ショート・ショート

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死神チハルのハンバーグ

午前零時……死神チハルが仕事から戻ってきた。「おっじ、さぁーん! 私はお腹が空いているのですよっ(笑)」 いつもそう、いつだっそう。チハルは窓から飛び込んでくる。「なぁ、チハル。ただいまは?」「そうでした。ただいまでしたね。ただいまチハルは戻りましたですよ、へへへ」 チハルは反省したような声で言ったけれど───その満面の笑みが、すべてを物語っている。つまり、チハルは反省などしてない……。「なぁ、チハル。それそろ玄関から入ってくれない? 急に窓から入ってくるの、毎回ビックリするんだけどなぁ……」「ビックリはしないでしょ? 窓から隣の女の子が入ってくるのは、少年漫画の定番ですよ」 いやいやチハルち...
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巨大なUFOの黒い影

俺たちは土手にいた。 お日様は暖かいし、やることねーし。川の土手に寝そべりながら、青い空にぽっかり浮かんだ白い大きな雲を眺めていた。俺の隣で寝転んでいるのは、職場の同僚、鈴木である。今年で入社三年目。金なし、趣味なし、彼女なし。こうして転がってりゃ、金もいらない。コンビニでパンとコーヒーを買ってきて、土手でランチがお似合いだ。「佐藤さんよ、彼女できたか?」 鈴木が俺に訊く。知ってるくせに、そんな上等なのいるワケねぇ。「そんなのいるわきゃねーべ、知ってるくせして……」 不機嫌気味に俺は答える。「そうだよなぁ、俺たちいつも一緒にいるもんなぁ」 鈴木が大きくため息をついた。「なーんかさぁ、ゾクゾクす...
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仕事しながら泣く男

その男は、泣いていた。 夜の工場で、泣いていた。 誰もいない深夜作業を会社へ志願し、夜な夜な孤独な作業に勤しむ男がいた。けれど、男の涙を知る者は誰もいない……そう、いないはずであった。ある夜、残業帰りの事務員にそれを見られるまでは……。「わたし、見ちゃったんです。深夜作業の男の子、泣きながら仕事してるんですよぉ。わたし、びっくりしちゃって……あれは、そう……むせび泣きでした。なんて言ったらいいのかしら? 声すらね、かけられませんでしたよぉ~」 それが、社長夫妻の耳に入る。 男はバイトである。これまでの真面目さを買われて正社員でもないのに、工場の鍵を預かっている身であった。そんな彼が泣きながら仕...
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死神チハル

一九八二年、春。 彼女は生と死の狭間を彷徨っていた。 午後三時。確かに信号機は青だった。手を振りながら、彼女が俺に向かって横断歩道を走り寄る。俺も手を振りながら彼女を待った。横断歩道の真ん中で、ドン! という鈍い音。同時に彼女の細い身体が吹き飛ばされた。事故である。白いワンピースと黒い路面が、彼女の血液で赤く染まった。あらぬ方向に折れ曲がった腕と足。その光景に、誰しもが彼女の死を直感した。 ───それでも、彼女は生きていた。 彼女の息はあったのだ。今日、俺は彼女にプロポーズをするつもりだった。なのに、ボロボロになった彼女を抱えて、俺は救急車の到着を待っている。それは、途方もなく永い時間に感じら...
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白い月

───もう、一年が経つのね……。 明るくて、賢くて、気遣いがあって、可愛らしい子……。 ぽっかりと空いたベッドに、あの子の姿を思い出す。看護師の私にとって、生と死は日常の出来事だけれど、ふとした瞬間に思い出す。あの子の笑顔と、あの子との会話を。あの子は娘の友だちだった。看護の業務に私情は禁物。それは十分理解している。でも、あの子と接する度に、娘とあの子が重なって見えた……。───お月様。 あの子には好きな人がいた。彼をお月様と呼んでいた。こんなに美人さんなのだから、彼氏候補なんて、あの人だけではないでしょう? もっと身近な男を選びなさい。近くで、あなたに寄り添ってくれる人を選びなさい。残された...
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呪いのフォルダ(肆)

───cursed-folder-case4(1975-05-15 07-04) 一九七五年五月十五日。 今、わたしは彼が残した日記を読んでいます。この日記にわたしの文字を付け加えながら。ねぇ、あなた。こうして読むと、交換日記みたいよね。ねぇ、あなた。どうしてわたしを置いて行ってしまったの? お願いだから帰ってきて。もうすぐ、わたしたちの結婚式なのよ。 わたしの健太郎さん……。 一九七五年五月二十日。 健太郎さんは死んだ。 五月一日、事故で死んだ。わたしが病院に駆けつけたときには遅過ぎた……即死だった。 健太郎さん。披露宴会場とか、ケーキとか、ドレスとか……。今日ね、すべてのキャンセルを済ませ...
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呪いのフォルダ(参)

