───何コレ!毎日でも食べれるやつジャン
寒い日の夜。
熱々のうどんが恋しくなる。ここはうどん県。うどん玉は何処でも手に入る恵まれた環境である。
しかも安い。
けれど、うどん屋で慣れた舌が許さない。スーパーのうどんでは物足りない。今夜は我慢。明日の昼にうどん屋で美味しいのを食べよ。そんな思考が勝利する。
それでも打つ手が無いわけでも無かった。
奥の手として、乾麺や半生麺から調理する方法がある。たっぷりのお湯で麺を茹で揚げ、そのあと冷たい水でギュッと締める。それを熱湯で再加熱。
真面目に調理すれば、コシが出て旨いうどんに仕上がる。ショートカットして釜玉という選択肢だってあった。
けれど、手間が掛かって面倒なのよ。
粉雪舞い散る現場。白い息を吐きながらそんな話をしていると、長老が良い知恵を授けてくれた。
───うどん作って、その上に大根おろしをたっぷり乗せてんまい。マルナカのうどんが化けっから。トロロ入れたら更に化けるで。ホッホッホッホッホ。
長老、今の話は本当かい?。オレ、やるよ。やっちゃうよ。ガセじゃ無いよね、騙して無いよね?。
念を押すように問い返す。長老の目尻のシワが一気に増えた。目の奥は笑っていない。なにを考えているのか全く見えない。
たまに騙される事もあるのだけれど、事はうどんの話である。古狸だってそこまではしないだろ?。
とは言え、かなりあやしい。だってそうでしょ?、五分前の話すら忘れる亀仙人なのだから。
───話半分、期待半分。
激ウマだったみぞれうどん

みぞれ鍋と呼ばれる料理がある。仕上げに大量の大根おろしを乗せる鍋料理。仕上がると雪が積もったように見える美しい鍋。雪鍋、雪見鍋、あわ雪鍋とも呼ばれる。
うまく作るコツは、食べる直前に大根をすりおろす事。おろし立ての大根おろしは甘くて旨い。花の命は短くて。時間と共に苦味が増し味が劣化する。ずっと昔にためしてガッテンで得た知識。
───つまり、大根おろしはスピード勝負。

うどんに出汁と少量の水を入れ、電子レンジで5分間温める。大根おろしは水分を多く含む。水は少量の方が美味いだろう。
運よくカレイの揚げ物が半額だったので一緒に入れた。その間に大根をおろす準備をし、うどんが出来たら一気に大根をおろす。
整いました。
───あ、化けた。バケバケです。

熱々の麺と出汁に冷たい大根おろしのアクセントが合う。甘い、そして美味い。大根おろしは、コシの無いうどんを嫌がる僕の舌を上手に騙す。お前、ルパンか?。
───何コレ!毎日でも食べれるやつジャン
うどんの概念をひっくり返し、何か新しい料理を食べている気分すらした。シェフを呼べ!。そんな気分すらしてくる。
これにトロロを加えたらどうなるのだろう。そう、予想しながら食べるのも楽しかった。だったら、玉子も乗せたくもなる。
リピ確定の味だった。
───大根の花言葉は、潔白。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
疑ったりしてゴメンなさい。
この埋め合わせは、明日のお昼にうどん屋で返させて頂きます。丸亀に良い店、オレ知ってんだ。
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