のんちゃんのブログ王

日曜日(ブログ王スピンオフ)

もうひとつの夏休み

「オレにはな……オレには……大切な仲間がいるんだぁぁぁぁ!!!」  とある夏の日。  少年の叫びがこだました。その声は、悲鳴にも似た叫びだった。  私の名は安藤導しるべ。  この子を将来へと導く男だ。少年の名は、尾辻正義おつじまさよし。友人の間ではオッツーと呼ばれている。風の噂で聞いたのだけれど、そのあだ名には〝おつじ〟の響きと、彼の挨拶が「オッツー(お疲れ)」だったのが起因らしい。立場上、私は彼を尾辻君と呼んでいるのだか……。  では、話を5分ほど前に巻き戻そう。 「もう、帰ってもいいですか?」  ダルそうな声で少年は言う。 「ダメに決まっています」  私は彼を帰さない。一歩たりとも譲歩じょ...
日曜日(ブログ王スピンオフ)

屋島の瓦投げは幼女の恋文

元旦の朝。  俺たち放課後クラブは屋島山上で御来光ごらいこうを拝おがむ。  幼稚園時代から始まったこの行事は、俺たちが中学生になっても続いていた。ゆきは正月に海外旅行の予定がなければ参加した。つーか、いつの頃からか初日の出を拝んでから、ゆき一家はハワイへ家族旅行に出かけるようになっていた。  3学期の始業式。  小麦色の肌をしたゆきがハワイ土産を配るのも、放課後クラブの冬の風物詩になっていた。俺たちは、その日を“マカデミアナッツチョコの日”と呼んで楽しみにしていた。  話は戻って、初日の出。  今年の引率役はオトンだった。初孫の屋島デビューにオトンが張り切らないワケがない。なのに大晦日、オトン...
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のんちゃんのブログ王〝025 エンドロール〟

025 エンドロール  友だちと、家族と、恋人と……夜の動物園は賑やかだ。  その人混みに溶け込むように、俺たちの向かう先はシロクマだった。それが、彼女の2度目のおねだりだったから。 「一緒にシロクマさんが見たいです……あ、嫌なら……ごめんなさい……ホッキョクグマの水中トンネルで、シロクマさんが間近に見られて、肉球が……あ、そんなの嫌ですよね……ごめんなさい」  2度目のおねだりは、のんの生声。これはもう、2度目の初めてのおねだりだと俺は思った。 「そんなのお安いご用です」  俺は心の中で叫んだ。100万回だって、喜んで!  白い雪に反射したイルミネーションの輝きが、クリスマスムードを盛り上げ...
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のんちゃんのブログ王〝あとがき〟

あとがき  のんちゃんのブログ王を読んでいただき心から感謝しています。友人の誕生日からクリスマスまでの期間。皆様には、楽しんでもらえたでしょうか? それが、少し心配です(汗)  最終話を投稿し終えたクリスマス。この日のために、1本だけ残しておいたスティックコーヒーがあります。それは、相棒からの差し入れでした。そのコーヒーを味わいながら、ポメラに向かって文字を打つ。最後のお仕事が残っています... さぁ、あとがきを書かないと。  あとがきにならないあとがきを……。  書くのが好き、有名になりたい、小説家になるのが夢だから……小説を書く理由は人それぞれ。僕の理由はただひとつ。それが、友人の望みだか...
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のんちゃんのブログ王〝024 エピローグ〟

024 エピローグ  全国的にクリスマスの朝。  彼氏のいない暇なウチは、ママの言いつけでコンビニに向かって歩いていた。クリスマスの朝に、納豆のおつかいだなんて……ムードも何もありゃしない。 ───何してるかなぁ……のんちゃん。  クリスマス色の街を歩きながら、ウチはのんちゃんのことを考えてた。のんちゃん、受験勉強で忙しいかな? でも、高校最後のクリスマスだから、のんちゃんウチに付きあってくれる? ウチはのんちゃんを誘う口実を考えた。  親友と過ごすクリスマス。ケーキとチキン……そうそう、ツリーも飾らなきゃ。想像するだけでワクワクする。  今からでも間に合うよね……のんちゃん。 ───テテテテ...
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のんちゃんのブログ王〝023 のんちゃんのブログ王〟

