秋の気配と欽ちゃんバンド

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夜散歩
うちの猫の話
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夕立があったせいだろうか、今夜の風は心地いい。愛猫サヨリも涼しさに誘われて、ひょっこりハウスの中から顔を出した。しばらく様子を伺って。よっこらせと身を乗り出して。なに食わぬ顔でトイレに向かい。何も無い空間を凝視しながら無表情で要を足し始めた。そこ、何かいるんじゃね。

髪の長いお姉さんが立ってんじゃね?。来る〜きっと来るんじゃね?、哀しいくらい貞子かよ。今、電話が鳴ったら、こっちがオートメーションで要を足してしまうわ、怖っ。

真顔で用事を済ませたサヨリさん。いつものお皿の前でピシッっと座ってミルクアピールが止まらない。僕は、よっこらせと冷蔵庫からミルクを取り出してお皿に注いだ。全部飲めよ、コレ高いんだから。悲しいくらい高いんだから、猫のミルク。

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ミルクを一気に平らげると、いつもならハウスへ直行するはずなのだけれど、今夜はいつもと様子が違う。サヨリさんは、そのまま鋼鉄のドアの前で置物と化した。「今夜は涼しいから、外の風にでも当たらないか?」とでも言いたげな顔で僕を見る。目線を合わせておねだりさん。あら、可愛い。じゃぁ、しょうがない。

僕は大きな毛玉を抱いて外へ出た。外はすっかり秋の気配。
あれは あなたの 好き〜な場所♪
だね、小田さん。

御歳13歳か14歳。人間だったら68歳か72歳。そろそろ徘徊が始まってもいいお年頃、うん大丈夫。僕等の時代は終わらない。サヨリはまだまだ元気。

ロブスターには寿命が無い

そうそう、高齢と言えばロブスター。
でっかいザリガニみたいな赤いアイツ。あの子、可愛いふりして寿命が無いって知ってた?。脱皮する度に新しく再生されるらしくって、理論上では寿命で死ぬ事が無いらしい。わりとやるもんだね、ロブ。

ロブの死因の原因は、脱皮の失敗とか、外敵に捕食されるとか、病気なのだとか。それと、残念だけれどキミ、美味しいから…。うん、なんかゴメンね。不老不死のロブにあやかって、サヨリさんも一度脱皮してみれば若返るのに。
お父さん、普通に待つわ。

そんな事を思いながら、サヨリさんをアスファルトの上に解き放つ。前略、道の上より、ゴロンゴロンとマーキング、素意や!素意や!ソレソレって…しないの?。サヨリさんは一世風靡をスルーして、お腹をつけてアスファルトの上に寝そべった。
じゃ、ここで脱皮する?、少しなら待つけど。

そんな僕を、徹底的にシカトしながら行き交う車をニャルソック。トラックが通るたびに身構えながらも、バイクが通れば身を乗り出してた。国道監視中のサヨリさんの後ろに座って、僕もしばしの夕涼み。国道なのに車の通りが少ないねぇ。あ〜、長丁場ならiPad持って出りゃよかった。

欽ちゃんバンド

善三と由貴子はアチチだぁ!
あちち、あちち、あちち、あちち…

って、佐藤B作が言うくらい、暑い夜が続いていたのに、今夜の風は心地いい。車を見るのに飽きたサヨリさん、楽しかったひと時が、今はもう過ぎてゆく〜♪。思い出したように、ガリガリと爪をたてながら僕の膝によじ登る。Yes-Noと問われれば、やっぱり暑いから却下です。

何度下されてもお父さん登りを諦めない、サヨリさん。変なところが頑固になった。逆に抱っこを嫌がっていたのに、時は猫の性格さえも変えるものなのか。でもね、もうね、やっぱり暑い。ハウスへ戻ろう、あそこは冷暖房完備だから。絶対そっちが楽だから。スイッチの入った毛玉を抱えて、僕は事務所に戻った。

ハウスの前に座らせると、サヨリは出てきたスクウェアの中に、再び吸い込まれて消えて行った。眠れぬ夜は昨日で終わり、明日も一緒に車を見よう。来年も再来年も、行けるとこまで頑張ろう。

翌朝、外の空気がゆだってしまって言葉にできない。
あれ、昨日の秋終わった?。「一緒に歌でも歌わない?」ってユッコに誘われても、コニタンみたく「歌?」って返す元気も出ない。アスファルトの上には蜃気楼が揺らめいていて、秋の気配は何処行った?。
夏の終わりはまだまだ先のようだ。

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