もうやめて、リードを付けたまま脱走した愛猫決死の救出劇

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うちの猫の話

毎度お馴染み愛猫サヨリは自由に生きる野良猫だった。そして、元は何処かの飼い猫でもあった。それが発覚したのは獣医の一言だった。

───去勢されてますね、男の子です

姫が殿?。

はぁ?、だった。それしか口から出なかった。美人さんが美男子さんで飼い猫だったって、ミステリと云う勿れだ。

獣医さんから太鼓判の推定3歳のお殿様。暇さえあれば、外出中で、2〜3日姿を眩ます事も珍しくは無かった。カマキリ、雀、トカゲ、蛇。手間暇かけたお土産は軽くホラーの香りがした。そのたびに家の中から悲鳴が上がった。

───今日から外出禁止デス!

サヨリちゃんが完全室内飼いへとシフトした原因は猫ノミだ。僕の部屋でノミが大発生した。薬を使うのはサヨリちゃんによろしくない。そんな理由からブラッシングと部屋の掃除だけでノミを完全に駆逐した。

───二ヶ月にも渡る戦いだった

それ以降、サヨリちゃんは完全室内飼いの猫となる。毎日、外をフラフラ遊んでいたのだ。ジッとしていられる筈もない。完全密室からの脱出劇がサヨリさんの十八番となる。気がつけば外にいた。お前、ルパンか?。三代目引田天功を命名されるのは彼しかいない。そんなイリュージョンを見せ続けた。

───リードに繋ごう

長いリードに繋げば脱出不可能。数ヶ月その生活をさせると、サヨリちゃんも諦めたかのように見えた。僕らは決して挫けない。

───サヨリは諦めてなどいなかった

猫の大脱走からの猫の大救出

「父さん、サヨリちゃんが逃げた。何処にもいないし!」

帰宅するなり息子が半べそ。どうやって逃げたのだろう。小首をかしげながら考える。今思えば、それがサヨリの最後のイリュージョンとなる。

───命をかけた大脱走

「ひも、ついたまま逃げた」

その一言で血の気が引く。下手すりゃ首吊り。どこかで引っかかって身動きが取れないのかも知れない。何れにしても、命が危険に晒されている事に変わりない。

「最後に見たのは?」

「夕方」

息子の証言によると、午後5時には家にいた事になる。時計は午後11時。6時間もの時が経っていた。まっしぐらに外へ出る。

夜の散歩で彼の行動範囲は理解している。いつもの散歩コースを探し、サヨリが居そうな場所で声をかける。かつて、野良猫にサヨリの居場所を教えてもらった経験から、目が合う野良猫に訊いてみたりもした。

───見つからない。

暗闇では捜索が困難。そう判断し、家に懐中電灯を取りに戻る。すると、どこからかサヨリちゃんの泣き声が聞こえた気がした。

鳴き声ではなく泣き声だった。

「ア、ア」

サヨリちゃんはニャーとは鳴かない。

「サヨリちゃん?」

「ア、ア」

「サヨリちゃん?」

「アー!」

天からサヨリの声が聴こえる。「ラーン!」「シンイチー!」さながら劇場版名探偵コナンのワンシーンのようだった。

サヨリの声は、お向かいさんちの屋根の上から聴こえる。屋根の上を凝視すると、屋根の上でサヨリちゃんが鳴いていた。屋根瓦の上から情けない声を出して泣いていた。ベランダにリードが引っ掛かって動けなくなっていた。

───灯台下暗しだった。

悪いとは思いつつ、お向かいさんちのチャイムを鳴らす。しばらくすると奥さんが出てきた。明らさまに不機嫌だった。恐る恐る事情を話すとすぐにベランダからサヨリちゃんを救出してくれた。

お向かいさんは、猫を数匹飼っていて、猫の扱いにも慣れていた。猫に対する理解もがあり助かった。猫を飼っている人に悪人などいなかった。心の中で奥さんをアベンジャーズの一員に加えた。

───ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

お向かいのペッパー・ポッツに抱きかかえられ、無事生還を果たしたサヨリちゃん。心なしか得意げな顔が憎らしい。大冒険を達成し、意気揚々と部屋に戻り、無心でカリカリを食べ始め、そのあと盛大に嘔吐した。

───可愛いの暴力とはこの事か?。

翌日からサヨリちゃんの首輪は、セーフティ機能搭載の首輪に変わる。その後も懲りずに脱走を企てるものの成功には至らない。この一件で、少し臆病になったのかも知れない。

───その数年後。

僕の事務所がサヨリちゃんの棲家となる。ここなら構造上、脱走は不可能である。完全密室でありイリュージョンなど起こらない。ヤンチャだったサヨリちゃんも、老猫になりサヨリさんと呼ばれるようになる。ドアを解放しても脱走の気配すら見せなくなった。

───あの日の脱走劇。

ミルクを狙う猫

たまに懐かしんで想い出す。

今日もサヨリは元気です。

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