023のんちゃんのブログ王  クリスマス。  幸運にも、今年のクリスマスは日曜だった。メールでのんに連絡を取ったのは、金曜日の夜である。クリスマス……のんにだって予定があるかもしれない。そんな日に「君に会いたい」ってのも非常識で、どうかとも思った。でも、のんに俺の気持ちを伝えるのはこの日しかない。そんな気がした。土曜日、のんからの返事はなかった。半ば諦めかけた夕方。待ちわびたメールが届く。のんからの返事だった。  メールを開く瞬間、脈打つ心臓の高鳴りが痛かった。 ───こちらこそ、よろしくお願いします。うれしすぎて、お返事が遅れてごめんなさい。  この子は、うれしすぎると連絡が遅れるのか……。...
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のんちゃんのブログ王〝022 手紙〟

022 手紙 ───俺の小説が、みんなに認められた!  喜びに酔いしれている俺を置き去りに、アケミは次のステージへ進んでいた。 「もう、何、言ってんのよ。遊んでる暇なんてないのよ。これからが忙しいの! 入稿準備よ、入稿準備! もう、あんた、分かってる?」  分かってない。 「はい、みんな。赤入れ原稿見せて!」  不安げな俺に向かってアケミが怒鳴る。 「サヨちゃんは、邪魔!」  荒げた声に感動の涙が引っ込んだ。これから何が始まるというのだ? この場面にBGMを流すなら、運動会の“クシコス・ポスト”あの曲だ。赤組がんばれ、白組負けるな! もう、これはリレー直前の様相である。 「これから何やんだよ、...
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のんちゃんのブログ王〝021 俺の小説〟

021 俺の小説  ブログで小説を書く。  その手法に切り替えると、執筆速度が一気に上がった。今までどおりの調子に戻る。どこまでも書ける気がした。これでいいのか? そんなの知らねぇ。これまでブログで培った俺の全てを小説にぶつけた。ワクワクしながらカブトムシの記事を書いたころのように。なんだよ、もう楽しいじゃん(笑)  その翌週。  俺は、最後の小説を桜木に手渡した。前回の審査から、俺と桜木の間に会話はなかった。そして、最終審査の日。俺は初めて桜木に頭を下げた。 「桜木。お前の真意は理解したつもりだ。これで最後の審査をお願いします」  深々と、俺は桜木に頭を下げた。 「分かりました。最後は僕ひと...
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のんちゃんのブログ王〝020 じいちゃん〟

020 じいちゃん  3度目の審査の帰り道。  俺はじいちゃんの畑に寄った。オッツーからの助言もあって、じいちゃんと話がしたくなったのだ。俺には、じいちゃんに悩みを打ち明けた過去があった。 ───ブログをやめたい……。  そう、愚痴った日。  俺は中学卒業を間近に控えていた。俺の愚痴に、いつもトボケたじいちゃんが真顔になった。 「三縁も春には高校生か……」  そう言って、じいちゃんは黙り込んでしまった。しばらくの沈黙の後、決意したように口を開いた。 「この話は、ワシとお前だけの秘密じゃぞ。約束できるか?」 「……」  俺は無言で頷うなずいた。  小春日和の畑のベンチにふたり並んで腰掛けると、じ...
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のんちゃんのブログ王〝019 最高の裏切り〟

019 最高の裏切り  この1週間、俺は休む間もなく小説と格闘していた。人間の脳は、限界を超えると安全装置とやらが働くらしい。水曜日、俺は人生で初めてそれを体験した。何も考えられなくなったのだ。 ───どうなった? 俺の頭……。  予期せぬ脳からの急ブレーキに混乱した。こんなの初めて。全く頭が働いている気がしない。もう、何も考えられない。俺はその感覚に恐怖した。 「俺の頭がこんなんじゃ、今日の更新が不能になるかもしれないぞ……」  その恐怖の矛先は、小説ではなくブログに向かった。俺が最も恐れているのは、ブログの更新が止まることである。  ブログだけは絶対に止められない。のんは心配性なのだ。更新...
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のんちゃんのブログ王〝018 敗北〟

