のんちゃんのブログ王〝016 人類滅亡〟

小説始めました
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016 人類滅亡

───ひとめ、あなたに。

 このメッセージが俺の心臓を激しく揺らした。彼女に会いたい。だた、それだけで旅に出た。二度と生きては戻れない。そんな片道切符の旅であった。

 やがて地球に隕石がぶつかる。そして、あっけなく人類の歴史は幕を閉じるのだ。人類滅亡の日まで、あとわずか……。

 交通機関は停止した。食料とガソリンの供給も途絶え、頼みの綱のネットも死んだ。ネットの死により、彼女との連絡の道も閉ざされた。それでも俺は、ふたりの仲間と共に旅に出た。今、俺は彼女の街を目指している。

 出発の朝。空は抜けるような青さだった。きっと彼女も同じ空を見ているだろう。だってそうだろ? 空はどこまでも繋がっているのだ。旅立ちの空に俺は誓う、キミの街に必ず行くと。そして、キミを必ず探し出すと……。

 遠い未来。

 俺のポメラが発見されたなら。そして、その世界に知的生物がいるのなら。かつて、この星に人類がいたことを知ってほしい。そして“愛”という言葉があったことも。これは、俺が命を懸けて仲間と旅した記録である。

 人類滅亡まで、あと10日。

───じゃねーわ!

 この二日、俺は机の上でもがいていた。もがけばもがくほど何か違う。俺は自分の脳味噌と格闘を繰り返す。でも違う、何かが違う。この物語をモノにしよう。そう、足掻あがいた結果がこれである。

 物語を読み返すほどに、俺の心がコテンパンにボコられた。書き始めは天才なのに、読み返せば凡人だった。テーマの根本が違うのだ。執筆ゾーンの世界から、我に返るといつも思う。

───これって、おもろいか?

 何度、読み返しても結論は同じだった。この物語は成立しない。バッドエンドになってしまう。ヒロインからフラれる未来。そんな、バウムクーヘンエンドの方がまだましだ。自分で書いた物語を読み終えると、感動よりも絶望だった───残念だけれどボツである。

 だって、これはのんへのクリスマスプレゼントなのだから。登場人物皆殺しの物語に、何の意味があるのだろう?

───辛い時は飯を食え。

 これは名言だと俺は思う。その言葉を俺に教えてくれたのは、桜木ではなくオッツーだった。心が塞ぎ込んだ時、飯を食えば元気が戻る。このオッツーの言葉に嘘はない。俺は、新聞紙に包まれた焼きいもを頬張った───うん、うめぇ……。いつだって、じいちゃんのいもは激ウマだ。焼きいもは、じいちゃんからの差し入れだった。

「オッツー君から話を聞いたぞ。小説書きは茨の道じゃ。でも、ワシの孫なら絶対書ける。筆を折らずにがんばれよ」

 じいちゃんは、小説を書いたような口ぶりだった。

「じいちゃん、小説なんて書いたことあるの?」

 俺は素朴な疑問を投げかけた。

「さぁ、どうだったかのう……」

 じいちゃんは、トボケた顔で俺の質問をはぐらかす。

「ほんだらの」

 俺との会話を避けるように、じいちゃんは、愛車のスーパーカブに跨がりエンジンを掛けた。“ほんだらの”とは、若い俺たちも使う言葉だ。讃岐さぬきの方言で“じゃ、またね”を意味する。

 カチカチと右へ曲がるウインカーを点滅させながら、ゆっくりとスーパーガブが走り出す。その後ろ姿を見送ると、じいちゃんの背中が泣いているように見えた。なぜ、そう見えたのか? その時の俺が知るよしもない。

 焼きいもを頬張りながら、俺は書きためた文章を全て消した。いもは美味いが書き直しである。俺にヒントをくれたツクヨに、なんて言い訳をすればよいのだろうか……。

 ゆるせよ、ツクヨ───全消去。

「あ~あ……」

 ため息だけが俺の部屋を支配した。俺の小賢こざかしい妄想よりも、俺の現実の方がドラマである。だってそうだろ? 旅乃琴里たびの ことりが俺のブログへ降臨してから、俺の世界線が大きくズレた。

 ラノベ界のプリンセス。その影響力は計り知れない。俺の目の前に、あるはずのない世界が広がったのだ。書くはずもない小説を、のんの願いに突き動かされて、旅乃琴里のポメラで書いている。

 これこそがドラマである。

 旅乃琴里のハガキに書かれたように、俺に才能の欠片かけらがあるのなら、このポメラで書き切ってやる。心温まる絶望的なドラマにならぬように。考えろ、考えろ、考えろ。砂漠の砂から一滴の水を絞りだすように。必死に俺は、物語の糸口を探していた。歯がゆい時間だけが過ぎていく……。

 そして、3日後。

 人類滅亡とは、また別の新たな物語を引っさげて、俺は放課後クラブの審判をあおぐと決めた。新しいプロットは輪廻転生ものである。ありがちな設定だけれど、未来ではなく、主人公が過去へと転生する物語。現代医学ではどうにもできない運命と叶わぬ恋。その恋を叶えるために、主人公は過去への転生を試みる。一度経験した過去の世界で、主人公は愛する人と同じ時間を歩み始めた……。

 そんな心温まるファンタジー。

 恋バナ好きなゆきには受け入れてもらえそうだ。桜木はテーマについて何も問題視などしないだろう。仮にこれが推理小説だったとしても、客観的な判断を下す男だ。

 最も手強いのは、現実主義のアケミである。竹を割ったような性格に見えて、小説には繊細な一面を見せる。つまり、アケミ越えなくして、俺の小説の完成などあり得ないのだ。

───男の気持ち、女の気持ち。

 ぼんやりと、俺はアケミの武勇伝を思い出していた……。

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