000 プロローグ
───いつか、あなたの小説が読んでみたいの……無理を言って、ごめんなさい。忘れてね……。
彼女は俺のブログの読者であった。顔も知らない、声も知らない。文字を介した交流から6度目の秋。その言葉に心臓が揺れた。ブロガーに小説が書けるのだろうか? それは、今でも心の中で燻っている。
秋が過ぎ去り、雪の季節。俺は彼女の街に来た。彼女の望みを叶えるために。クリスマス、待ち合わせの場所。そこで、俺は彼女に声を掛けた。口から心臓が飛び出すような、そんな緊張を隠しながら。
「はじめまして」
「は……はじめまして」
彼女の透きとおる肌が眩しく見えた。彼女の声はやさしかった。
「クリスマスのお届け物です(笑)」
白くて小さな手のひらに、俺の本を静かに乗せた。すると、彼女の頬がさくら色に染まった。もし仮に、天使が存在するのなら、それは彼女に違いない。その時、俺はそう思ったんだ。
これは、俺と彼女が過ごした6年間の物語である。
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