今日もサヨリは元気です(笑)”017 ココイチ”

小説始めました
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017 ココイチ

 お父ちゃんの好物は、サッポロ一番とココイチのカレーです。それが好きすぎて、何度もブログに書いていました。お父ちゃんがココイチのカウンターに座ると、隣に女の人が座りました。

「お邪魔するよぉ~、ぐふぅ」

 出たな、おっぱい星人!

「お主、何故なにゆえここへ?」

 予期せぬ心ちゃんの来襲に、お父ちゃんは、腰を上げてドン引きです。

「やっぱり来たね。僕はなんでもお見通しなのさ。君はトビちゃんの言うことだけは、ほんと素直に聞くんだね。ヨシ、食べよう。一緒に食べよう! じゃ、何食べる? 僕はハンバーグカレーにしたいと思うのだが?」

 心ちゃんは、マイペースです。その不敵な微笑みに、お父ちゃんは気づきます。

「え? まさか……手紙読んだの?」

「さて、どうだろう? ぐふぅ~」

「ぐふぅ~じゃないでしょ? そんなのルール違反じゃないか?」

 お父ちゃんの言い分は、ごもっとも。

「いいの。あの子と僕とは一蓮托生の親友なのさ。あの子の気持ちは、なんでも分かる。そもそも君、あの子の顔すら知らないくせに生意気だよ―――で、何食べる?」

「……」

「で、何食べる? 僕が注文してあげよう」

「それは自分でやる。俺はいつだって、手仕込みとんかつカレー。四百、四辛……これだけだ!」

 お父ちゃんは意固地になって、自分でタッチパネルを操作しました。手紙を読まれたのが、とても不服のようです。それでも、へこたれないのが心ちゃん。

「君、急にそんなの食べて大丈夫かい? 僕が食べるの手伝ってやろうか? こう見えても―――それくらないなら、僕に任せてくれたまえ」

 お父ちゃん、反撃開始。

「俺の胃袋を舐めてはいけない。本気を出せば一キロだって食えるのだよ―――ぬはははは」

 そうなのです。本当のお父ちゃんは大食いなのです。これでも量を減らしているのです。だから、心配には及びません。

「そうだね。男子たるもの腹いっぱい食べないと。あー、なんだか安心しちゃったよ。お役目を果たした気分だ、ぐふぅ~。ところで、トビちゃんの写真見る? ドラゴンの背中に乗った、トビちゃん写真はないのだけどね」

 心ちゃんがスマホを振ってニヤリです。

「……」

 お父ちゃんは、何も言わずに首を横に振りました。それは、ボクの前でも何度かあった場面です。

「お待たせしました。ハンバーグカレーと手仕込みとんかつカレーです……」

「「ありがとう」」

 お父ちゃんにとって、一週間ぶりの固形物。ココイチのカレーがやってきました。お父ちゃんはカレーを食べながら言いました。

「でもさぁ。トビちゃんが、サヨリが死んだ後のことまで考えてくれたと思うとな。やっぱり食べなきゃって……正直、思った。彼女が死んでから二年が経つんだなぁ……。心ちゃんにも感謝してるよ。手紙、ありがとな。盗み読みさえしなけりゃ、百点満点だ」

「そういう子なんだ、トビちゃんは。だから僕も放っておけないつーか、君の小説を読むまでは、死んでも死にきれないつーか。迷惑メールみたいに、しつこくするつもりはないけどね。やっぱ期待しちゃうじゃないか?」

「……」

 小説の話になると、お父ちゃんはいつも同じ反応です。

「でも君。小説の話になると、口を閉ざしてしまうんだね。それも、嫌いじゃないけどさ。でも―――小説が書けたら、一番最初に読ませてほしい。僕は、それを楽しみに生きているのだよ、実際のところ」

「……やっぱココイチのカレー、うめぇ~な」

「今回は、そういうことにしておこう―――飯は食ってもらえたしな。これでミッション成功だ」

 ちぐはぐな会話のその後で、ふたりは静かにカレーを食べました。ボクがトビちゃんを守りたいように、心ちゃんもお父ちゃんを守りたいのでしょう。トビちゃんの手紙と、心ちゃんのお陰で、お父ちゃんは、ようやくご飯を食べました。

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