みなさんに、こんな経験はあるだろうか?
自分の記憶の世界地図でオーストラリアの位置が違っていたり、ピカチュウの尻尾の色が違っていたり……まるでパラレルワールドに迷い込んだように、同時多発的に多くの人々の記憶がずれている。この現象は、マンデラエフェクト(マンデラ効果)と呼ばれている。今では、オカルト界隈での常識だ。
もし、これが個人に起こったら?
これまで、猫と思っていた動物が、犬と呼ばれる存在ならば? 猫の画像を、だれに訊いても犬だと言ったら? 疑心暗鬼に襲われて脳がバグるのではなかろうか?
それでは、話題のベクトルを変えよう。
ご自分の財布を確認してほしい。どこにも財布がなかったら? カバン、ポケット、机の引き出し……多くの人が、部屋の中を探すだろう。それでもなければ、家の中へと捜索範囲が広がるだろう。そして、財布を探しながら思考する。朝はあった。バスで財布を出した。ランチは? 会社は? そして、帰り道……コンビニでアイスを買った。自分の一日の行動を思い出し、記憶の中で財布を探す。つまり、人生を少しだけ振り返る。
数時間前、こんな経験をした。
半世紀もの間、イタリアン・スパゲッティだと信じていた料理が。当然のように思っていたものが。ナポリタン・スパゲッティだとしたら……。ナポリタンだって、知っている。イタリアンのあとから登場した名前だと記憶している。イタリアンのおしゃれな呼び名がナポリタン。この認識で生きてきた。
パスタという呼び名は、イタ飯ブームに乗っかって、バブルの時代あたりでメジャーになった記憶がある。夜霧のハウスマヌカンが、石田純一とイカ墨パスタを食べているイメージがある。てか、ハウスマヌカンってなんだろう? いろいろと記憶が曖昧だ。
でも、イタリアン・スパゲッティは、ありますっ!
話は変わるが、今現在。誤字脱字、表記ゆれなど、執筆中の小説をチェックしてもらっている。東日本の人物で、細かく見てくれるありがたい存在だ。その守備範囲は単語にまで及んでいる。もはや感謝の言葉しかない。数時間前、指摘事項が書かれたメールにイタリアンという単語があった。たまに食べたくなるスパゲッティだ。
ナポリタンではありませんか? まわりの知人に訊いても知らないと言われて……。
お分かりだろうか? ひとりマンデラエフェクトである。猫の話と同じだ。複数人の証言があると言われたら、僕の記憶違いであるのは明からだ。まって、まって、まってー。だとすれば、僕は半世紀以上も……僕はイタリアンだと豪語していたことになる。なのに指摘を受けた記憶がない。枯れた脳が……激しくバグる。激バグだ。
今日も仕事だった。仕事の帰りにスーパーへ寄った。冷凍食品を確認するためだ……なぬ? ナポリタン? そっか、そっか。ついに、僕もパラレルワールドの仲間入りか……とはならない。
そこで、これまでの人生を振り返る。高校時代、喫茶で「イタリアン」を注文した記憶ある。一緒にクリームソーダも注文した。それが、サテンの定番だった。イタリアンは、茹でたパスタ麺をウィンナーとピーマンと玉ねぎとで、炒め合わせてケチャップで味をつけた料理。当時は、目玉焼きのトッピングはなかったと思う。
あってるか? あってるな? 心、キョドる。
そうこうしているうちに、ふと思う。ナポリタンって、どこですか? パスタの本場はイタリアじゃないの?……ナポリって国は、どこですか? どこの嵐が吹き上げる。ここは一旦、落ち着こう。命までは取られまい。
やっぱ、ググろ。
ようやくスマホを開いて、ググってみた───画面にずらりと、ナポリタンの文字が並んでいた。僕の知ってるイタリアンの写真を添えて……げっ。まだまだぁ! 腰を据えて調査すると、Wikipediaにイタリアンスパゲッティの項目を見つけた。
関西では、一部の喫茶店において、ナポリタンをイタリアンと呼んでいる。昔は一部ではなく、近畿地方(特に大阪)でイタリアンと表記・呼称していた。語源説として、料理の色彩(ケチャップの色)がイタリアを連想するからともいう。
Wikipedia イタリアンスパゲッティより引用
昔は……か、ふふふふふ。ようやっと謎が解けた。イタリアンをナポリタンに変えることに抵抗などないけれど、己の記憶に自信を失くすと、今後の執筆に不安が残る。若い者は知らぬだろうが、俺の若い頃はな……というやつだった。
今回の小説は、特定の地域性を考慮していないのだから、ナポリタンが正解だ。すっきりしたので、イタリアンをナポリタンに修正しよう。
現場からは以上です(笑)

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