───あ、、、また、しゃっくり出た
そうね、そうね、気を抜いちゃダメなのね。
長い事、人間をやっていると大体分かる。いつもそうだ、いつだってそう。ゆでたまご、コーラ、さつまいも。調子に乗って早食いするとしゃっくりが出る。いつ止まるか分からない、止め方もあるけどアテにならない。ヒック、ヒック、、、そんな時に限って電話が鳴った。
絶妙なタイミングに軽く苛立つ。
───お前、貞子か?
とつぜんの吃逆は事故のようなもの。鳴かぬなら鳴くまで待とうの気構えこそが必要だ。行き先は吃逆に聞いてくれ。慌てるだけ時間の無駄。ヒック、ヒック、ヒック。吃逆が起こるメカニズムを思い起こす。それは、横隔膜の痙攣から始まる。痙攣に連動し声帯の筋肉が収縮、そこへ急激に息が通るものだから
ヒック、ヒック、チャップ、チャップ、ランランラン。
───じゃねーよ!、楽しくないし、笑えない
黄色い合羽に、黄色い傘に、黄色い長靴。幼稚園時代の僕の雨具はオールイエローだった。昭和の頃の幼児の服装は大体似ていた。親も子も、オシャレに勇気が必要だった。同じ色だと安心できた。
そんな時代の大人たちの冗談は随分だった。随分な脅しを受けて来た。今なら幼児虐待になるのだろうか?。お化け、幽霊、迷信、言い伝え。数ある脅し文句の中で吃逆でさえ例外ではなかった。吃逆の度に同じ話を訊かされる。
───吃逆の100回目で死ぬ話
ミミズにおしっこをかけると腫れるよ…コカ・コーラのコマーシャルと同じく、吃逆の話は僕の幼き脳にプリンティングされる事になる。
都市伝説 吃逆が100回で止まらなかったら死ぬ
───吃逆100回目で人生終わる
目に見えぬ恐怖心から吃逆の数を数える。『3』が出るとアホになる余裕など微塵もない。30、40、50、60、70回目を越えた頃。目に見えぬ恐怖が徐々に具現化される。あと30回、、、短い人生の最後に僕は思う。
───もうすぐ始まる仮面ライダーが見られない
人生の幕切れよりも、そっちの方が悲しかった、純真無垢な子どもで馬鹿だった。見られない筈の仮面ライダーが始まり、怪人に脅え、ライダーに高揚し、ライダーキックを出した頃、止まった吃逆に気づく。それ以降、吃逆が始まったお友だちに僕は随分な話を告げる。
しゃっくりが100回で止まらないと死ぬんだって。
───半世紀の時が過ぎ去り、そんな迷信を耳にする事すら珍しい
「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」「くしゃみは誰かが自分の噂をしたから」「夜に口笛を吹くと蛇が来る」…。古き時代の何処かの誰かの言葉が、語り継がれながら拡散を繰り返し、誰もが知る迷信となったのだろう。みんな大好きウィキペディアでさえ『迷信』記載され、その奥は歴史の闇の中である。
超情報化社会を突き進む現代。謎の機会を頭に装着し考えるだけでツイート成功のニュースに驚く。近い将来、人口テレパシーで意志の疎通の実現も可能なのかも知れない。そんな世の中で迷信を語るのは僕ら世代で終わりなのだろう。
そう考えると少し寂しい気もしている。
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