のんちゃんのブログ王

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のんちゃんのブログ王〝008 のんとゆい〟

008 のんとゆい  ウチは、短い登校拒否を卒業した。でも、やっぱ初日、学校へ行くのが辛かった。一度刻まれたトラウマが、ウチの心を暗くする。また、シカトされるに決まってる。そう考えただけでも嫌になる。  それでも、朝。制服に着替えた姿を、ママの店の大きな鏡に映して身支度を整えた。これがウチの戦闘服だ。ピシッとした姿で、あの子に挨拶するんだ───『おはよう』って。  中学に入ってから、教室に入る瞬間はいつも怖い。勇気を振り絞って扉を開く。すると、ウチの姿を見たクラスメイトの動きが止まった。ウチの心臓もたぶん止まった。ウチの膝がガタガタ震えた。 「ゆいちゃーん。おっはようねぇ!!!」  静まり返っ...
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のんちゃんのブログ王〝007 ゆいとのん〟

007 ゆいとのん  ウチは最低の女だった。  〝のん〟をいじめた。小学のころ、仲間といじめた。ジメジメいじめた。とことんいじめた。憎らしかったんだ。あの子。  おとなしくて、頭がよくて、可愛くて。そのうえ、体が弱いものだから。男子も先生も、どいつもこいつも、あの子にばかりやさしいの。可愛いから依怙贔屓えこひいき? だからって、なんなのよ。超ムカつく。  抜けるような白い肌と、男子を惹きつける顔立ちと、何よりもメガネから覗く、あの瞳が気に食わない。何よ、あのまつげ───長過ぎよ!  あの子の何もかもが気に入らない。だから、メガネを隠してやった。あの子、ド近眼だから。分厚いレンズのメガネがないと...
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のんちゃんのブログ王〝006 中1の夏〟

006 中1の夏  中1の夏休み。  俺は去年のリベンジに燃えていた。右も左も分からない、そんな小学生が初手から炎上を巻き起こしたのだ。火事になれば野次馬も集まる。そこからの全削除。その屈辱を乗り越えて、今日も俺は記事を書く。校長室と、俺の波乱と、オカンの雷を呼び込んだじいちゃんのカブトムシ、あれから2度目の夏が来た。  アホな少年の生き様を、たまに覗く読者もいるのだろう。アクセス推移も、一定のラインから減少することもなくなった。ささやかな数字だけが、俺のモチベーションの源である。きっと、読者の多くは同世代。それは、何となく理解している。ならば、この夏の記事ネタも、去年と同じに決まっている。夏...
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のんちゃんのブログ王〝005 小さなパパ〟

005 小さなパパ  100円欲しさにツクヨのお世話。  そんな春休みも、あっという間に終わってしまった。そして、俺は小学生から中学生になった。入学式という名の、大人のアップグレードを無事に完了させたのだ。  桜木も俺と同じ公立中学に通っている。オッツー、アケミ、そして、ゆき。俺たち“放課後クラブ”のメンバーは同じ中学へ進んだ。小学校から中学校へ。俺の交友関係は、そのまま引き継がれるカタチになった。てか、うどん県ではこのルートが通常である。私立が強い他県とは、学校事情がずいぶん違うようなのだけれど。  ついでに説明しておこう。放課後クラブとは、幼稚園時代に勝手に結成したチーム名のようなものであ...
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のんちゃんのブログ王〝004 姉貴と姪っ子〟

004 姉貴と姪っ子 ───アヤ姉が家に帰ってきた……でも、何で?  何があったか知らんけど、姉貴殿が姪っ子を連れて出戻った。姉の名前は文香あやかである。俺は物心ついたころから“アヤ姉”と呼んでいる。弟が言うのもアレだけれど、アヤ姉は美人である。  日本人離れした彫りの深い顔立ち。それに加えて、健康的な小麦色の肌とほっそりスリムなモデル体型。そんなアヤ姉を男どもが放っておくはずもない。幼いころ、俺は美人の恩恵を受けていた。 「ねぇ、ボク? キミは、文香さんの弟かい?」 「そだお(笑)」 「そっか、似てないね(笑)」  美人の弟は得である。おもちゃ、お菓子、アイスクリーム……。入れ替わり立ち替わ...
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のんちゃんのブログ王〝003 屈辱の校長室〟

