明晰夢(アタエ)
日曜日から月曜日に日付が替わる直前で、今夜は寝ないと心に決めた。金閣寺に興奮して眠れないのだ。書きたい、書きたい、書きたい……腕がうずいて眠れない。机の上に原稿用紙の束を置き、その横に新聞広告に書いたメモを添えた。もう、舞台は整った。さぁ、書こう。パン、パン、パン。気合を入れて頬を叩く。すると、俺の脳裏に不安がよぎった。アタエ……俺に小説が書けるだろうか? お前が満足するような小説を……。 一度目の人生で、俺を陰で支えたアタエはいない。俺の最高の理解者だった。アタエとの二人三脚に慣れ切った俺が、ひとりで小説を書けるのか? だが、今の俺にはアタエがいない。腹を括くくって、芥川あくたがわの万年筆…...