───汗腺が壊れた蛇口のようだった。
吹き出す汗が止まらない。
汗まみれのタオルの香りが鼻を刺す。命題するなら、「腐った西瓜に加齢臭をたっぷりと添えて」。カメムシは自分の臭いで失神するそうだ。奴とは敵対関係だけれど、その気持ちが今なら分かる。高齢者から放たれた全力のフェロモンは極上の異臭なのだ。
───裏を返せば異臭は毒素。
爽快感、清涼感、クールな激アツ。
デトックス効果で重い身体が軽くなる。10歳若返った気分になるのも不思議です。とは言え、小さな畑で大きな作業など希である。普段は、大きな盆栽を弄くるお爺ちゃん。水をかけたり、収穫したり、脇目を切ったり、防虫液を散布したり。
そんな軽作業ばかりが続く日々。
───今日は別、あぜ波を設置する日だから。
あぜ波とは、土を止める土留めに使う波板である。主に水田(田んぼ)で使われており、あぜ道と水田の境目でよく見られる。その耐久性は高く何年にも渡り使用可能。全て麦わら隊の受け売りなのは言うまでもない。
───今回のミッションは、外柵にあぜ波を配備し、周りの土を耕す事である。
その第一の目的は外柵と外部との土留めである。
現状、雨が降ると外部に土が流れてしまう。それを防ぐためにあぜ波を施すのだ。土に埋もれたあぜ波の重量で、外柵の足下は強化され、猪の進入を防ぐ効果も得られる。
───そこに畝をつくる。
外柵周りに畝を作り、キュウリやトマトはそこで栽培。緑のカーテン効果で外部からの目も遮断される。何よりも外柵に繋いだ支柱は強い。これなら台風の心配も無いだろう。我ながらナイスアイディア。自画自賛しながら土を掘ると粘土出た。
───うわわわ…粘土やん。
道路側(南側)の土は粘土だった。腐葉土、籾殻、石灰、米ぬか、牛糞、鶏糞…後半ウンコばっかだな。土を作るのが大変そうである。だがしかし、今ならイケる、そこそこイケる、来年だっら間に合わない。今日やって良かったと心から思った。そんなあぜ波設置だったけれど、当初、僕は大きく抵抗した。
───あぜ波ってなぁに?、予算無いけど。
だってそうでしょう?、お値段おいくら?、どうせお高いんでしょ?。これ以上、うちの諭吉さんを出すわけには行きませんよ、麦わら隊長!。何度かそんな話になった。けれど相手は引き下がらない。「見るだけで良いから」とホーム・センターで値段を確認、英世さんでおつり来た。20mモノである。2本あったら畑一周囲えてしまう。
───僕が買います!。
隣の畑で悪さする、箱罠でも捕まらない、真昼間っから目撃される。山のチンピラ、猪の驚異が忍び寄る。僕の畑がいつ狙われるか、考えるだけでも恐ろしい。いつかは何かをしなくちゃならない。そんな状況からのあぜ波だった。
猪は地面から20センチ以下を主に攻める。まずはそこにATフィールド。その気になれば鉄柵をグニャグニャにするらしいけれど、柵を飛び越える事は希である。あぜ波設置は脚部の強化に直結する。これならそう容易くは進入できまい。やって良いのは、やられる覚悟のある奴だけだ。それでやられたら仕方ない。やられたヤツがアホなのさ。頭脳戦か、実力行使か、猪との戦いは幕を開けたばかり。
───喰うか喰われるかのせめぎ合い。
この緊張感、スマホゲームより面白い。
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