2024-01-13

土曜日(ショート・ショート)

産神チフユ

人里離れた展望台。  そこは少年のお気に入りの場所である。少年はそこで本を読むのが好きであった。とある春の日。桜の木元のベンチ。そこに腰を下ろして古文書に目を通す。その鋭い眼光は、何かの糸口でも探すかのようであった。満開の桜の花と穏やかな春の日差し。頬をかすめるそよ風が、静かに少年を包み込んでゆく……。  何かの気配に少年は気づき、顔を上げると少女の姿があった。それは、愛しくも懐かしい……夢にまで見た少女であった。少年は理解していた。これは、ありもしない現実であると。そして思う……きっと、あのお方に違いないと。 「あなたは、チフユさんですね?」  静かに少年は少女に問いかけた。それは、幻に話し...