「やっぱ、エロは必要っすよね(笑)」
会社の若ぇのが問う。
小説を書いていることがバレた。バディの野郎が口を滑らせたのだ。来月の一週間の休みと引き換えに、あやつ、わざと話したな?
こう言うの、何ハラと呼ぶのだろう。そんな事より「助さん、格さん、懲らしめてやりなさい!」な気分になって、今日もサヨリは元気です(笑)
あの野郎、後でじっくり料理してやる……料理に大切なのは、食材を成仏させる気持ち。それを忘れてはいけない(笑)
僕は真顔でこう答える。
「エロは書かんし、エロは要らん」
「いやいや、エロは要るっしょ、エロだもの」
「わたしの唇の上のナメクジが、ゆっくりと首筋を伝いながら乳房に向かう。ゴツゴツとした太い指。それに鷲づかみされた桜色。その先端の湿ったザラつき。子宮でそれを感じながら、わたしは彼に身を任せた……あなたと繋がったまま……死にたい……的な?」
こんなのが欲しいのか?
「それは官能小説ですよ(汗) もっとソフトな感じのエロい表現だってあるでしょ?」
どうしたよ、食いつくねぇ。
「あるだろうな。あるだろうけれど、そこまで発展しないからなかぁ……」
「だったら、進展させればいいじゃないすか?」
簡単に言う。
でもそれは無理。尺が足りない。それよりも何よりも、僕は文部省推薦で小説が書きたいのだ。エロに振り切ったのならいつでも書ける。そう言うの、自分で言うのも何だけれど、割と上手に書けると思うぞ。得意中の得意分野じゃ(笑)
「ところで、ジャンルは何ですか?」
ジャンル? そんなの考えたこともなかった。ジャンル……ジャンルねぇ……。天を仰いで考える。
「考えてないんですか?」
「考えたことがない……」
「どんな話なんですか?」
「人類滅亡」
「それ、SFじゃないっすか、どうやって滅亡するんすか?」
滅亡の響きで更に食いつくお若けぇ~の。お前の前世はダボハゼか?
「どうなんだろう……異世界つーのもあるし、読み方によってはファンタジーにもなるだろうし。ホラーと推理小説じゃないことだけは確かかな?」
「人は死ぬんですよね?」
「死なないよ」
「人類滅亡っすよね?」
「そうそう。地球に隕石ぶつかるやつ」
「それって普通にアルマゲドンっすよね?それって、パクリじゃないですか?」
おいおい、それってドラマの題名じゃん。見たことないけど(汗)
「まぁ、そんな感じかな?」
「だったらエロ出来るっしょ?」
若ぇのが話を戻す。若い男はエロと金。僕だってそうだった。だから、その思考の否定が出来ない。否定が出来ないけど面倒臭い。
「書いたとしても、二つの影が重なって……とか、背中の後ろでこっそりと手をつなぐ……とか、彼の裾の先っぽを彼女はつまんで瞳を閉じた……みたいなのまでかな?……秘め事なんて書かねぇけどな」
なんか違う、そんな顔。知らんがな、原稿料でもくれるなら教えてやるぜ(笑) 視線で圧を掛けてみると、話のすり替えが始まった。
「芥川賞とか、直木賞とか狙ってんすか? だったらエロは必要でしょ?」
お若いの、その受賞者の本を一冊でも読んだことがあるのか? 声を大にしてそう問いたい。面倒だから問わないけれど。お前は、おうちでジャンプでも読んでなさい。
「どうせ書くなら、賞とか欲しくないっすか? 本にならないかも知れないけど、本になるかも知れないですよ。だったら、狙うのが普通ですよね?」
普通ならそうなるけれど、僕の場合は普通じゃないから。でも、何か賞みたいなのがもらえるのなら、あの賞が欲しいかも。しばらく考え、僕は小声でこう言った。
「本屋大賞……」
「何ですか?それ。冗談すか? ウケ狙いっすか? そんなの、実際、あるんすか?」
話しに付き合ったオレがバカだった(汗)
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