のんちゃんのブログ王

日曜日(ブログ王スピンオフ)

この手紙は、作家デビューへの架け橋ですよ

のんと楽しいクリスマスを過ごした翌年。地元大学への入学切符を手に入れた俺の元へ、青葉導人と名乗る人物から手紙が届いた。俺は思った───詐欺かもしれない。とてもじゃないけど、こんなの俺の手に負えない。だから、次の一手は決まってる! 桜木だ。俺は手紙を手に持って、ゲンちゃんうどんに桜木を誘った。この手紙が、俺の人生のターニングポイントになるとも知らずに……。 「ごめんな……桜木、上京の準備で忙しいところ。こんな手紙が来たんだけど……俺、バカだから手に負えなくて……」  桜木が俺宛の手紙に目をとおすと、ぱっと表情が明るくなった。 「こんな手がありましたか……」  明るい顔で意味深な言葉を口ずさむ。 ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

オッツー家のシチューの謎

その日。オッツーは学校帰りに三縁の家でゲームをしていた。オッツーが三縁の家で晩飯を食べる。それは、彼らにとって日常のひとコマでもあった。ただ、オッツー家がシチューの日だけは例外であった。 「悪ぃ~な。俺、これからブログ書くから」  三縁は自分が使っていたゲームのコントローラーをオッツーに渡した。 「そっか。じゃ、ツクヨっちオレと格闘やる?」  オッツーは、それをツクヨの手に渡す。 「やるやる。きょうは、オッツーにまけない!」  三縁はブログを書き始め、オッツーはいつもの格闘ゲームでツクヨと対戦を始めた。その時すでに、幼きツクヨの格闘センスは、ゲームの天才の片りんを見せていた。  到底、三縁クラ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

ゆい、初めてのホラ貝

中二の春。  のんとゆいは、二年でも同じクラスになった。それは偶然なのか? それとも、不登校だったゆいへ学校側からの配慮なのか? それは誰にも分からない。けれど、のんと同じクラスにゆいはとても喜んだ。 「またウチら同じクラスだね。よろしくね、のんちゃん」  ゆいの笑顔が止まらない。 「ほんとだねぇ。よろしくねぇ、ゆいちゃん」  のんも目を細めて笑みを返す。  一学期最初の席順は出席番号順であった。視力が弱いのんの席は、いつもと同じく教壇の前である。休憩時間になると、ゆいはのんの席で話しをする。お昼はのんと一緒に弁当を食べる。このスタイルは中一時代と同じまま。それがゆいにはうれしくてたまらなかっ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

オッツーのライダースーツ

オッツーは待っていた、何日も何日も待っていた。 日曜日の午後の時間帯。ある男が道の駅で休憩する。そんな噂話を聞きつけて……。そこで、彼が自動販売機でコーラを買うらしい……雨の日も、風の日も、オッツーはひたすら彼を待ち続けた。あの人にオレはなる! そんな闘志を心に秘めて。  小6の夏休み。道の駅で張り込みを始めてから半年後。オッツーは、ようやく彼の姿を見つけた。それは、サイクロンで公道を走る仮面ライダーの雄姿であった。憧れの男を目にしたオッツーは、無心で彼の元へと駆け寄った。 「あの……初めまして。僕は尾辻正義と申します。半年間、ずっとアナタを待っていました」 「初めまして、半年も待っててくれた...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

昭和喫茶、来夢来人

「あれ? ツクヨは?」  じいちゃんが俺に向かって声をかけた。ツクヨを探して辺りをキョロキョロと見まわしている。 「ツクヨは、アケミたちとタピオカ飲みに喫茶に行ったよ。今日は畑に来ないよ」 「タビオカ?……ってのが流行っているのか?」  ツクヨが来ないと知ると、じいちゃんは残念そうな顔をした。 「タビじゃなくてピ! タ・ピ・オ・カ。なーんか、女子の間で流行ってるらしい……知らんけど。そういえば、あの来夢来人ライムライトって喫茶店。ずいぶん昔からあったらしいね?」  俺もタピオカの話を詳しく知らない。それよりも、ずっと昔から存在する喫茶店の歴史を俺は知りたくなった。 「来夢来人か……。先代の現役...
金曜日(小説の話)

