猫は賢い生き物です

水曜日(猫の話)

 水曜日は猫の話

 桃畑で摘果してると猫の話題で盛り上がった。かつて、猫を九匹も飼っていた勇者がいたからだ(現在三匹と同居中)。愛猫しか知らない僕にとって、興味深い話が飛び出す。その中で、オス猫は甘えん坊という話題に突入した───うちのサヨリは甘えん坊だけれど、果たしてオス猫は甘えん坊なのか?

「オスもメスも同じでしょ?」

 甘えん坊なオス猫もいればメス猫もいる。僕はそう信じている。人間だってそうなのだから。

「オスは甘えん坊だよね」

 そ、そうなん?……勇者にそう言い切られてしまう。

「メス猫は難しのよ。気分がコロコロ変わるから。甘えに来て撫でであげると、急に引っかいたりするからねぇ」

 猫も人も、女心と……なのだろうか? どうやらメス猫は、起伏が激しいらしいことを言う。そうなのか……まぁ、経験値は圧倒的に上である。そこは素直に信じてしまう。今年はカメムシが多くて、結構な数の桃が食われている。残すべき桃の実を選別しながら作業に戻ると、質問返しが始まった。

「お宅の猫は男の子?」

「そうそう、男の子」

「可愛いでしょ?」

「うちの子は、めっちゃ甘えるよ」

「いくつ?」

「15の春は超えたかな? いつも膝の上でゴロゴロ鳴いてるよ」

「そうなん? キジトラ?」

 もしかしてあなたは、ババ・ヴァンガ?(ブルガリアの予言者)

「正解です(笑)」

「そうなんよねぇ、キジオスは甘えん坊さんなのよねぇ。うちのキジトラも甘えん坊さん」

 勇者の顔から笑みがこぼれるのだが、ふたりの証言だけではエビデンスが足りないな……。

「一般的に、キジトラ猫は甘えん坊だって言われるけれど、あれって本当?」

 ここからは、僕のターン。

「友達もキジトラ猫は甘えん坊が多いって言ってるし。たぶん、そうなんじゃない? 知らんけど」

「うちの猫をお姫様抱っこして歩いていると、猫飼ってるって人からビックリされることがあるけど、猫って、そんなに懐かないものなん? 普通に抱っこくらいさせてくれるでしょ?」

 これは長年の疑問だった。サヨリをお姫様抱っこして歩いていると、そう言われるのが不思議だったのだ。が、しかし……隣の勇者から全く同じ反応が返ってきた。

「それはないでしょ? 引っかかれるわ(汗)」

 僕は条件反射で質問する。

「猫の爪……切らないの?」

「切らせてくれるワケないでしょ? どうやって切るの?」

 何だか少し逆切れしている勇者である。

「爪切りでだけど……」

「怒らない?」

 怒っても、まずは爪でしょ? 子どもにピストル持たせているようなものだから。猫にあんな凶器を持たせる方がどうかしている。

「最初は怒ってたかもしれない……」

「今は?」

「僕にされるがままって感じ。むしろ……手を出す」

 勇者は少し固まって、意を決したように僕に言う。

「今度、お宅のにゃんこの爪を切ってるところ見せてくれる?」

 この人、絶対信じてないな。

「いいですよ、いつもでどうぞ(笑)」

「約束したわよ、逃げないでよ」

 あなたから、逃げる理由が見つからない……。

 その反応で分かった気がした。オス猫が、キジトラが、甘えん坊ってワケではなくて、爪を切られると猫は無駄な抵抗をしなくなるのだと。だって、そうでしょ? どれだけ攻撃しても効果がないのだ。どんな猫だっていずれは諦める。自由に爪を武器にしていたころのサヨリは、目に見えぬ威圧感を持っていた。だから僕も気を抜かなかった───一瞬でも気を抜けばやられる。そんな〝切った張った〟の世界だった。つまり、猫は爪を切られると、割と言うことを聞いてくれる生き物かもしれない……。

 ちなみに爪を切られてから、散歩中によその猫と遭遇すると「行けっ! ピカチュウ!」と言わんばかりに、僕の背後でドヤ顔するサヨリである。いろんな意味で、猫は賢い生き物です(笑)

 

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