018 敗北 「地の文、台詞、心理描写、情景描写。そいつをどうにかしなさいよ! あんたのはね、分かんないところが多いのよ! 文法がメチャクチャなのよ。 まぁ、そのプロットは面白いけど」  なんだかよく分からんが、アケミの怒りのひとつひとつを思い出しながら、俺は土日返上で手直しをした。何ひとつ、エピソードが加わらないのに、文字数だけが伸びていく。それは足りない描写と台詞を足した結果である。アケミから見れば、讃岐弁主体の日本語文法はメチャクチャなのだろうけれど……。  そんなワケで書き直し。  というよりも、読み直すとアケミの指摘がおぼろげながら見えてくる。アケミの助言を要約すれば、もっと詳しく書...
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のんちゃんのブログ王〝017 男の気持ち、女の気持ち〟

017男の気持ち、女の気持ち  小説を書く。  そうは言っても、俺には致命的な欠陥がある。小説クラスの長文が書けないのだ。これでも6年間、毎日ブログを書き続けた自負もある。だから、文字数伸ばしくらいなら手慣れたものだ。無理をすれば、俺にも長文くらい書けるだろう……でも、書けない。  書けないというよりも、文字数を伸ばすと間延びするのだ。言葉のリズムが間延びして、ノイズが入ってテンポが崩れる。そうやって書いた文章を、後で読み返すと気持ちが悪い。自分で書いた文章なのに嫌になる。  ならば、登場人物を増やそうか? その回避策も考えた。物語に新たな要素が加われば、文字数は勝手に伸びる。でも、それにも問...
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のんちゃんのブログ王〝016 人類滅亡〟

016人類滅亡 ───ひとめ、あなたに。  このメッセージが俺の心臓を激しく揺らした。彼女に会いたい。だた、それだけで旅に出た。二度と生きては戻れない。そんな片道切符の旅であった。  やがて地球に隕石がぶつかる。そして、あっけなく人類の歴史は幕を閉じるのだ。人類滅亡の日まで、あとわずか……。  交通機関は停止した。食料とガソリンの供給も途絶え、頼みの綱のネットも死んだ。ネットの死により、彼女との連絡の道も閉ざされた。それでも俺は、ふたりの仲間と共に旅に出た。今、俺は彼女の街を目指している。  出発の朝。空は抜けるような青さだった。きっと彼女も同じ空を見ているだろう。だってそうだろ? 空はどこま...
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のんちゃんのブログ王〝015 放課後クラブ〟

015放課後クラブ  桜木は、俺のベッドの上で小難しげな本を読んでいる。アケミはチュッパチャップスを口にくわえながら、スマホで動画を鑑賞している。きっと、あれだB……いや、書くのはやめよう。  オッツーはツクヨと格闘ゲームの対戦中。ゆきは趣味の編み物だ。きっと、これはゆきパパへのクリスマスプレゼントになるのだろう。庭の噴水のためだ、がんばれよ!  このカオスの中に、わずか10歳のツクヨが溶け込んでいるのも不思議である。それにしてもだ。たった6畳の部屋に、これだけの人間が入るものだ。彼らには、きっとパーソナルスペースの概念などないのだろう。どう見ても家族である(笑) 「プレゼントに小説だなんて、...
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のんちゃんのブログ王〝014 オッツーの変身ベルト〟

014オッツーの変身ベルト ───はじめまして、ゆいです。ぶしつけですが、折り入ってカブトムシさんにご相談があります……。  旅乃琴里たびの ことり、桜木、のん、そして───ゆい。  揃いも揃って、俺に小説を書けと言う。正直、俺は困っている。書くべきか、書かざるべきか。そもそも、俺に小説が書けるのか? いや、書けないに決まってる。  今の俺の実力。それを総動員しても、書ける気が全くしない。クリスマスまでの時間もない。ツクヨに作ったお話とはワケが違う。文字数の壁もある。小説に必要な文字数は、俺の書く記事の50倍だ。下手すりゃ100倍。絶望的な文字数に腰が引けた。どう考えても無理ゲーだ。  プロッ...
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のんちゃんのブログ王〝013 後悔〟

