031 蛍
もう一度、お父ちゃんと暮らしたい。決断の日、ボクは転生すると決めました。
「ボク。転生して、お父ちゃんの所へ行くよ」
トビちゃんは、寂しそうにボクの頭を撫でました。
「サヨリさん、無理してない? ここにいても、いいのよ」
トビちゃんが真っ直ぐな目でボクを見ます。ボクは視線を逸らさずに言いました。
「うん。でも、決めたことだから」
うんうんとトビちゃんは頷いて、もう一度、ボクの頭をやさしく撫でました。
「了解です。わたし、サヨリさんを応援します」
にこりと笑って、トビちゃんが胸のポッケから何かを出しました。
「この子も連れていってあげて。サヨリさんの護衛機です」
トビちゃんの手のひらに、ボクがお父ちゃんと一緒に作った、雷電のプラモデルがありました。
「それは、お父ちゃんがトビちゃんに作った大切なものだから……」
ボクにはとても受け取れません。だから、首を横に振りました。
「この雷電はね。これからきっと、サヨリさんのお役に立つはずよ」
ふ~っと、トビちゃんが雷電に息を吹きかけると、雷電が蛍の姿になりました。お尻の光が……小さなお月さまのように見えました。とても優しい輝きです。
「この蛍がお月さまの所まで、サヨリさんを導いてくれるわ。だから、一緒に連れてって」
ボクがコクリと頷くと、すっと蛍が舞い上がり、ボクの頭の上に止まりました。
「サヨリ兄さん。自分とも逢えるっすか?」
チョコの瞳が不安げです。今にも泣き出しそうな顔をしています。
「逢えると思う、そんな気がする。ボクは大往生だから」
ボクはチョコの肩に手を添えました。
「そっすよね。大往生さまの勘に狂いはないっす! 自分はサヨリ兄さんを信じるっす」
「そうね。わたしも、ふたりの再会する日が楽しみよ」
「「うん!」」
どこに転生するのか分からない。記憶すらも残らない。神さまの気まぐれに、ボクたちは身を委ねるしかありません。これで、最後になるかもしれません。それを理解しながらも、ボクたちは三人で笑い合いました。転生したら、お父ちゃんにも逢うし、チョコにも逢うんだ! ボクはそれを、固く心に誓いました。
「じゃ、おふたりさん。産神さまの所へ行きましょう。お見送りします」
大きな瞳をウルウルさせて、チョコがトビちゃんを見上げています。
「どうしたの? チョコちゃん」
「トビ姉さん、自分……産神さまの所まで、抱っこしてもらって……いいっすか?」
「喜んで!」
トビちゃんが、チョコを抱き上げて微笑みます。トビちゃんの胸に顔をうずめると、チョコは大きく息を吸いました。
「トビ姉さんの香り、絶対に忘れないっす!」
チョコはトビちゃんの顔を見上げると「にゃ~っ」と大きな声を上げました。
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