005 天国の待合所
ワシが乗る雷電と、子猫が乗った戦艦ヤマトは、並んで同じ野原に着陸した。どうやらここが、トビちゃんが暮らす場所らしい。
広い野原の真ん中に、大きな湖が広がっている。その水面を覗き込む人の姿もあった。ほとんどが人間じゃったが、ワシと同じ猫も、犬も、馬も、牛も……鳥や亀の姿もあった。
「お疲れでした、サヨリさん。あそこが、わたしのお家です」
トビちゃんの指さす方に、大きな木が立っている。
「ここは、朝も昼も夜だって。いつもぽかぽかで、雨が降ることもありません。だから、木がお家なの。ほら、みんなのお家も同じでしょ?」
「ここは、どんな人が集まっておるのじゃ? さっきの様子じゃと、同じ目的を持った人間の集落なのじゃろ?」
「はい、そうです。サヨリさんは頭がいいですね。ここは、天国の待合所と呼ばれています。大好きな人を待つ場所です」
「でも、ワシのような動物がおるではないか?」
「それは、大好きな人に頼まれたからですよ。だから、十蔵さんも黒猫さんのお迎えに行ったんです。わたしもお月さまに頼まれました。サヨリさんをよろしくと……じゃ、行きましょう!」
ワシをポッケに入れたまま、トビちゃんは湖に向かって歩き始めた。
「そっちは湖じゃが? 何かあるのか?」
「サヨリさん、お月さまに会いたいでしょ?」
「会えるのか?」
「会えますよ、ふふふ」
そう言うと、テテテテテ。トビちゃんは小走りになった。湖のほとりに下ろされた。ワシには大きな疑問があった。それは、トビちゃんをひと目見た時からの疑問じゃった。
「ここはね。自分の好きな年齢で暮らせるのよ。小さな子どもだったり、思春期だったり、大人だったり。その人それぞれの姿で暮らすの。わたしは、大人の姿で暮らしているの」
「中学生の間違いじゃろ?」
「わたし……病気で成長が遅かったから。普通の人よりも、ずっと幼く見えたの……」
トビちゃんの表情に、ワシは悪いことをした気がして、咄嗟に周りを見渡した―――ばばあ、発見!
「でも……じゃ、あのばあさんは?」
「サチさんね。サチコさんは高齢で亡くなったから、ご主人が驚かないように、生前最後の姿で暮らしているの。でも、サチさんの中身は女学生よ。五十メートルを八秒くらいで走るもの。ビューンってね、驚くほど速いのよ───」
「でも、ワシは……」
「あら、サヨリさん。気づいていないの? 十蔵さんの黒猫さんと同じで、今のサヨリさんは、子猫の姿になっているわよ。ほら、見てみて」
トビちゃんに言われるがまま、ワシは湖の水面を覗いた。そこには、可愛らしいキジトラ柄の子猫がいた……ボクだった。だからトビちゃんは、胸のポッケにワシを入れたのか……。すべてを理解したボクを見て、トビちゃんが微笑んだ。
「トビちゃん。ボク……若いじゃん」
「そうですよ、可愛いです。言葉遣いも子猫ちゃんですね」
すっかりボクは、子猫時代の喋り方に戻っていました……。
「さぁ。お月さまを、わたしと一緒に見ましょうね」
そう、トビちゃんが言いました。小さなボクの体を抱えて、トビちゃんが湖面に手をかざすと、水面にお父ちゃんの姿が浮かびます……え? どうして? どうして? ねぇ、トビちゃん?
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