───僕の腰には爆弾が埋まっている。
高所での作業では軽度な作業であっても気を抜かない。我が身が落ちないよう、物を落とさないよう、細心の注意を払うのだけれど腰への配慮を怠った。怠慢だった、傲慢だった、何も落とさなかったけれど、手落ちだった。あまりの高さに腰が引け、妙な姿勢で作業を続けたのが悪かった。
BOM!。
───腰の爆弾が爆発した。
知ってる、それヘルニアでしょ?。
下半身への違和感が存在感へと姿を変える。それは経験則から容易に判断できた。第五腰椎で潜伏中のヘルニアである。ぎっくり腰のような痛みなら救いはあった。電気風呂で腰を温めて、2、3日も安静にしていれば勝手に治る。その症状は年に数回起こる不幸だけれど今回の痛みは別物だ。腰の神経を直撃し、痺れがお尻を通りふくらはぎへと駆け抜ける。足を引き摺るような歩き方で、思うように右足が前に出ない。
───こいつは不味い、マジものだ。
違和感というより嫌な予感が見事に的中。だからと言ってすぐに治る術もなく、僕の息の根が止まるまでのお付き合い。つまり、椎間板ヘルニアは僕の持病である。かれこれヘルニアとの付き合いも30年ほど。結婚生活に例えるなら真珠婚式目前だ。その間、ひと時も離れず共に日常生活を営んで来た。このジャジャ馬娘のご機嫌の取り方も重々熟知している。そんな意味から絆さえ感じている間柄である。
そう、なんの不安も支障も問題もない。
───仕事を休めない事を除いてな。
ふう〜…。
腰に手をあて小さなため息。携帯から流れるG線上のアリア。煩いよ、それ知ってる。その電話、社長からでしょ?。着信音など知るもんか、こちとら腰が痛て〜んだわ、5分後に現場復帰するから待ってなさいよ。緊急用のウエストバッグを腰に巻き付け、壮観さもここに極まれりな場所へと僕は戻る。雲ひとつない瀬戸内は春の訪れを告げるかのように穏やかで美しかった。
本日もご安全に(泣)。
NIKEのウエストバッグがコルセット代わり
───コレ、お得じゃね?。
中古屋で購入したNIKEのウエストバッグ。どこが良いかって、NIKEだもの。iPadがすっぽり入るもの、腰には携帯電話を入れるポケットがあったもの。何よりも頑丈なところに心を奪われ衝動的に購入した。価格は三千円程度だったと記憶している。
───10年以上も昔の話だ。
デカい、広い、強い。iPadの代わりにiPod touchを持ち歩くようになってから、ウエストバッグの出番が少なくてご無沙汰だったけれど、腰痛が酷いと腰にこいつが巻き付いている。
───コルセットの代わりとして。
ウエストバッグの最大の利点は腰をやっちゃっていてもバレない事だ。僕がヘルニア持ちなのは割と有名な話。それだけに変な気を回されるのが嫌だった。漢は黙ってウエストバッグ。我慢とかカラ元気をエネルギーに仕事を熟す。
───こいつは優れものだった。
腰帯が広く帯の中に芯が入っている。その太い帯が僕の腰をしっかりとサポートしてくれる。水の入ったペットポトルを入れれば、良い感じでウエイトが掛かって安定感も良くなる。グイッと締め付ける事で骨盤が締まり腰の痛みが緩和される。絶対に壊れない頑丈な作りも嬉しいところ。多分、僕に残された時間内に壊れることも無いだろう。つまり、一生モノである。
ナイキなどのメーカーを問わず、今でもこのタイプのウエストバッグが市場に存在するのかを僕は知らない。腰に爆弾を持っていて爆発しても隠したい時。全く腰痛の空気を醸し出さない良き仕事をしてくれる。ちなみに、もっとも腰痛が緩和されるバッグの中身は壊れたiPadに決まってる。
随分楽になったけれど、今しばらくお世話になりそうだ。
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