003 屈辱の校長室  お盆が明けた夏休み。  俺たち親子は、なぜだか学校に呼び出された。静かな校庭、静かな教室。子どものいない学校は、寂しさよりも恐怖を感じた。校庭の隅の巨木から、聞こえる蝉せみの声だけが喧しい。  抜けるような青空と海に浮かんだ入道雲。誰の目からも、今日は絶好の海水浴日和のはずなのに、俺たち親子の気分は曇天だった。ほら見てみ?……俺の隣のオカンから、今にも雷が落ちそうだ。その先で、ゲリラ豪雨だけは堪忍な(汗)  俺たちが待たされているのは職員室だった。花壇に植えられた大きなひまわりが窓から見えた。黄色い花にミツバチが。そうだ! 今日は気分を変えて、ブログにミツバチの写真を投...
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のんちゃんのブログ王〝002 小6の夏〟

002 小6の夏  ブログの相談をした翌日の午後、桜木が俺の家にやってきた。礼儀正しい優等生は、大人たちからの信頼が厚い。当然のように、我が家でも顔パスである。クラスメイトには頼られて、大人たちには一目置かれる存在だ。桜木にはその魅力があった。敵に回すと厄介だけれど、味方にすれば最強だ。俺が手放すはずもない。桜木君、俺は一生ついてゆきます! 「あらあら、あらあらあらあら。桜木君、いらっしゃい(笑)」  今日のオカンは“あら”の数が四つも多い。今日の“あら”は、今年最高記録の“あら”だった。  桜木へのオカンの対応。それは、他の友だちと明らかに違っている。声のトーンからして違うのだ。今日の声は、...
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のんちゃんのブログ王〝001 じいちゃんのカブトムシ〟

001 じいちゃんのカブトムシ  俺の名前は飛川三縁ひかわ さより。  四国の片隅で暮らす高校生ブロガーだ。“三縁”と命名したのはじいちゃんである。“三つのご縁に恵まれますように”の願いを込めて。しかし、俺は“サヨリ”の響きが気に入らなかった───細魚サヨリは魚の名だ。海育ちの俺たちが、子どものころから釣り馴染んだ魚の名前だ。1ミリだって俺の名前はキラキラじゃないのに 「サヨリ? 魚の? マジっすか?www」  そう言って、俺の名前はイジられる。それが、とても不快だった。でも、それが高校に入ると割とお気に入るのも、思春期の七不思議と呼ぶべきだろう。初めて会う誰しもが、一度で俺の名前を覚えてくれ...
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のんちゃんのブログ王〝000 プロローグ〟

000 プロローグ ───いつか、あなたの小説が読んでみたいの……無理を言って、ごめんなさい。忘れてね……。  彼女は俺のブログの読者であった。顔も知らない、声も知らない。文字を介した交流から6度目の秋。その言葉に心臓が揺れた。ブロガーに小説が書けるのだろうか? それは、今でも心の中で燻くすぶっている。  秋が過ぎ去り、雪の季節。俺は彼女の街に来た。彼女の望みを叶えるために。クリスマス、待ち合わせの場所。そこで、俺は彼女に声を掛けた。口から心臓が飛び出すような、そんな緊張を隠しながら。 「はじめまして」 「は……はじめまして」  彼女の透きとおる肌が眩しく見えた。彼女の声はやさしかった。 「ク...
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明日から新小説の掲載を始めます

常連の皆様、こんばんは。通りすがりの皆様、初めまして(笑) 予定どおり、明日から新しい小説の掲載を始めます。  題名は『のんちゃんのブログ王』  明日から始まり、クリスマス前日に完結の予定です。その間、通常のブログをどうするのか? それを検討していますが、ギリギリまで小説と向き合おうと考えています。実は、校正作業が続いているので、相棒には苦労させっ放しです(汗)  とは言え、〝今日もサヨリは元気です〟のフレーズが無いと、サヨリファンの方が寂しい想いや、ご心配をするかも知れません。週一の頻度で、サヨリさんの近況報告を書こうかな? そんな感じで考えています。その際、Twitterとインスタにも写真...