022 ハーレム
トビちゃん、チョコ。そして、ボク。
十蔵が天国へ召されてから、三人での暮らしが始まりました。チョコは元気そうな素振りだけれど、ちょっとした瞬間に、とても寂しげな目をします。だからできるだけ、ボクはチョコと一緒に過ごします。そんなボクらをトビちゃんは、いつもニコニコ笑顔で愛でてくれます。
「サヨリ兄さんは、ハーレムっすね」
え、ハーレムって?
「サヨリ兄さんは、ふたりの美女と住んでるっすよ! これをハーレムと言わずして、なんて言うっすか?」
トビちゃんは美女だけど……。
「ならば、これでどうっすか?」
チョコが伸ばした前足の先で十数匹ほどの猫たちが、こちらをジッと見つめています。
「兄さん、あっちへ向かって笑うっす!」
「キャーーーー」
ボクが笑うと、猫たちから歓声が上がりました。そういうのに慣れないボクは、底知れぬ恐怖を覚えました。
「兄さん、あっちへ向いて手を振るっす!」
恐る恐る、ボクが前足を振ると―――
「ギヤャャーーーー!!!」
これはいったい、なんなのでしょう? 猫たちの絶叫に、トビちゃんの目が点になりました。
「どういうことです? サヨリさん」
それは、ボクが訊きたいです。
「おふたりに、説明しても……いいっすか?」
チョコは口がムズムズしているようです。
「うん」
「はい!」
ボクとトビちゃんは、ふたつ返事で頷きました。
「サヨリ兄さんは無自覚っすけど、これが───大往生の力っす。『サヨリ兄さんが大往生さまだよ』と。一匹の猫に伝えれば、噂は波紋のように伝播するっす。ひと目だけでも、大往生さまを拝みたい。これから、ドンドン増えるっすよ」
チョコの満面の笑みが誇らしげ。にしても……大往生の称号とは、恐るべし。ボクはチョコに耳打ちしました。
「で、あの子たち……これからどうするの?」
「考えてないっす!」
チョコが、あっけらかんと答えました。
「そんな、無責任な……」
「自分はいつも、サヨリ兄さんの隣っすから! 気分いいっすねぇ~、ここからの眺めは! 絶景かな、絶景かな」
チョコは真っ赤な舌をペロリと出すと、ほくそ笑んでご機嫌です。これでチョコの寂しさが紛れるのなら、それはそれで……よくないと思います。
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