───cursed-folder-case3(1975-04-16 05-15) 一九七五年四月十六日。 私と彩夏さやかの挙式を七月七日に決めた。 年に一度の七夕であり、彼女の誕生日でもあったからだ。知人が経営するホテルで、彩夏と結婚式の打ち合わせを終え、その足で田所たどころ博士の家に向かった。あのマシンを目の当たりにして、彩夏はどんな顔をするのだろう。それがとても楽しみだった。だがしかし、私の予想に反して彩夏の顔は不安げだった。「お願いだから、この機械の電源だけは入れないで」 彩夏は私に懇願した。彩夏の推測では、この扉は異次元への入り口だと言う。高次元なのか、別世界なのか、それとも別の時代へ...
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呪いのフォルダ(弐)

こんばんは、斎藤です。 では、先週の続きから……僕がファイルを発見した経緯からお話しよう。 僕は、僕の大切な人のために嫌いな奴と手を組んだ。そして、僕の知り得る輪廻転生についての情報を彼らに流した。さも、偉そうに……。詳細と経緯は〝邂逅〟で記されたとおりである。 思春期の若者ならば、誰だって都市伝説の類たぐいが好きだ。動画サイトの再生回数を調査すれば、それは紛れもない事実である。今も昔も毎日のように、人類滅亡の考察と予言もどきの動画が公開され続けている。無意味な情報に踊らされる人々の姿は滑稽だ。 ネットでどれだけ調べても、手に入る情報には限りがある。新発見をしたような気になっても、どこまでも同...
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呪いのフォルダ(壱)

アナタの身近でこんな話を耳にしたことはあるだろうか?───忽然と人が消える……。 元気に生活していたあの人が、前途洋々だった若者が、追い詰められた老人が───失踪、失跡、蒸発、そして神隠し……。その呼び方は様々である。けれど、人が消える事象と捉えれば同じだと言えるだろう。 そして、皆さんは〝呪いのフォルダ〟をご存じだろうか? ほら、そこの女学生が話題にしている都市伝説。そこは、僕の世界とはまた別のパラレルワールドである。ブログ王世界の女子トークに耳を傾けてみようではないか。「ねぇ、アケミちゃん。呪いのフォルダの話……知ってる?」「知ってる、知ってる。メールとかSNSに貼り付けられたアドレスをク...
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この世界線の分岐点

俺は同じ夢を見る。 決まって見知らぬ公園を女性と散歩をしている夢である。そして、赤いベンチに座ってランチを食べる。ランチはいつも、彼女が作ったおにぎりだった。食事を済ませて彼女の家まで送り届けたところで夢から覚める。公園から見える大きな風車が印象的だ。散歩の途中だったり、ランチの途中だったりと、夢から覚めるタイミングはまちまちだ。 中学になるまでは、色付きの鮮明な夢だった。高校を卒業する頃になると、その夢を見ることも少なくなった。見ても断片的な夢であった。その夢には色もない。 社会人になって、夢の記憶を思い出す。 あの公園はどこなのか? あの女性は誰なのか? あの家は実在するのか?……とはいえ...
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産神チフユ

人里離れた展望台。 そこは少年のお気に入りの場所である。少年はそこで本を読むのが好きであった。とある春の日。桜の木元のベンチ。そこに腰を下ろして古文書に目を通す。その鋭い眼光は、何かの糸口でも探すかのようであった。満開の桜の花と穏やかな春の日差し。頬をかすめるそよ風が、静かに少年を包み込んでゆく……。 何かの気配に少年は気づき、顔を上げると少女の姿があった。それは、愛しくも懐かしい……夢にまで見た少女であった。少年は理解していた。これは、ありもしない現実であると。そして思う……きっと、あのお方に違いないと。「あなたは、チフユさんですね?」 静かに少年は少女に問いかけた。それは、幻に話しかけるか...
小説の話

シン・ウルトラマンの作戦室が素晴らし過ぎて

ブログでもそうなのだけれど、僕にとって執筆環境は重要である。ブログに要する執筆時間は、長くても2時間以内に完結させる。それをこえるとタイムアウトで、今日もサヨリは元気です(笑) 毎日が、時間との追いかけっこの始まりです。 陸上競技に例えるのなら、ブログはスプリンターで、小説はマラソンランナー。机の位置、椅子の高さ、雑音とサヨリさん……。気になり始めたら問題は目白押し。気にしなければ問題解消。でも、神経が過敏になると、ちょっとしたことでも気になるもの。 11月と12月。小説の追い込み時期にもなると、山小屋でも借りてしまいたい。そんな気分にもなっていた。ペンションや別荘は広過ぎて、僕には山小屋くら...
小説始めました

