感動させる本がある。心をゆさぶる本がある。そして、人生を変える本もある。良書とはそういうものである。一生に一度、巡り会えるかどうかの一冊。一度でも、それを手にした人は幸せだ。
仕事終わりの夕暮れ時。ブックオフでそれを見つけた。十年ほど昔の出来事。なのに、今でも鮮明に覚えている。それには大いなる理由があった。本の題名は『「女を楽しませる」ことが男の最高の仕事。』恋の指南書である。
とは言え、嫁も子もある身。僕に全く不要な内容。なのに、めくるページが止まらない。こんな本は一生読んでいられる。つまり、好物。
本とは不思議なもので、一度、手に取ると無意識にページをめくる。僕は十ページほど目を通してから、買うかどうかを決める。次に進まなければ次へ進む。けれど、この本は十一ページから目次が始まる。デキる男は……、女は……。そんな一行が二百七個も並んでいた。
これでもいい年をした親父である。表題で書かれた内容も分かってしまう。なのに、分かっちゃいるけどやめられない。この構成、この順序。上手いこと出来てるなぁ。そう思いながら次をめくる。
───君の成功に乾杯(笑)
第一章を開いた瞬間。
僕の目は釘付になった。ページをめくるたびの熱量が半端ない。こんなの滅多にお目に掛かれる代物じゃない。集中力が極限まで高まりゾーンに入る。もう、耳には何も入らない。僕は、無音の世界で一心不乱に活字を追った。
この本は、この本は、この本は……。
どのページも黄金比。完成された記事ネタだった。真夏の畑で一気にポカリを飲み干すように、あっという間に読了した。読了させられたと言うべきか。異次元の熱量と火照った脳。そうだった、そうだった。今日もサヨリは元気です。興奮し過ぎで定番フレーズを書き忘れる所だった(汗)
僕を虜にしたのは、作者ではなく読者である。女を楽しませる。その重要箇所に引かれた線。力強い一本線。彼女のため? 未来のため? 合コンでもあるのだろうか? それとも告るか、告るのか?
俺、この本を読み終わったら、あの子にプロポーズするんだ!
僕の中の邪悪が妄想を呼ぶ。
最初の線は一重線。うん、それは大事だよね(笑) 数ページめくると二重線が現れた。うん、そこも大事だよね(笑) 共感が共感を呼ぶ。書き手と読者の垣根を越えて、その読者と対話を始める僕がいた。心の中で、見知らぬ誰かにエールを送る。
がんばれよ。
一重線の数が増え、二重線の数も増える。心に留めるべき言葉は丸で囲まれ始めた。後半では線の部分が大半を占め、新たに★マークが出現する。熟読度合いが鬼気迫る。こんなに汚されて……こんなの書き手みょうりに尽きるじゃん。僕は迷わず本を買った。値段は男の百八十六円。お安いものだ。パソコンを開いて我思う。
これは記事に書けないわ。
たぶん、本の売主はブックオフの近所の人で、もしかしたら知り合いかも知れない。田舎だもの。知り合いじゃなくても、知り合いの知り合いかも知れない。田舎の伝達力は光回線をも上回る。そんなの「おもろい本めっけましたぁ~」なんて、ブログ記事になど出来やしない。人道的に無理である。だから十年近くも温存したのだ。
もう、時効?
そろそろ頃合い?
先日、知人からとある本を頂いた。それは、本を書くための指南書であった。作者の名前に違和感を感じる。知ってる、知ってる、誰やっけ? 自前の本を探してみると、同一人物の著書であった。偶々だけれど、これも何かの縁なのだろう。とは言え、本の画像の掲載は著作権違反。掲載したい気持ちをグッと抑えて、ひとりニヤニヤ読み返している。
本の元の持ち主は、今頃、どんな人生を過ごしているのだろう? どんな暮らしているのだろう? 幸せなら良いのにな。
古本も人生、そういう事です(笑)
コメント
元の持ち主さん、必死さが伝わり応援したくなりますね。幸せになっているといいな。この本、ずいぶん前に親戚の子と本屋に行ったときに見かけました。思わず本を手に取ろうとした瞬間、声をかけられました。「楽しませてもらっても、自分だけが楽しいのは申し訳ない気持ちになるよね。 相手も楽しそうなら、こっちも嬉しくなるから一緒に楽しいのがいいよね」そう、きたか…。気になった本なのに、その後は歳をとり忘れていた本でした。懐かしいな…。
ここまで記入があるのにも関わらず、200円近い値段をつけたブックオフも凄いですね。ワゴンセールで100円行きなら、僕と出会うこともなかったでしょう。リアルでは「これくらい勉強せい」と煽る時に見せる秘伝書です。たぶん、本の内容そのまま実行したら、ケツの毛まで…いや、何でもないっす(汗)
コメント欄のおじさんたちの会話が面白かったです。
おばちゃんより(*´∀`)
裏ではもっとオモロい話をしております(笑)
ちょっとー‼️
ずるーい笑笑
へへへへ(笑)