極上のスイカを食べた

雑談
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 天道てんどうさんからメールが届く。天道さんは、僕の第三の協力者だ。そのメールには「アニキが作ったスイカを送りました」と書かれてあった。その内容に僕は驚いた。二年前、アニキからのメールには「茶熊さんが作ったスイカを送りました」と書いてあった。デジャヴという言葉があるけど、繰り返された現実に、僕はしばしたゆとうた。

 昨日、スイカが届く。立派なスイカを眺めていると、アニキと文字を交わした二年間の記憶が蘇る。胸の中に懐かしさがこみ上げて、刹那に弾けて消えてゆく……さぁ、アニキのスイカを食べような。桃の摘果で流した汗を、アニキのスイカで補充しよう。食べにゃ、アニキに失礼だ(笑)

 アニキの作ったスイカは、茶熊さんのスイカよりも少しだけ大きかった。あの日のスイカと同じ品種だろうか? そんなことを考えながらスイカに包丁を入れると、僕の目に眩いばかりの赤が飛び込んだ。こんなのうまいに決まってる。キラキラ光る断面に、期待が確信へと昇華する。今日はいい日。このスイカは、そんな気分にさせてくれた。

 では、いただきます!

 なんつー甘さだ。それに加えて、シャリシャリした歯触りが心地いい。スイカの実と果汁と種までもが、僕の胃袋の中へと吸い込まれる。あ~、アニキ……僕の胃がキュンキュンしています(笑)

 お世辞も忖度も依怙贔屓えこひいきも何もなく、この上もなく極上のスイカである。料理は真心というけれど、真心込めて作ったスイカは、心臓までもを揺さぶった……愛情たっぷりとはこのことだ。ほっぺどころか、顎まで落ちた(笑)

 誰かのためにこさえたスイカ。その誰とは誰なのか? それを、アニキと一緒に食べたら、この百万倍もうまいのに。アニキは満面の笑みを浮かべて、きっと僕に言うのだろう。

「先生、お口にお合いになりましたか?」

 って。こんなの合わないワケがない。ものすごく甘いのに、どういうわけだか、ちょっぴり塩味がきいていて、不思議なことに、スイカをかじる度に塩味が増した。

 甘い果汁が喉を潤す度に「初めまして……」「え、僕と小説をですか?」「僕でいいんですか?」「僕の案は……」「それ、面白いと思います……」「ご存じでしょうけれど、助詞と副助詞というのは……」「そこは表記ゆれになります」「先生は、頑張り屋さんですね」「僕は担当者です。だから、僕が先生を守ります」アニキと交わした言葉の数々が、頭の中を駆け巡る。嫌な思いがひとつもなくて、熱さの中にも輝いた、素晴らしい記憶ばかりが蘇る。

 甘いスイカを食べ終えて、僕は心の中で両手を合わす。

「とても、おいしゅうございました。約束の讃岐うどんは、僕のおごりりで(笑)」

 いつになったら来てくれる? いつまで待てば、こっちに来れる? 一緒にうどんを食う約束が、未だに果たせぬままだけれども? 僕との約束を忘れたかい? そんな僕に、アニキは照れくさそうに言うのだろう。

「お待たせしてすみません」

 そんなアニキは、もういない。

 おいしかった、ありがとね(笑)

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