ブログ王、ゆいの原点はせいこママ

金曜日は小説の話。  長編小説未経験の人類代表ただのおっさん原作。のんちゃんのブログ王で反響が大きかったエピソード。それが〝007 ゆいとのん〟でした。女子高生視点描写に注目が集まったようです───アイツの背後にゴーストライターがいるらしい……そんな噂が広がったとかなかったとか。まことしやかにリアルな世界で囁かれました。  どうやって書いた? あれ。ほんと、あれ。どうやって書いたのでしょう? もう一度、あれを書けと言われたら、再現できる気がしません(汗)  でも、一発書きではありません。何本も書いて相棒に読んでもらいました。その中の一本目。それを今回は掲載しようと思います。本作と違って設定も別...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

ブログのアクセスを増やす方法

ゆきは密かに目論んでいた───静かに……その時を待っていた。わたしはブログの女王になるのよ……と。そう、新たなる自分を目指して、己の可能性を信じて、ゆきは高校デビューを画策していたのだ。  公園の桜の木の下で、それをアケミに語るゆきの姿があった……。ぽかぽかとした春の日差しに桜の花は満開であった。 「マ、マ、マジでぇ~! 私、ゆきちゃん応援するよ」  ゆきのビジョンにアケミの鼻息が荒くなる。アケミの瞳は、子どもがおもちゃを手にしたような、ギラギラした眼差しであった。 「だったら、これからサヨちゃんのライバルね!」  ゆきのブログに便乗して、アケミは遊ぶ気満々なのだ。 「そんなんじゃないわよ、ア...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

仮面ライダー運動会

5月の第3日曜日。  雲ひとつない青空の朝。アヤ姉は忙しかった。とても、とても、騒がしかった……てか、喧しいんじゃ! 日曜だってのに、オトンを交えた大騒ぎには理由があった。今日はツクヨの運動会なのだから。てか、俺の朝飯まだかいな……?  田舎の小学校の運動会は家族を交えて行われる。うどんにタコ焼き、焼きそばにポップコーン……縁日のように屋台まで立つのだから、さすがの俺も「昭和かよ?」って、ツッコミのひとつも入れたくもなるのだが、俺にも運動会の出番があった。オッツーが仮面ライダーに扮してヒーローショーを行うのだ。アケミとゆきの進行に従い、ライダー姿のオッツーが主役を張る。俺と桜木はショッカー隊員...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

さよなら忍ちゃん

ツクヨ、小二の春休み。  ツクヨの顔から、いつもの笑顔が消えていた。今にも泣きそうな顔である。俺はツクヨに問いかけた。 「どうしたぁ? 腹でも痛い?」  ツクヨは首を左右に振った。どうやら深刻な悩みらしい。 「お前、もしかして……いじめられてんのか?」  一瞬、ツクヨの瞳孔が開く。そうなのか? いじめなのか? 「忍ちゃんが……」  毒舌の、あの子ならやりそうだ……。いじめだろうか? 喧嘩だろうか? 「忍ちゃんが、福岡に行っちゃうの……明日、お引越しなの……」  そう言うと、ツクヨは大声で泣き始めた───春の風物詩、転校である。  翌朝、ツクヨと俺は忍ちゃんへ挨拶へ出掛けた。お別れの挨拶である。...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

オッツーのホワイトデー

「オッツー、おいで!」  オッツーは、アケミの犬かよ?  ホワイトデーの前日、俺とオッツーが昼休みの弁当を満喫し終えると、疾風の如くそれは起こった。 「え? オレ?」 「いいから、おいで!!」  アケミとゆきがオッツーを連れて教室から出ていったのだ。あの雰囲気から察するに、オッツーが何かをやらかしたのだろう。もしくは、アケミとゆき。どちらかの地雷を踏んだってところだな……お気の毒。  でもそれは、親友の一大事。俺は教室の窓から頭を出して廊下を覗く。すると、廊下の隅っこでアケミが身振り手振りで話をしている。オッツーは頷くだけだ。どう見ても、アケミにとっちめられている感じである。その内容が気にはな...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

