のんちゃんのブログ王〝015 放課後クラブ〟

小説始めました

015 放課後クラブ

 桜木は、俺のベッドの上で小難しげな本を読んでいる。アケミはチュッパチャップスを口にくわえながら、スマホで動画を鑑賞している。きっと、あれだB……いや、書くのはやめよう。

 オッツーはツクヨと格闘ゲームの対戦中。ゆきは趣味の編み物だ。きっと、これはゆきパパへのクリスマスプレゼントになるのだろう。庭の噴水のためだ、がんばれよ!

 このカオスの中に、わずか10歳のツクヨが溶け込んでいるも不思議である。それにしてもだ。たった6畳の部屋に、これだけの人間が入るものだ。彼らには、きっとパーソナルスペースの概念などないのだろう。どう見ても家族である(笑)

「プレゼントに小説だなんて、かぐやちゃんからの無茶ブリですわね(笑)でも、ステキ♡」

 ゆきは口を動かしながらも、編み棒が一定のペースを刻んでいる。ゆきはシュッとしたアケミとは対照的なぽっちゃりさんだ。可愛いをギュッと凝縮したような少女である。

 マシュマロ系女子ってのがぴったりな彼女は、韓流ドラマで培った恋愛知識をお披露目したい! そんなウズウズオーラで溢れていた。

 ゆきの言葉にアケミが返す。お花畑だったゆきの話。アケミは、それをすぐさま過酷な現実へと引きずり戻す。

「ブリだって成長過程の途中っていうからねぇ。サヨちゃんも書いてみれば? 書けないってことは、書いてないってことでしょ? じゃ、書かないと。なーんにも始まらないわよ」

 確信を突いてくる。

 正論だ。俺は黙るしかない。オッツーとツクヨは、依然として格闘ゲームに夢中である。ここまで小学生とゲームに熱中できる高校生もめずらしい。このふたりはいつも自由だな。息が合いすぎて、叔父としては心配だ……もしかして、付きあってんの?

「オッツーさんからお話は聞いています。あなたがやるのなら、我々は全力で応援しますよ。僕たちは仲間ですからね、当然です。思い切ってやってみましょう。僕の気持ちは、ご理解されていますよね? ところで、あれから旅乃琴里から連絡はありましたか?」

 アケミの視線がスマホから俺に移る。なぁ、アケミさんよ。その目、怖いって。

「ない。あれからお礼のメールを飛ばしたけれど、音信不通だ。きっと、メールも鉄の壁にブロックされたのだろうな……」

 アケミの視線はスマホに戻る。『なんだぁ~』それが顔に書いてあった。

「そうですか……。あれは何だったのでしょうね? 天才作家のきまぐれでしょうか? でも、あのポメラは使えますよ。プロの作家が使っていたポメラです。それ相当なお宝が眠っているはずですよ」

「お宝って、何だよ?」

「ユーザー辞書です。そう言えば、あなたにもご理解いただけるはずですが?」

「ま、マジか? それが事実なら、マジで使える! レアものだ」

 すぐさま俺はデスクの引き出しの中に眠るポメラを開き、ユーザー辞書の確認をした。

「ほんまや……凄いぞ! これ!」

 桜木もポメラの画面に目を通す。

「これさえあれば百人力ですね。現役プロ、しかも旅乃琴里の辞書ともなれば、使わない手はありません。これで書いてください。あなたの物語を……」

「ヨシ! これで書く。のんが喜んでくれる作品を書こう!」

 根拠なき自信とは、こんな場面で湧くのだろう。自慢じゃないが、今の俺には、何ひとつ策などないのだけれど。

「で、何を書くの?」

 オッツー、それ言う?

「ノープランだ!」

 すると、オッツーはたけしの顔で案を出した。

「だったらさ、世界の平和を守る男の話がいいな。かぐやちゃんだって、きっと泣いて喜ぶぜ。な、ツクヨっち!」

 ツクヨは格闘ゲームに興じながらも、モゴモゴと何かをつぶやき始めた。

「世界征服、世界平和、世界滅亡……」

 ツクヨ、お前は類語辞典か?

