猫を初めて目撃した農夫の証言

水曜日(猫の話)

───水曜日は猫の話

 この文献はUMA(未確認生物)を目撃した、とある農夫の貴重な証言記録である。そして、この証言記録は紛れもなくフィクションである……。

 あれは蒸し暑い夜の日の出来事でした。妻が私に言うのです。

「ネズミの姿を最近見かけない」

 と。皆さんもご存じのとおり、ネズミは穀物を食い荒らします。農夫の私にとって、ネズミは敵である存在です。去年もネズミにかなりやられましたから、ネズミが姿を消したのは大歓迎です。でも、あの年は異常でした───あんなにいた、ネズミが忽然と姿を消したのですから……。

「これは天変地異の前触れに違いない」

 ってね。あまりにも妻が心配するものですから、私は夜を見計らって調査に向かったのです。ネズミが出没するであろう……穀物倉庫に。日付の変わった深夜一時過ぎだったと記憶しています。そこで見たんですよ……アレを。

 その姿は四つ足の動物でしたが、犬でもなく、イタチでもなく、ハクビシンでもありませんでした……私が向けた懐中電灯の光に反射した大きな目が印象的でした。それが、数十匹と集まっているのです。そりゃもう……驚きました。アレの集団の中心には、大きな個体が座っていました。少し高い場所から見下ろすような格好で。他の個体は大きな個体を見上げています。さしずめ会議でもしているように見えました。ダボス会議のような……何か重要な案件を話し合っているように、私の目には見えたのです。

 月明かりの中でしばらくの間、私は彼らの様子をうかがいました。不思議と恐怖を感じませんでした。ところが、突然、二匹のアレがにらみ合いを始めたのです───シャーってね。あれは威嚇だったのでしょう。私も長年、野生動物を見続けてきました。けれど、あの声は印象的でした。だってそうでしょ? コブラのようにシャーっと鳴いたのです。その後で……例えるのなら、駅前で揉め始めたヤンキーのように、鼻先が触れるかどうかの距離で、二匹のアレはにらみ合っていました。私は思いました。きっと、メスの取り合いが始まったのだと。あまりの恐怖に、私は一歩も近づくことができません。

 すると私の足元で、別のアレがスリスリを始めました。一匹、二匹、三匹と……あれは私の足元に頬をすり寄せています。そのとき、私は思いました。私の一生は、ここで幕を閉じるのだと。そして見てしまったのです。アレがネズミを咥えて歩く姿を。私はその場から逃げ出しました。どうやって家に戻ったのか……その記憶がありません。目覚めると、私の隣で妻が眠っていました。いつ見ても、とても可愛い寝顔でした。朝食を取りながら、昨夜の出来事を妻に話しました。すると、妻は私の額に手を当てました。

「大丈夫? 熱はない? 昨日は家から一歩も出てないでしょ?」

 とても心配そうな顔で、妻は私を見つめています。あれは夢だったのでしょうか? それとも、ネズミを追い払ってくれた神様の化身なのでしょうか? 蒸し暑い夜になると、私はあの日のことを思い出すのです。シャーっという鳴き声と共に……。

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