012 雷電
ボクはトビちゃんに訊きました。
「ねぇ、トビちゃん。お空に飛んでるのはなんですか?」
「わたしは雷電、十蔵さんはヤマト。あれはね、ここに住む人たちが、生きている時に好きだったものなのよ」
空を見上げると、ラーメンどんぶりがUFOのように飛んでいます。
「サチさんは?」
「サチさんは、スーパーマンみたいに、乗り物なしで飛んでいるわ。旦那さんをお迎えに行ったら、旦那さんと手を繋いで飛ぶんだって。ロマンチックよねぇ」
「手を繋いで飛ぶなんて、サチさんらしいね。カッケーです」
僕は天高く、空を飛ぶサチさんの姿を頭の中で描きました。
「そうそう……お月さまからのお荷物が届いてますよ」
トビちゃんの木の下に、段ボールがありました。ボクは段ボールを開けました。毛布とカリカリ。ちゅーるとおやつ。その中には、トビちゃんのためにお父ちゃんと作ったプラモの雷電もありました。
「サヨリさん、うれしそうね」
「うん!」
ようやくトビちゃんの手元に、雷電が届きました。どういうわけだか、ボクはそれがうれしかったのです。
「ねぇ、トビちゃん。トビちゃんは、どうして雷電なの?」
ボクはトビちゃんに訊きました。
「わたし、雷電に一目惚れしちゃったの。ほら、可愛いでしょ? 雷電は護衛を目的とした飛行機なの。戦闘機は攻撃力を問われるのに、雷電は護衛力を問われる機体なの。大好きな人を守る機体……だから好き」
「お父ちゃんも守りたい?」
「うん、お月さまを守ってあげたい!」
トビちゃんが、ガッツポースで微笑みました。
「食べてもいい?」
ボクがちゅーるを指さすと、トビちゃんが、ちゅーるを食べさせてくれました。すると、チョコがボクに向かって一直線に駆けてきます。
「サヨリ兄さん! 自分もちゅーる、いいっすか?」
「なんで?」
「自分もヒカルちゃんからお届け物があったっす。でも、お花とおもちゃばっかで……」
「そういう意味じゃなくて……なんで、ちゅーるがあるのが分かったの?」
「風に乗って、ほのかに鼻をくすぐるこの香り。自分は確信したっす! この香りはちゅーるであると」
チョコの瞳がギンギラギンに輝いています。
「じゃ、チョコちゃん。ボクのを食べる? トビちゃん、いい?」
折角だから、お裾分けです。
「偉いね、サヨリさん」
トビちゃんが、ボクの頭を撫でました。
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