銘菓ひよこがランチのデザート

高二の昼休み。  ゆきがアケミの教室に遊びに来た。その目的は、アケミと一緒に食後デザートを食べること。それは、特別なことでなく、週に何度も行われている女子会のようなものであった。俺とオッツーにとっては、アケミがゆきの教室へ来てくれるほうが有難かった。ゆきの隣は俺たちの教室だからな、おこぼれデザートにありつけるのだ。今日は、アケミの教室か……非常に残念に思いながら、俺とオッツーはゆきの背中を見送った。 「ねぇ、ねぇ、アケミちゃん。これ、どこから食べる?」  ゆきは、カバンの中からお菓子の包みを取り出した。 「あー、ひよこ! 九州のお土産? ひよこって、福岡だっけ? 東京だっけ? どっちでもいっか...
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天国にいちばん近い島

初めてのデートの夜。 「あのねぇ、行ってみたい島があるの。三縁さよりさんの住む町から近い所に……」  のんがつぶやく。 「島ですか?」  俺が答えると、のんは、慌てて話の矛先を変えた。 「あ、初対面なのに、ごめんなさい……ほら、見てみて、シロクマさん!」  細くて白い指先がシロクマの姿を追っている。俺は指しか見てないけれど……。 「いつか、一緒に行けたらいいですね」  今からでも、行きましょう! それが、俺の本心だった。でも俺は、その言葉が言い出せなかった。 「……うん」  のんは頬を赤く染めた。  素直に自分の気持ちを伝えられたら……。でもこれが、今の俺には精一杯だった。俺たちは付き合ってい...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

ツクヨ誘拐事件

オッツーは怒っていた。 怒りに身体を震わせていた。  俺たちの目の前でツクヨが車に連れ込まれたのだ。今の日本で、こんな田舎で、こんなことが起こるのか? いったい、この国は、どうなっちまったんだ!!!  車の後部座席から窓を叩くツクヨは、泣いているより絶叫だった。走り出す黒バンを条件反射で俺とオッツーとで追いかける。身体能力を比較すれば、俺が並みでオッツーは化け物だ。あいつの脚力は、本気を出さずともチャリで時速60キロを軽く超える。クロックアップしなくても、あの黒バンには決して負けない。そして俺たちは、この町を知り尽くしている。  俺たちから、逃げ切れるわけがない!  チャリのハンドルにスマホを...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

それぞれのバレンタイン

今日は、全国的にバレンタインの前日だった。  都会ではデパ地下が揺れる日らしい。けれど、こっちじゃマルナカがざわつく程度のことである。そして、俺にもオッツーにも無縁の日なのだからどうでもいい。  俺たちにチョコをくれるのはゆきだけである。毎年ゆきは、1粒だけチョコをくれる。ジャン=ポール・エヴァンのバレンタイン限定チョコだ。ゆきがパパに渡すついでに同じのをもう一箱買うのだ。それを、ママと一緒に食べている。俺たちのチョコはおこぼれである。だがしかし、これは、貴重なおこぼれだ。 「はい、お・す・そ・義理♡ 先生に見つからないでね」  バレンタインの朝。そう言って、ゆきはチョコを渡すのだ。義理とはい...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

ツクヨちゃんの富士山アポロ

オッツーと学校の門を抜けるとツクヨだった。  ツクヨと、じいちゃんと、忍しのぶちゃんが立っている。俺たちを見つけると、幼稚園児ふたりがコソコソと話し始める。どうして女の子は、早口でコソコソと喋るのだろう……それがいつも不思議だった。 「どうしたん? じいちゃん」  俺はじいちゃんに訊く。  じいちゃんは、にこにこ笑って何も言わない。じいちゃんの足元で、幼女のコソコソ話が終わらない。お前らそれ、御前会議か? コソコソの合間で「はよ、いけっ!」っと、忍ちゃんの声がする。忍ちゃんはツクヨと同じ幼稚園のモモ組さんだ。俺は忍ちゃんが苦手だった。それは、もうすぐ分かるだろう。 「コソコソ……コソコソコソコ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

