仕事終わりの帰り道。
今日の畑はいつもと違う。今日はお楽しみがあるからだ。だってそうでしょう?、今日は大玉トマトの収穫予定日。去年は惨敗、今年はリベンジ。一年越しの初収穫にウキウキで、今日もサヨリは元気です。いつもの場所に雷電を置いて、喜び勇んでトマトへGO!
何でなん?
深紅のトマトに悲劇があった。大きな穴が開いていた。これが裂果という奴か? それとも何者かの手による犯行か? 癒やされに来たはずなのに、苦虫を噛んだような顔になる。喜びの梯子を外された。まさに地獄の気分であった。
とは言え、僕には時間が無い。畑に寄るのは午後六時。畑は山裾にあり、五時を過ぎるとお日様は山の裏側に沈む。つまり、僕の与えられた猶予は一時間。水やりもあれば草抜きもある。トマト事件は一端忘れる。やるべき事をやってから。こいうのはね、ちゃんとやらないと後で必ず痛い目に合うのだ。無言で日常作業に取り掛かると、いつもの軽トラが横に止まった。
「いつまでやっとん? 猪出るで(笑)」
師匠である。
「今来たとこやで、まだ帰れん(笑)」
ガッカリを押さえ込み、よそ行き顔して返事を返す。野菜の話はプロに訊け。僕はトマトを指さした。
「これ、誰の仕業?」
「カラスやな(笑)」
即答だった。今年はカラスの数が多い。それはガッテン承知の助。だから、畑の上空に黒いテグスを張り巡らせた。これでもテグスが足らんのか……。仕方ない、テグスを張ろう。今日の作業がまたひとつ。それを受け入れ、僕は加速装置のスイッチを押した。今日中に作業を終わらせる。絶対だ。
東から西、南から北。
気分は、アベンジャーズ以外、全員敵。可能な限りのテグスを張る。やってダメなら諦めるさ。とっぷりと日が暮れて、徐々に視界が悪くなる。即興で仕掛けたテグスに頭が当たるとイラッとする。覚えていやがれ! カラスの奴め。
でも、もしかして……
イライラしながら作業を終えると、野良トマトが気になった。完全放置の野良トマト。そこにも大玉が実っていたのだ。チラリと覗くと赤いトマトが2個あった。知ってる、それ、虫食いでしょ?。勝手に草むらの中で芽吹いたトマトである。葉っぱも虫食いだらけ。実が無事な筈がない。ダメ元で実を採った。一個は虫食い一個は無傷。捨てる神あれば拾う神ありとはこの事だ。ラッキーじゃん(笑)とほくそ笑む。
今日の収穫は大玉一個とプチが5個。
僕の不機嫌が収まった頃、隣の畑から僕に後輩が声を掛けた。
「カラスなん?」
「カラスや」
「トマト?」
「トマトじゃ、許すまじ」
「今年はカラスが多いからなぁ、うちはスイカがやられたわ(笑)」
「ん?」
僕は己に問いかける。そこの愚かなるキミ。大切な何かを忘れてはいませんか? 大玉スイカの防衛ライン、張ったっけ?
うん、忘れてる(涙)
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