今日もサヨリは元気です(笑)”027 四十八日”

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027 四十八日

 ボクが死んでから四十八日目。転生か、天国か、それともここに残るのか?……ボクは明日、それを決断しなければなりません。

 十蔵の一件で、チョコは転生するって決めたけど。もしも、お父ちゃんに好きな人ができたなら、ボクだってトビちゃんと一緒にはいられません。ボクの悩みは深まるばかりです―――。

「今日はヨネさんちで、お庭のお掃除をしているようですね」

 お父ちゃんを見つめながら、トビちゃんがいいました。ピューピューと木枯らしが吹いています。あっちの世界は、すっかり冬になりました。

 お父ちゃんは白い息を吐きながら、機敏にお庭の枯れ葉を集めています。元気で働くお父ちゃんの姿を見るだけで、ボクは安心できるのです。

「便利屋さん、休憩しませんか? 温かい缶コーヒーを買ってきたから、冷めないうちに召し上がれ」

 缶コーヒーをお盆に乗せた、ヨネさんが言いました。

「ありがとうございます。この調子なら、雨が降る前に作業が終われそうです」

「そうそう。もうすぐ、お友だちの猫ちゃんが出産するの。私ね、子猫を引き取ろうと思っているの。猫の先輩として、便利屋さんは……どう思う?」

「猫の癒し効果は抜群ですから、健康によいって論文にもなっていました。僕もサヨリに癒されっ放しでしたから……それは、いい考えだと思います。大切に育ててあげてくださいね、子猫ちゃん」

 お父ちゃんは、ニコニコ笑顔で缶コーヒーを受け取りました。缶の温もりを手のひらに感じながら、仕事の状況を眺めています。

「少し……いいかしら?」

 少し真顔でヨネさんが言いました。

「はい? 僕でよければ……」

 いつもと違う雰囲気に、お父ちゃんが不思議そうな顔をしています。

「便利屋さんのブログ、面白いわよね」

「え?」

「ユウトって人……記憶にないかしら? 『遊ぶ人』と書いて、遊人。遠い昔に、ブログを書いていた人だけど?」

「え、えぇ。もちろん存じています……もう、十年になりますか。急に遊人さんのブログの更新が止まっちゃって。心配をしていましたけれど……でも、ブログの継続は難しいですから。元気なら、それで……。でもどうして、ヨネさんが?」

 遊人さんは、お父ちゃんと同じくらいの年齢の男の人です。毎晩のようにネット通話で、お父ちゃんとブログ論を語り合っていました。でも突然、遊人さんと連絡が取れなくなりました。「いつか、ひょっこり戻ってくるさ。ずっと俺は、ここにいるから……」そう言って、お父ちゃんはブログの更新を続けました。お父ちゃんが、二十年もブログを書き続けた理由のひとつが、遊人さんの存在です。

「覚えていてくれて、ありがとうね……」

 ヨネさんは、うれしそうな顔をしています。

「その子……遊人は、私の息子なの。本当の名前は『優しい人』と書いて優人なの。ほら、ずっと前からそこにいるのよ。いつ打ち明けようかって……私、ずっと悩んでいたの。お伝えするのが、遅くなってごめんなさいね」

「……」

 お父ちゃんの顔から、笑顔が消えてなくなりました。ヨネさんの視線の先には、お仏壇がありました。

 お庭に、霧のような雨が降りました。

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