「しかし、暑いですねー、お父さん。」
「夏だからねー、サヨリちゃん。」
「あーーー暑い、暑い。」
「外に出てみる?。リードは付けるけれど、キジとら事務局のドアを開けてあげようか?。」
「喜んで~!。」
「どちらかと言えば、『喜んで~!』は僕のセリフだと思うのだけれど。じゃぁ、ドアを開けるよぉ~。どうぞ、夕涼みなりなんやりやってみ?。外の空気、吸ってみ?。」
オープン・ザ・ドア
「むむ・・・。」
「サヨリちゃん、フリーズしていないかい?。」
「外が見える。」
「宇宙(そら)が見えるみたいな感じになっているのだけれど、サヨリちゃん。首輪にリードが付いているから、そこから遠くへは行けないよ。その辺にモビルスーツだって配備されていないから。状況としては絶望的だと思うぞ。そこら辺で転がっていなさい、アムロ君。」
「大丈夫です、お父さん。ボクなら、ひとりで何とか出来ますって。」
「いやいや、ゲージがピーンと伸び切っているから、それ以上は行けないから。このビルは、外に出たらすぐ国道だから。国道は車の通りも多いから危ないんだって。外に出てから顔だけはキリッとしているけど、危ないから、そこら辺で転がってなさいってば。」
「だったら、リードの先を持って一緒に出掛けましょうよ、お父さん。いつもの陸橋のところでも、近くの公園でも良いですよ。新たな出会いがあるかも知れません。長門有希ちゃんが歩いている可能性だってゼロでは無いのですから。」
「長門有希ちゃんはゼロだろ、100万パーセントゼロだから。それに加えて、お父さんは新たな出会いなんて求めていませんから。空から美少女が降ってくるなんて事も無いですし、散歩の途中で涼宮ハルヒちゃんとすれ違う事もありません。ラノベライズな設定を期待してはいけませんよ。現実は、予想以上に退屈なものなのです。・・・でも、朝比奈さんとは逢ってみたい気もするけれど。」
「お父さんは、冷めていますね、夢がありません。長門有希ちゃんがいなくても、このラインは、今日越えたい一線です。」
「サヨリちゃんは、一線を越えたんですか?。」
「そんなゲスなボケには答えませんよ、ボクの品格が下がりますから。この結界を越えれば、外の世界へ出られます。ただ、この紐がボクの行く手を邪魔するのです。お父さんが、この紐の向こう側を持つことによって、この限界結界ラインを越えることが出来るのです。事象の地平面を渡って見たいとは思いませんか?。早くボクを自由にして下さい。その為のサポートをお願いします。そうすれば、きっと長門有希ちゃんと会える事でしょう。」
「長門有希ちゃんは、宇宙人の手によって作り出された『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース(TFEI)』らしいから。従って、我々は有希ちゃんに会えない方が、寧ろ幸せな余生が送れるものだと思うぞ。事象の地平面はブラックホールの中だからなぁ〜、それを渡るのはちと怖いわ。そしてもっと重大な問題がひとつあります。サヨリちゃん、お外は雨天です。雨が降っています。ザーザーです。この前の朝散歩の時を思い出してみましょう。
雨を見たらこんな風に軽く放心状態になるのじゃないかな?、サヨリちゃん。あの日だって、海に着いたら、しばらく転がって空を眺めていたじゃない。何か予定と違うんだけどって顔してたじゃない。ここから雨が降っているのが見えるでしょ。それでも行くのかな?。お父さんは傘をさすから良いのだけれど。お父さん、割りと雨降り好きだし。」
「う~ん。やっぱり止めておきます。ここは涼しいですから外は次の機会にお願いします。その代わり、もう少し、ここで転がっていても良いですか?。」
「ドア開けておくから、気が済んだら帰っておいでね。」
「ラジャー!!!!。」
その後、サヨリちゃんは小一時間に渡り、通りがかりの人たちに愛想を振りまきながら、頭をナデナデされていましたとさ。
めでたし、めでたし。
※猫がそんなに愛想が良い動物とは思えないでしょうが、一度でもサヨリちゃんと合った事がある人ならば納得の行動パターンです。サヨリちゃんは、意外と人間に媚びる性格の猫ですから。
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