りでしたから、店員さんも困り顔で、僕も困り顔で着地点を模索します。
「瓶に入ったインクをくださないな」
「どういったインクをお探しですか?」
「適当に、見繕ってくださいな」
「インクには、沢山の種類がありますから……」
店員さんの困り顔が、さらに闇落ちするのを感じます。店員さんの案内で、インクの棚を眺むれば……なんだこれは? インクの種類が100や200どころではありません。何がなにやらさっぱりで、一番安いPILOTのインクを選びました。今の万年筆は黒なので青にしました。聞くところでは、青いインクは読みやすいらしいので……。
青いインクを購入し、事務所でインクを入れますと……入らない。ペン先をインクに沈めてクルクルと、コンバーターを回してみても、全くインクが入りません。イラッとしたので、コンバーターを外してコンバーター直で充填すると、何やら書ける感じになりました。
ワーちゃんからの万年筆は、ペン先を立てて書くタイプのようで、ペンを寝かせて書く僕には、若干の違和感を感じます。ボールペンと同じ要領で書いてみると、スムーズに書けたので、そこが書きやすいのだろうなと思います……とはいえ、これも何かの縁なのでしょう。しばらく使ってみようと思います(笑)
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