
新人作家と老作家
小説家は物事に敏感な生き物で、些細なことにも興味を示す。新人作家、飛川三縁ひかわさよりも例外ではない。駅で花音を待つ間、ひとりの老人に目が留まる。本を読む老人の姿が輝いて見えたのだ───〝檸檬れもん〟か……。 誰かのお迎えだろうか? それとも旅行? 老人の表情が実に明るい。まるで、恋人でも待っているかのような……もしかして、奥さんだろうか? だったら、ロマンチックな待ち合わせである。三縁は思う───かくありたい。 ぼんやりと老人の所作を眺めていると、三縁のスマホにメッセージが入った───〝少し遅れます。ごめんなさい〟花音かのんからの連絡だ。一旦、引き返そう。そう考えた三縁であるが、その老人が気...