現場で起きたゾッとする話

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雑記・覚書き

 「現場で会った人は、全員お客さんだと思え!」

 若い頃、そう教え込まれた。

 いくら若造だった僕だって、それは正解だと素直に思った。だから、今でもその教えを守っている。誰だって五十も過ぎれば口も立つ。口が滑る事だってなくもない。けれど、過去に見てきた数々の悲劇を思えば、触らぬ神に祟りなしで口チャック。口は災いの元でしかない。

 今日の現場、おとぼけバディの一言でゾッとした話しである。

 早朝、とある現場での作業中「おはようございます」と誰かの声。無言を貫くバディを横目に条件反射で「おはようございます(笑)」と挨拶を返す。

 挨拶は基本デス!

 その男性は物腰低く、とても感じのよい人であった。この人、いったい何屋さん? エアコンの下に脚立を立てている。電気屋さんかな? そう感じながらも作業を進める。しばらくすると、電気屋さんはバディと親しげに会話をはじめて我思う。

 そっか、そっか、監督さんか…。

 お施主さんの線は消え、電気屋さんの線も消えた。二人は互いに名字で呼び合う。大きな上下関係があるようにも思えない。僕は無言でこう思う───チョロいな(笑)

 監督さんに何度か世間話を振られたけれど、笑って右から左へと受け流す。だって、ほら。僕ら初対面だから(汗)

 そう思いながらも、指示があれば指示に従い、言われた通りに作業をこなす。どう言うワケだか、いつもクチャクチャ喋るバディは無言に徹している。そこに何かしらの不気味さ、否、何か罠のようなモノを感じていた。バディの言動と行動に、やばいシナリオが動いている気がしてならない。

 数十分後、そのシグナルが正解だった事が明らかになる。

 とは言えこの現場、僕の見立てでは2時間ほどか…。思った通りに作業も進み、今日もサヨリは元気です(笑)

 「ヨシ!休憩しよう」

 作業開始から一時間後、バディから鶴の一声。もう一時間、やっちゃえば終わるのに。この後、まだ現場が二件もあるのに…。相も変わらぬマイペースである。

「す…すんません、おじいちゃんに休憩させます」

 お前、才蔵か? 霧隠れしたバディの代わりに、やんわりと監督さんにことわりを入れる。いくら何でも、二人ともが急に消える事など出来やしない。

「いいですよ、休んで下さいね(笑)」

「ありがとうございます(笑)」

 いい人だ。

 下手すりゃ嫌味の一つも言われる場面に両手を合わす。

 〝実るほど頭を垂れる稲穂かな〟

 監督は、それが作業着を着て歩いているような人であった。昭和と違い、令和の現場監督は基本優しい。中にはジャイアンみたいな人もいるけれど、昔に比べ、そのタイプの方が珍しくなった。それでも僕は気を抜かない。さっきまで温和だった人が激変する。そんな事も経験済みだから。

 ペコリと頭を下げて、僕はそそくさとバディを追った。

 何をするやら分からない。この意外性の男から目が離せない。

「そこ、車、通ってるから!」

 階段の踊り場越しに声を掛けると、バディは天を仰いでニヤリと笑う───いつか車に轢かれっぞ!(汗)

 僕らは現場から離れ、自販機で缶コーヒーを買い、車の中で休憩に入る。その途端、バディからの一言に殺意が湧いた。何が嬉しいのか? ホクホクした顔で僕に言う。

「あの人、○○会社の社長さんな(笑)」

「早よ言え!(怒)」

 僕には全く面識がなかったけれど、あのお方は上得意さんちのトップであった。血圧を上げながら、湧き出る怒りを下げなから、ゾッとしたのは言うまでもない。

 「現場で会った人は、全員お客さんだと思え!」

 この教えに感謝した。バディは、たまに試すような事をするから気が抜けない───本日もご安全に(笑)

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