今日もサヨリは元気です(笑)”018 心の仮面”

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018 心の仮面

 心ちゃんとお父ちゃんは、お腹を膨らませて店を出ました。心ちゃんは満足げ。お父ちゃんは、絶食で胃が小さくなったのでしょう。ちょっと苦しそうに見えました。でも、その表情は明るかったです。

「なんか、悪いな。本来ならば、ここは僕がおごるべきなのに。君が料金を払ってくれるなんて、申し訳なく思っている」

 心ちゃんは、お父ちゃんにお礼を言いました。お父ちゃんは、手を横に振りました。

「いや。ココイチのお食事券が、トビちゃんの手紙の中に入っていたんだ。トビちゃんは、賢い人だったからね。心ちゃんの行動を見抜いていたんじゃないのかな? だって、会計したらいい線ついてたよ、お食事券……あっ!」

「ぐふぅ……」

 心ちゃん、ルール違反の嘘がバレました。

「ふふっ」

 トビちゃんが、クスリと笑いました。

「そうだな。トビちゃんなら、そうかもしれないな。今日は楽しい夕食だったよ。機会があれば、また来るよ。その日まで、ご健康で!」

「心ちゃんも、元気でな―――」

 お父ちゃんは家に向かって歩き始め、心ちゃんは自分の車に乗り込みました。運転シートに腰を下ろし、シートベルトを装着すると、ハンドバッグの中からスマホを取り出しました。

「もう、大丈夫だ。食べてくれたよ……」

 心ちゃんが見つめるスマホの中で、トビちゃんと心ちゃんが仲良く並んで笑っています。空は抜けるような真っ青で、心ちゃんは黄色いシャツで、トビちゃんは水色花柄ワンピース。そして、ふたりオソロのボブカット。幸せを絵に描いたような、ふたりの笑顔がまぶしいほどです。

「この写真。心ちゃんと、最後に撮った写真なの……ほんとはね、これしかないの。わたし、写真が嫌いだったから……」

 トビちゃんが言いました。スマホの中のトビちゃんに、心ちゃんが語りかけます。

「ココイチの予測が的中したのは、自分でも驚いているのだが……これもまた、神の思し召しということか。一芝居打った荒療治、これが薬となるか、それとも毒か……ここから先は、彼の資質の問題だ。力足らずで申し訳ない……」

 決してお父ちゃんに見せない表情で、心ちゃんが写真のトビちゃんを見ています。

「君の生き様を見て、僕は純愛を知ったんだ。でも、はかなすぎだな……君の初恋は嫌いじゃないけど。この写真を一日も早く、彼に見せてやりたいものだ。あれから僕の髪……伸びただろ? そう思わないか? トビちゃん」

 心ちゃんは顔を上げると、声を噛み殺して泣いています。それは、とても静かな嗚咽おえつでした。いつだって、自信満々の顔なのに……心ちゃんのこんな顔は初めてです。

「心ちゃん……ありがとねぇ」

 祈るように両手を合わせて、トビちゃんがうなずきました。トビちゃんの横顔は、心ちゃんと気持ちが繋がっているように見えました。

───おっと……。

 心ちゃんのスマホが鳴りました。

「うん……うん……うん……。彼、食べてくれた……。これから、マンションへ行ってもいいかな?  すごく会いたい気分なんだ……とても、とても。だから、僕の話を聞いてもらいたい」

 ん?……えーーー!!! これは、まさかのまさかです。

「ねぇ、トビちゃん。あれって彼氏?」

「とーぜんです!」

 トビちゃんが、ボクの頭を撫でました。

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