はじめてのセルフうどん

日曜日のお昼前。 「おじさーん、まだぁ?」  俺をおじさんと呼ぶんじゃない!  小さな背中に大きなリュック、ツクヨが俺の腕に絡みつく。今日は、これで何度目の催促だろう……。  セルフうどんを食べに行くだけなのに、ツクヨは幼稚園の遠足か何かと思い違いをしているようだ。とはいえ、ツクヨにとって、初めてのセルフうどん。よほど楽しみにしていたのであろう。にしても、このリュック。旅行ですか?のような重装備である。うどんを食べた帰り道。せっかくだから公園でツクヨを遊ばせよう。 「じゃ、ゲンちゃんいこか!」  今日の行先は、うどん屋ゲンちゃんである。 「ツクヨ、いっきまーす!!」  テテテテな感じで、ちびガ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

じいちゃんの一番長い日

男の人が泣いていた……心の奥底から何もかもが湧き出るような涙だった。  幼き俺は、号泣する大人を初めて見た。その涙は、悲しいでもなく、うれしいでもなく。人が抱く感情すべてを、何層にも折り重ねたような涙に見えた。フィユタージュの涙を流しながら、俺の隣で泣き崩れた人。それは、俺の父親おやじ……オトンであった。  ばあちゃんが言っていた。 ───あの人が本気を出したら凄いのよ……。  じいちゃんの部屋にある古びたギター。弦の隙間にピンクのピック。それが、アンバランスさを醸かもしだす。そのギターの音色を俺は知らない。鼻歌混じりで畑仕事。そんな、陽気なじいちゃんだけれど、本当の歌声すら俺は知らない。ギタ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

もうひとつの夏休み

「オレにはな……オレには……大切な仲間がいるんだぁぁぁぁ!!!」  とある夏の日。  少年の叫びがこだました。その声は、悲鳴にも似た叫びだった。  私の名は安藤導しるべ。  この子を将来へと導く男だ。少年の名は、尾辻正義おつじまさよし。友人の間ではオッツーと呼ばれている。風の噂で聞いたのだけれど、そのあだ名には〝おつじ〟の響きと、彼の挨拶が「オッツー(お疲れ)」だったのが起因らしい。立場上、私は彼を尾辻君と呼んでいるのだか……。  では、話を5分ほど前に巻き戻そう。 「もう、帰ってもいいですか?」  ダルそうな声で少年は言う。 「ダメに決まっています」  私は彼を帰さない。一歩たりとも譲歩じょ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

屋島の瓦投げは幼女の恋文

元旦の朝。  俺たち放課後クラブは屋島山上で御来光ごらいこうを拝おがむ。  幼稚園時代から始まったこの行事は、俺たちが中学生になっても続いていた。ゆきは正月に海外旅行の予定がなければ参加した。つーか、いつの頃からか初日の出を拝んでから、ゆき一家はハワイへ家族旅行に出かけるようになっていた。  3学期の始業式。  小麦色の肌をしたゆきがハワイ土産を配るのも、放課後クラブの冬の風物詩になっていた。俺たちは、その日を“マカデミアナッツチョコの日”と呼んで楽しみにしていた。  話は戻って、初日の出。  今年の引率役はオトンだった。初孫の屋島デビューにオトンが張り切らないワケがない。なのに大晦日、オトン...
小説始めました

のんちゃんのブログ王〝025 エンドロール〟

025 エンドロール  友だちと、家族と、恋人と……夜の動物園は賑やかだ。  その人混みに溶け込むように、俺たちの向かう先はシロクマだった。それが、彼女の2度目のおねだりだったから。 「一緒にシロクマさんが見たいです……あ、嫌なら……ごめんなさい……ホッキョクグマの水中トンネルで、シロクマさんが間近に見られて、肉球が……あ、そんなの嫌ですよね……ごめんなさい」  2度目のおねだりは、のんの生声。これはもう、2度目の初めてのおねだりだと俺は思った。 「そんなのお安いご用です」  俺は心の中で叫んだ。100万回だって、喜んで!  白い雪に反射したイルミネーションの輝きが、クリスマスムードを盛り上げ...