去年、ブログ運営の未来を決めた。
でも、現実とブログの世界の狭間で、どうしようかと悩んでしまう。どうしても立ち止まってしまう。正月早々、立て続けにあんなことがあったのだ。考えるほどに身動きが取れなくなる。困ったねぇ……。困っているとメールが届いた。知らない人からのお問い合わせ。
───ブログを書いて下さいね。
それだけが書かれていた。
時折そんな、謎解きのようなメールがあるけれど、この一文に並々ならぬ重さを感じた。僕の読者は限りなく少ない。なのに、知らない誰かの助け船。
被災地に友人のような読者がいるかもしれない。ならば答えは決まっている───書くだけだ。予定どおりに始めよう。サヨリとの昔話でも書きましょう。
☆☆☆☆☆☆
犬しか知らない僕にとって、猫は未知の生物だった。サヨリの飼い主は息子である。だから、僕は無関心。意識してサヨリとの距離を取っていた。だってそうでしょう? 下手に懐かれても困るから。飼い主のブライドに傷をつけてはいけない。でもそれが、間違いの始まりだった。
無関心な僕に、猫が好奇心を寄せたのだ。
控えめに言っても、サヨリはシュッとしていて、凜としていて、小柄でスリムな猫である。当時のサヨリは美猫だった。美しい野良猫だった。だから、僕はサヨリを女の子だと思い込んでいた。ナニが無いもの。けれど、サヨリの正体はオス猫だった。その驚愕の事実を知るのは、それから半年以上も先である。
猫は呼んでもこないらしい。
けれど、呼びもしない僕の隣で、サヨリはいつも寝転んでいた。しっぽ、前足、背中、顎……。僕に何かしらのパーツをくっ付けて。ゴロゴロ喉を鳴らしながら寛いでいた。
「おい、お前……」
「……」
今では簡単な人語を話す猫である。けれど、若きサヨリは無口だった。ずっと喉を鳴らしているのだから、不機嫌ではないのだろうな……。視線に気付いて目を合わすと、気まずそうに目を逸らす。
こいつは一体、何なんだ?

猫は誰とも目を合わせない。猫同士だとしても合わせない。それが猫の習性だから。そんなことすら知らない僕は、少し困惑しながらも無関心に徹していた。
それをいいことに、サヨリの行動はエスカレートし始める。仕事から戻ると、勢いよく僕によじ登って首の後ろに巻きつくのだ。人間の首の後ろは、最も掴まえにくい場所である。それを、本能的に知っているのだろう。僕の上着に爪を立て、テコでも動かない体制を取った。
───痛いって!
サヨリの行動は摩訶不思議。
どうして、トイレが終わると走るのか? どうして、尻を僕の顔に押しつけて寝るのか? どうして、夜中に僕の腹を踏み踏みするのか? どうして、カエルをくれるのか? どうして、僕にくっ付くのか?
ネットで調べてみると答えがあった。猫ブームの前だけれど、今とは違ってGoogle検索は優秀だった。猫は臆病な生き物で、触るのは好きだけれど、触られるのは大嫌い。だから、黙って動かない年寄りを好み、声を出しながら寄ってくる子どもを嫌うのだそうだ。
つまり、僕は真逆の行動を取っていたのだ。あまり動かずに指一本触ようとしない人間。若きサヨリには、それが巨大なソファーにでも見えたのだろう。あまり動かず、たまに都合よく頭を撫でてくれる巨大なソファーに。
人と猫との距離感は、無視するくらいで丁度いい。

もしかしたら、黙って座っていた方が、猫カフェで人気者にもなれるのだろう。いつか、それをやってみたい。サヨリが悲しむだろうから、ずっと先の話になるのだけれど(笑)
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