始まった……。
どういうワケだか、最近のサヨリの食が細くなった。人間だって食欲なき日があるのだから、猫だってそんな日もある。でも、僕は知っている───これが、サヨリのプレイ(性癖)なのだと。ご飯は食べたい、だから見ていて……見てくれないと食べません! おまいさんは、拗れた彼女か? 時たまやらかす、これがサヨリの悪い癖。まぁ、元気だからいいけれど(笑)
「どうした?」
「ごわぁ~ん(ご飯)」
「食うんか?」
「うーぅぅぅ……(当然だ)」
サヨリは食べる気満々。食べ始めたのを確認して、僕がポメラに向かうと、サヨリはご飯にそっぽ向く。またなのか? またアレが始まったのか? 僕の手から食べさせると、何事もなかったかのように食事を再開。つまり、『アーン、しろっ!』なのである。暇ならしてあげてもいいけど、僕はメイド喫茶と違うのだけれど……「ご主人様、アーン」である。にしても……だ。何でこれやるのかな? 面倒だ。
子どもに自転車の練習をするように、調子に乗り始めたら手を放す。それで食ってくれる日もある。がしかし、そうじゃなければ最後まで。ご飯が終われば、放課後ミルクタイムの時間である。お皿にミルクを注ぐ途中で顔を突っ込むサヨリだけれど、甘えん坊将軍の時期になると澄ました顔して見てるだけ。
───そう来るか……。
お皿を顔の前まで近づけると、そこでようやく飲み始める。これまた、調子に乗り始めたら無罪放免。ようやくポメラに向かうことができるのだ。もし仮に、放置プレイを慣行などしようものなら、キーボードに前足乗せて、僕の作業妨害をし始める猫である。頭がいいのか? 悪いのか? こうすれば無理が通る。それだけは理解しているようだ。
ミルクを飲み終えると段ボール箱の中へ。とはならない。彼の中で何かが拗れているようだ。取りあえず、俺を抱け! 仕方ないから抱っこする。何も言わずに外に出ろ! 仕方ないから抱っこしたまま外に出る。
僕の腕から身を乗り出す鼻先。その向こう側で声がする。そっか、そっか。今回の謎のわがまま。その理由が見えた───鳥の巣だ。毎年、隣のビルに巣を作る鳥がいる。それは、ツバメでもハトでもない。名前も知らない小さな鳥。その巣からヒナの鳴き声が聞こえていた。
年老いても猫は猫。甲高いヒナの声に反応しているようである。デューク東郷がターゲットを狙うように、サヨリは鳥の巣に向かってゴルゴの視線を浴びせていた。5月になるとオス猫失踪事件が相次ぐ季節。家から離れる大冒険は科学的にも立証済み。それはオス猫の本能なのだ。遠い昔を思い出して、老猫サヨリも血沸き肉躍っているのだろう。
若いオス猫の飼い主さん。猫の脱走にはお気を付けください(笑)
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