013後悔 「ふ~」  今までの秘めた願いをメールに書いて、サヨリに飛ばした数分後。部屋の片隅でうつむきながら、のんは大きなため息をついた。勇気を出したお月様への願いごと。のんはそれを心から後悔していた。サヨリへの初めてのおねだり。月に手を伸ばした自分が、急に怖くなったのだ。 ☆☆☆☆☆☆  なんかねぇ、書いちゃった。  なんかねぇ、おねだりしちゃった。  いつか、あなたの小説が読んでみたいの。  それをずっと言いたかったの。初めてあなたのブログを見た日から。消えちゃったけど、カブトムシが炎上したころから思ってた。自分では気づいていない、隠れたお月様の才能を。わたしは、ずっと伝えたかった……。...
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のんちゃんのブログ王〝012 願い〟

012 願い  俺のブログはたまり場だった。  俺の記事など大喜利のお題にすぎない。本文よりもコメントが長文。そんなブログも珍しい。俺のブログに旅乃琴里たびの ことりが降臨してから、ブログの舞台はコメント欄に奪われた。それでも俺は楽しかった。それを、みんなも楽しんでいる。だから、上出来なのである。ただ喜んでばかりもいられない。人の集まるところには、必ず悪も集まるものだ。  正義の味方、オッツーよ。ここは、お前の出番だぞ(笑) ───広告掲載しませんか?  しませんよ。 ───儲かる方法を知りたいですか?  お前が儲かる話でしょ?  そんな悪徳業者からのお誘いコメントも日常だ。きっと、俺の記事も...
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のんちゃんのブログ王〝011 かぐやちゃんとお月様〟

011 かぐやちゃんとお月様  毎日、文字を介して会話をしている人がいる。顔も知らない、声も知らない。住んでる場所も、ホントの名前だって何も知らない。知っているのは〝のん〟という、HN(ハンドルネーム)だけの女の子。  初恋と呼ぶには幼くて、友だちと呼ぶには遠い人。その距離は縮まることなく、俺たちの関係は平行線を辿っていた。読み手と書き手。ただそれだけの関係だ。中学から、それだけが繰り返されている。その中で確信したことがひとつあった。 ───のんは可愛い。  見たことないけど、とても可愛い。そう、俺は勝手に思ってる。のんは俺のブログに足跡を残した。のんとは、中1の秋からの付きあいである。まぁ、...
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のんちゃんのブログ王〝010 ポメラ〟

010 ポメラ  あのコメントは本物だった。  旅乃琴里たびの ことりが書いたのだ。その事実が発覚したのは、コメントが書き込まれた翌日である。ご丁寧に、出版社からの謝罪メールが届いたのだ。俺のブログは、余程の炎上っぷりだったのだろう。その対応の早さに驚くばかりだ。 ───先日の書き込みは、旅乃琴里本人によるものです。大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申しあげます。つきましては、旅乃琴里からの書き込みの削除をお願いいたします。  謝罪という名の削除依頼だった。  けれど、あのコメントが本人だったとは……。俺は、優秀なスタッフに旅乃琴里が守られていることを理解した。都市伝説だと思われていた旅...
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のんちゃんのブログ王〝009 ラノベ作家 旅乃琴里〟

009 ラノベ作家 旅乃琴里  俺たち放課後クラブのメンバー全員、無事に中学を卒業した。そして今、高3の2学期を過ごしている。その間、誰ひとり恋愛成就を為し得なかった。それがとても残念である。  のんがいる俺だけを除いてな(笑)  俺は、炎上チャンスを狙うブロガーになっていた。そんな俺のブログに大事件が起こった。有名人からのコメントが入ったのだ。コメ主は、今をときめく旅乃琴里たびの ことりだ。さしずめ、村の盆踊りにトップアイドル登場である。予期せぬスターの降臨に、俺のブログは萌えに燃えた。  俺だって暇じゃない。年がら年中、ブログをチェックしているわけでもない。コメントを読むのは就寝前だと決め...