024 読書家
トビちゃんの木には、トビちゃんの胸の高さに、小さな扉がひとつあります。その扉は、天国の図書館と繋がっていて、好きな時に、好きな本を貸してくれる扉です。
ボクはお父ちゃんから聞いて知っています。トビちゃんが読書家だってことを。
ボクが寝る前になるとトビちゃんは、お父ちゃんのブログを読み聞かせてくれます。トビちゃんの丸い声が、ボクにはとても心地よくて、あっという間に夢の中へと誘われてしまうのです。
「どうして、トビちゃんの木にだけ扉があるの?」
「天国の待合所は、何年も待つところだから、みんなの木にも扉はあるわよ。だって、公共のサービスだもの」
この世界でのインフラは、水道や電気やガスではなくて、音楽や書物のようです。
「十蔵ちゃんの木にもある?」
「あったわよ。わたし、見たことあるもの」
本の話題に反応したのがチョコでした。でもそれは、過剰ともいえる反応です。
「トビ姉さん、絵本読めるっすか?」
「読めるわよ」
「博学っすねぇ~」
チョコが尻尾を立てました。
「自分、子猫の頃。ヒカルちゃんが、読んでくれた本があるっすよ」
そう言ったきり、チョコがモジモジしています。心配げにトビちゃんが、チョコの顔を見つめています。
「チョコちゃん、どうしたの?」
「自分に絵本……いいっすか?」
チョコは恥ずかしそうに、おねだりしました。
「うふっ、喜んで」
トビちゃんが扉の中から絵本を取り出しました。チョコのリクエストは〝ずっとそばいるよ〟という本です。木の幹に背中を預けて、トビちゃんが座りました。チョコはトビちゃんの前に座ります。すると、トビちゃんが言いました。
「お膝の上に乗ってもいいのよ。そこからじゃ、絵本が見えないでしょ?」
チョコは、またモジモジしています。モジモジしながらもうれしそうです。
「トビ姉さん……膝の上、いいっすか?」
チョコは、トビちゃんの膝の上に初めて座りました。ずっと、そうしたかったのでしょう。黙っていても溢れ出る、満面の笑みとはこのことです。十蔵が天に召されてから、チョコはトビちゃんに、甘えることを我慢していたのです。ボクもうれしくなって、ふたりの姿を見ていると、トビちゃんが言いました。
「サヨリさんも」
「サヨリ兄さん、はやく、はやく!」
ボクがチョコの隣に座ると、トビちゃんは絵本を読み始めました。ボクたちは、トビちゃんを見上げて拍手しました。なんだか、本当の家族になった気分です。トビちゃんは、ボクたちにとって最高のママなのです。
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