 ツクヨは構わずつぶやき続ける。小学生の妄想は、俺の想像を超えた何かを召喚させる。それが、今だった。

「隕石がぶつかって人類は滅亡するの。だったら、サヨちゃん、どうする? ツクヨだったらね、会いに行くよ。かぐやちゃんに」

「まぁ、ステキですわぁ~! ねぇ、お・つ・き・さ・ま ♡」

 ゆきが胸元でハートを作った。

 アイドルがよくやるアレだ。続けざまに、アケミの口が回り始めた。いつもそう、いつだってそう。こうなったアケミは、もう、誰にも止められない。じゃじゃ馬アケミが馬車馬になった。

「おお、それは盛り上がるな。健太郎けんたろう幸四郎こうしろうに会いに行く場面が目に浮かぶ……ベタな設定ではある。けれど、これもいつか使えそうだ。人類滅亡だものね、こんなの吊り橋効果の極みだわ。告るってタイミングにバッチリじゃ(笑)」

 健太郎と幸四郎は、アケミの小説のキャラである。きっとアケミの頭の中で、イケメン同士が抱き合っているのだろう。作家モードに入ったアケミは、スマホにメモを残し始めた。細い親指が高速で動いている。指先が踊るとはこの事だ。アケミなら、スマホだけで小説一本書けるのだろうな───そのスキルを俺にくれ!

「それも悪くないですね(笑)アケミさんのえがく世界。それを僕は知りませんが、とてもステキだと思いますよ」

 桜木は、父親のように微笑んだ。

「よし、人類滅亡させちまえ!」

 オッツーよ、お前は何てことを言い出すんだ。仮面ライダーは正義の味方だぞ。お前は人類を守る側だろ? 俺の思いとは裏腹に、ギュィィーーーーン! と、腰のベルトが雄叫びを上げた。お前のベルトは、今日も調子よさげだな。

「今日もオッツーの風車は元気だねぇ」

 腰で回る風車の中心。それを小さな指で突くツクヨ。やっぱ、お前ら付きあってるだろ? お前ら見てると、ほのぼの過ぎて飽きないわ。

 そして、桜木がまとめに入る。

「これでテーマが決まったようですね、人類滅亡。で、どうやって滅亡させましょうか? それは、飛川ひかわ君がこれから考えるテーマですよ(笑)」

「だから、桜木君。隕石だって!」

 ツクヨが桜木にツッコんだ。桜木にツッコめるのは、ツクヨだけの特権である。恐れ多くて誰にもできない。

 隕石、地震、パンデミック、AI暴走、人類滅亡……ありがちだけれど、こんな感じか……。宇宙人や異世界ものは、俺の専門外だから手が出ない。でも、心のモヤモヤが晴れた気がする。ありがとな、みんな。そして、ツクヨ。お前は最高の姪っ子だ。

「では、一本書けたら教えてください。僕たちがきっちりと審査します。全員の評価が一致したら、あなたも自信を持って彼女に小説を読ませられるでしょう。案を思いつかなければ、とりあえず、ツクヨちゃんの隕石案で書いてみましょう。雰囲気だけでも掴めると思いますよ」

 のんに小説を書こう。俺の中で、進むべき道が決まった。

「あぁ、なんかみんな……ありがとな」

 最後の締めの言葉は、桜木ではなくオッツーだった。

「では、堅苦しい会議は終了ということで。ツクヨっち、ゲームの続きを始めよか?」

 オッツーは、退屈げにワンプレイしていたツクヨに声を掛ける。

「ヨシ、オッツー! 格闘やろう! 次も負けない」

 オッツーとツクヨはゲームの世界の帰っていった。そして各々が、好き勝手なことをし始めた。俺は、頭に思いついたイメージを文字に変換し、ポメラの中に打ち込み始めた。さて、どうやって人類を滅亡させようか……? 俺は、いつしかゾーンに入っていた。

「今……何時だよ?、オッツー」

「ご飯時だ」

 あっという間に時が過ぎた。もう、夕食の時間か……どういうわけだ? オッツーが、俺の家で飯を食っている。俺の家で飯を食い、俺の家の風呂に入り、俺の部屋でツクヨと対戦を再開している。

 昔のようにオッツーが、「パジャマパーティーやろうぜ!」なんて、言い出しかねない雰囲気だ。それは、まずい。ツクヨが賛同するに決まってる。それよりも、アヤ姉の頭に角が生えると厄介だ。

 お前の目にアヤ姉の姿が、どう映って見えるのかは知らんけど。アヤ姉が怒り始めたら怖いんだぞ。今夜は潮時だ。そろそろ解散し……

「ツクヨーっ! もう、寝る時間よ! あんたら、もう、こんな時間よ。もう、とっとと家に帰って!」

 ほらな、雷落ちた。オッツーはこそこそと退散し、ようやく俺はポメラを開く。さて、ここからが問題だ───どうやって、人類を滅亡させようか? その前に、ブログの更新もしないとな。

 のんが寂しがる。

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