2024-03-09

ショート・ショート

仕事しながら泣く男

その男は、泣いていた。 夜の工場で、泣いていた。 誰もいない深夜作業を会社へ志願し、夜な夜な孤独な作業に勤しむ男がいた。けれど、男の涙を知る者は誰もいない……そう、いないはずであった。ある夜、残業帰りの事務員にそれを見られるまでは……。「わたし、見ちゃったんです。深夜作業の男の子、泣きながら仕事してるんですよぉ。わたし、びっくりしちゃって……あれは、そう……むせび泣きでした。なんて言ったらいいのかしら? 声すら掛けられませんでしたよぉ~」 それが、社長夫妻の耳に入る。 男はバイトである。これまでの真面目さを買われて正社員でもないのに、工場の鍵を預かっている身であった。そんな彼が泣きながら仕事を...