ブログ主はただのおっさん

ショート・ショート
小説始めました

 わたしには推しのブロガーがいる。ひいき目に言っても、ブログ主はただのおっさん。若いわたしが推すなんて、そんなの夢にも思わなかった。

 検索で見つけたのは四年前。パパに買ってもらったガラケーで、はじめて読んだブログだった。でもね、ほんとはスマホが欲しかったの。リンゴの会社のスマートフォン。でもね、パパがわたしにこう言うの。

「スマホは魂が汚れるからダメ!」

 知ってる、それ、嘘でしょ?。

 だったらクラスのみんな、心が汚れてるとでも言いたいの? そんなの言い訳。可愛い娘が心配なんでしょ? だからガラケーだって持たせたくなかったんでしょ? その証拠に、パパからメールが届くもの。一日に何度もよ。過保護が過ぎてはないかしら? だったらスマホにしてくれたらサービスしたのに。わたしの自撮り、たくさん送ってあげたのに。

 でも、一歩前進。

 アナログなパパは知らないけれど、もうすぐガラケーだって無くなるんだから。だから、次の選択肢はスマホだけ。でも言わない。うちのパパは面倒くさい男だから。だから少しの間だけ我慢しよ。そんな頃に読みはじめたブログだった。

───このブログ、なんか違う……。

 第一印象がそれだった。もっとこう、派手というか、煌びやかというか、ブログにはそんなイメージがあったのに、このブログ、全然、キラキラなんてしていない。淡々と…地味。

 でも、何かが引っかかる。それは、わたしがブログに慣れてないから?。でも、気になる……好奇心に煽られて、ブログを最初から読み始めた。不思議な魅力ある文字並び。魅力と呼ぶより魔力かな?

 クラスメイトに教えてもらって、ほかのブログも読んでみた。自慢話とか、将来の希望とか、お金儲けの話が多い。そのどれもこれもが、何かの広告に見えた。ホラーとか、都市伝説とか、そんなの恐いから最初から見ない。結局、あのブログばかりを読むようになった。なんだかここが落ち着くから。

 ほかのブログとの決定的な違い。それは、毎日更新されること。毎日よ? おじさん、暇なの? それってどうかしていない? 書かれた内容にも特徴があった。全てを書かない。なんかねー、ボヤッとしている箇所がある。いくつもよ。

 そんなのやっぱ、気になるじゃん。

 過去の記事を読み返すと、それに符合するエピソードが見つかる。パズルでも解くような楽しさもあった。つらい事や悲しい事。それら全てがボヤッと書かれる。一度は書くけど、二度も書かない。きっと、そんなスタンスなのだろう。

 ブログを読みはじめてからの四年間。わたしにだって、辛い時期の一つや二つあった。そんな時、布団に潜り込んで記事を読んだ。たわいない日常の中でクスっと笑えるエピソード。それに、どれだけ心を癒やされたことか。不器用な人が書く文章。そこに人の血の流れを感じていた。

 キラキラもしてなくて派手さもない。なのにグイグイ引き込まれる何かある。わたしの方がおかしいのかな? そうしているうちに、わたしの存在をブログの主に知らせたくなった。たまに寂しいような記事もあったから。

 おじさんは、ひとりなんかじゃないよ。

 そう伝えたい気持ちもあった。でも伝えられない。伝えると大切な何かが壊れそうで。きっとあの人は、誰かの言葉で悩むタイプ。だったらずっと、読み続けるだけで上等だ。

 それで満足出来るはずだった。

 真っ白な粉雪が舞うように、伝えたいことが心の中に積もってゆく。四年の月日を経て、ようやくあの人へメールを飛ばした。返事なんてなくていい。メールが届けばそれでいい。

 それには勇気が必要だった。ものすごく勇気が必要だった。でも、「ありがとう」その言葉を飛ばせてよかった。もう、一読者に戻ります。なんだか気分がスッキリした。

 翌朝、メールに着信があった。差出人は、あのブログの人からだった。布団から飛び起きて、小さくガッツポーズしたのが昨日のようだ。

 あの日から、何年の月日が経ったのだろう? わたしは妻となり母となった。あの朝の返信は、今でもわたしのスマホの中で眠っている。それも、わたしの青春の1ページだから。ノスタルジックな気分になると、たまに夫と読み返すために。

 あのブログも今はない……。

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