ライダー変身ベルトは涙のベルト

───隕石が地球にぶつかる、運命の日まで二十九日。 インターネットが死んだ日。 それは、忌まわしい世界放送から一週間後の出来事だった。その頃、俺たち三人は彼女が住む街に向かって歩いていた。国道をすれ違う人々の顔に生気はない。「どいつも、こいつも、ゾンビみたいな顔してやがるwww」 ちゃかしたように、オッツーがコソコソ俺に話しかける。オッツーは、最後まで旅への参加を拒否した男だ。それが出発当日の朝。突然、旅への参加を表明し、今日も俺たちと歩いている。 どういう風の吹き回しだろうか? 俺は、ずっと気になっていた。 腰にはトレードマークのライダーベルト。ライダーオタクのオッツーは、最後の日まで正義の...
小説始めました

ペンギンさんとペリカンさん

ペンギンさんは、俺のブログの常連であった。記事を書けば、必ずコメントを入れてくれる人であった。楽しくてとても優しい人でもあった。───ペリカンさん、こんばんは(笑) ペンギンさんからのコメントは、この一行からいつもはじまる。そんなペンギンさんからのコメントがプツリと途絶えた。ブログを書いていれば、そんなこともある。きっと、俺のブログに飽きたのだろうな。 それから一ヶ月が過ぎた頃、見知らぬ人からメールが届いた。ペンギンさんの訃報であった。ペンギンさん。それ以外、何も知らない相手であった。なのに、突き上がる嗚咽が抑えきれずに俺は泣いた。ワケもわからず泣き崩れた。───姉にとって、はじめから叶わぬ恋...
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ブログ主はただのおっさん

わたしには推しのブロガーがいる。ひいき目に言っても、ブログ主はただのおっさん。若いわたしが推すなんて、そんなの夢にも思わなかった。 検索で見つけたのは四年前。パパに買ってもらったガラケーで、はじめて読んだブログだった。でもね、ほんとはスマホが欲しかったの。リンゴの会社のスマートフォン。でもね、パパがわたしにこう言うの。「スマホは魂が汚れるからダメ!」 知ってる、それ、嘘でしょ? だったらクラスのみんな、心が汚れてるとでも言いたいの? そんなの言い訳。可愛い娘が心配なんでしょ? だからガラケーだって持たせたくなかったんでしょ? その証拠に、パパからメールが届くもの。一日に何度もよ。過保護が過ぎて...
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ショート・ショートにローカル・ルールを追加します

そうね、そうね、マズいわね(汗) 記事の中にショート・ショートを盛り込みはじめて、気づいているのに手を打ってない事があった───他でもない、タイトルである。 これまで、ショート・ショート(超短編小説)のタイトルの前に『ショート・ショート』の文字を添えた。ブログとは、言葉で実感を伝える装置。つまり、記事の主な題材は体験である。世の中には小説が主体のブログもある。だけれど、猫ブログからスタートした〝キジとら〟には、小説の初期設定がまるでない。 現実のはずなのに何かが違う...。 小説という新たなカテゴリ追加に、長年の常連さんの混乱は避けられなかった。タイトルに〝ショート・ショート〟を付け加えたのも...
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ショート・ショート『よつぼしの苗』

愛猫の猫砂を買いにホムセンに立ち寄ると、山のように陳列された使い捨てカイロが目に飛び込んだ。 何これ冬じゃん? 冬ソナじゃん! え? もうそんな季節? だってそうでしょう? 今日だってほら、熱中症アラート出ているし……。控えめに言っても夏である。 大自然へ背を向け続けた人類である。たった一握りの人間が行い続けた暴挙の数々。理由は簡単、私利私欲。地球がお怒りになるのも当然だ。畑を始めてから一年と半分。僕は最近、それを強く感じるようになっていた。 そこは、上流国民の皆さんの意識改革にかかっております。原始時代、江戸時代までとは言わない。せめて二十年前の生活に戻さないと、大変なことになりますよ。 て...
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ショート・ショート『アフィリ記事の書き方』

皆さま、ごきげんよう(笑) わたくし、サヨリの父でございます。SNSでは希にママと間違われることもございます。けれど、漢たるシンボルも、細やかながら標準装備しております(汗) 猫のお世話というのは、それなりに大変でございます。朝食、夕食、昼食さえも視野に入れる日もございます。気温も落ち着いた食欲の秋...これからが大変です。 わたしにとって、朝の十五分とは文字通り修羅場でございます。愛猫を撫で、抱き上げ、食事を取らせ、ミルクを飲ませ、己の身支度を済ませるのです。 休んでいる暇などございません。疲れている暇などございません。そして、この顔には逆らえません……。 幸せというのは、何気ない繰り返しの...
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ショート・ショート『電子メール』

そのメアドは思ったとおり、現在、使われていないメアドであった。だとすれば、考えられるのは〝なりすまし〟である。
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ショート・ショート『青きスーパームーンの夜に』

歳の頃なら四、五歳だろうか? こんな夜中に小さな子を放ってもおけない。でも、子どもの相手など僕は知らない。この世に産まれて十と七年。人生最大の危機が訪れて、今日もサヨリは元気です。このブレーズはブログ主の事情の方か(汗)