待望の一眼レフカメラを買った。マニアが好むペンタックス製である。当時、ホームページの制作を請け負っていた関係もあり、デジカメの画像では満足出来なくなったのだ。ノストラダムスの予言の結末すら知らぬ世紀末の話である。
───インターネットは創世記で、たまごっちは全盛期。
サイトで使える写真素材が少なくて、暇さえあれば野外でスナップ写真を撮っていた。有料写真はバカ高く、無料写真素材が無かった頃の話である。海、空、山、動物、鳥、花、昆虫…。外で様々なショットを撮影する。そして必ず、道沿いの畑で感じる素朴な疑問があった。
───畑の周りって、高確率でひまわりが咲いてるよな。
世紀を越えての疑問である。
きっと奥さんがひまわりが好きだから、優しい旦那さんがこっそり植えたのだろう。畑のひまわりの半分は優しさで出来ているのだ。そう信じて疑わなかった。若い僕のお花畑が、そう信じ込もうと思わせたのだろう。今の思考回路では、到底導き出せない結論である。ひまわりへの疑問は、記憶の奥底へと沈み込んだ。
───平成から令和へと時代が巡る。
桃畑と直菜園、農家の奥様たちとの会話の機会が多くなる。話のネタにとひまわりの謎。ぶつけてみても、どういうワケだか話を濁す。照れてるの?。やはり、旦那さん説が有力なのか?。だったらお花畑のままでも構わない。そんな気持ちで夏を迎えた。
───まっ、どうでも良いけれど。
キュウリ、トマト、茄子までは、気にも止めなかった問題が浮上する。他でもない、難易度高きスイカである。スイカは人口受粉をしないと失敗が多いらしい。そのため人口受粉が必要不可欠。そのタイミングが難しい。人口チョメチョメは午前10時までにとか、雨天では出来ないだとか、時間の縛りが多過ぎる。タイミングを逃すと、ひとつの実すら着かない悲劇さえも起こりえる。スイカは想像以上に面倒くさいのだ。
そこで、ひとつの目論見が浮上する。
───この畑に蜜蜂が沢山いたら、受粉の確率だって…よし、イケる!。それが蜜蜂のお仕事だもの。
それから蜜蜂を呼ぶ方法を考え始めた。僕の知る限り、僕の畑で蜜蜂の姿を見た事が無い。飛来するのはスズメバチばかり。ジェット機のように羽音だけはデカいのだけれどこいつら全然働かない。
あれこれ調べてみると花の存在が必要らしい。やっぱりね、そうだよね。で、何の花を植えればよろしアル?。Googleからの回答は金稜辺(キンリョウヘン)。見た事ないけど中国産のランなのだとか。フェロモンの力で蜜蜂を引き寄せる。付いた異名がミツバチラン。何それステキ。理想の上司、第二形態じゃん。
もうね、惚れたわ、買うっきゃない!。
───値段を調べて後ずさり。
だってそうでしょう?、ワンコインかと思いきや、3000円とか手が出ない。新たに浮上したのが伊藤咲子のひまわり娘。誰のために咲いたの?、アナタためとミツバチのため。過去の写真に目を通しても、ひまわりの花の中にはいつも蜜蜂がメッチャいた。その瞬間、ひまわりの疑問と蜜蜂の点と線とが繋がった。
───あ、そっか。そういう事か。
これが畑の周りに咲くひまわりの謎。
たぶんそう、きっとそう。
謎が解けた日のもぎたて胡瓜の味は、そりゃもう、格別でした。気まぐれで植えたひまわりの苗。種が取れたら外柵周りをひまわりで囲ってみよう。来年が楽しみである。
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